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ULTRA-TRAIL Mt. FUJI なぜ160キロも走るのか? 「UTMF」で垣間見た、厳しくも美しいウルトラトレイルの世界。

1.フルマラソン4回分以上!? 起伏の激しい富士山麓をぐるりとまわる過酷なコース。
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UTMFの特徴のひとつは、富士山をぐるりと一周するコースレイアウト。距離は100マイルで、キロに換算すると約168.6キロ(※1)に及びます。単純計算でフルマラソン4回分にあたりますが、フルマラソンとの違いは、フラットな道路ではなく、アップダウンの激しい山の中を走ること。トータルでどれだけ登ったかを示す「累積標高」は約8,337m(※2)。これはエベレスト級の山に麓から登頂するのに匹敵します。

ちなみに「100マイル」という距離は、トレイルランニングのロングディスタンスレース、通称「ウルトラトレイル」における世界的な基準値にもなっていて、欧米では数多くの100マイルレースが開催されています。

※1、2:大会直前の悪天候によりコースの一部が変更され、距離と累積標高はそれぞれ170.3キロと7,889mに修正された

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木々が鬱蒼と生い茂る富士の樹海もコースの一部。

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勾配がきつく、足場の悪い砂礫を登るランナーたち。登りは歩く人も少なくない。
Photo_ Sho Fujimaki

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コースはすべて山の中というわけではなく、一部ロード区間も走ります。

2.エントリー条件が厳しい。スタート地点に立つだけでもすごいことです。
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ロードのマラソン大会、たとえば東京マラソンは応募倍率が10倍を超える人気大会ですが、エントリーだけなら誰でもできますよね。しかしUTMFは違います。過去約2年のあいだに「エントリー資格レース」に出場・完走し、規定の「ポイント」を獲得しなければ、エントリーすることができません。

そのような条件を設けているのは、100マイルトレイルレースが一昼夜(あるいは二昼夜)に渡って山岳地帯を走り続けるという特殊かつ過酷な競技であり、その厳しさを自ら克服したうえで制限時間内に完走する能力があるかどうかを判断するため。

規定のポイントを獲得したうえでエントリーしても、例年、募集定員(2015年は1400人)に対して応募数が上回るため、出場者は抽選で決められます(2015年は2倍強)。つまりUTMFは、出るだけでもすごいこと。そのスタート地点に立っているのは、過去に数々のトレイルレースを完走した経験と実力、そして強運を兼ね備えた猛者たちばかりなのです。

3.制限時間は46時間! 夜通し走るため「ヘッドランプ」は欠かせません。
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UTMFの制限時間は46時間。スタートからゴールまで、トップ選手でも20時間ほど、大半の選手が30〜40時間ほどかかります。そのため、必然的に夜通し走ることを余儀なくされます。山の中には街灯などは当然ないので、日没から夜明けまで、ランナーはヘッドランプを装着して走ります。

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暗闇の中から、ヘッドランプの灯りが迫ってくる!

ちなみに、UTMFに出場するランナーは「ライト2個と、それぞれの予備電池」を持つことが義務付けられています。真っ暗闇の山の中で故障やバッテリー切れを起こしてしまうと、身動きが取れなくなってしまい、場合によっては命の危険にさらされるおそれがあるからです。

他にも、水、食料、サバイバルブランケット、携帯トイレなど、ランナーが携行するべき様々な必携品があります。レース前とレース中に必携品のチェックがあり、ひとつでも欠けていた選手はその場で失格となります。

4.景色がすごい! 刻々と変化する富士山の絶景が見られる。
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Photo_Kaz Nagayasu

富士山麓がコースとなっているUTMFは、富士山の雄大な景色を堪能できるのも魅力のひとつ。2015年大会は残念ながら悪天候に見舞われ、富士山は雲に隠れっぱなしでしたが、二日目の早朝、一瞬だけその姿をのぞかせました。

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富士山をバックに走る、リトアニアのジェディミナス・グリニウス選手。
今年の優勝選手です(タイムは20時間40分58秒)。Photo_Kaz Nagayasu

5.エイドステーションが充実。ご当地グルメも食べられる!
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コース上には10〜20キロおきに「エイドステーション」と呼ばれる休憩所が設置されていて、選手たちは疲れた身体を休めることができます。そこでは水やスポーツドリンクを補充できるほか、各市町村が自慢のご当地グルメを提供。地元の人たちによって振る舞われる美味しい食事が、選手たちの心とお腹を満たしていました。

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「A1 精進湖民宿村」ではすいとんを提供。外国人選手たちも美味しそうに食べていました。

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「A3 富士宮」では、名物富士宮焼きそばが。ジュウジュウ焼けるソースの香りがたまらない!

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一方、エイドステーションではこんなシーンも……。選手たちが身体を横たえて休息をとる仮眠所は、まるで戦場の野営地のような異様な雰囲気。今回のUTMFは悪天候の影響もあって歴代でもっとも過酷な大会となり、完走率は過去最低の41.5%にとどまりました。

6.メキシコの秘境に暮らす山岳民族「タラウマラ族」も走った!
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UTMFには世界中から数多くの選手が集まります。今回は参加者1409人のうち、393人が外国人選手でした。特に目玉となったのは、メキシコの山岳民族「タラウマラ族」のアルヌルフォ選手(写真右)とシルビーニョ選手(写真左)。

彼らはベストセラー書籍『BORN TO RUN』に登場するレジェンドであり、遠く離れた日本でどれほどの活躍を見せられるか、大いに注目を集めました。

そして気になる結果は……シルビーニョ選手がA3(69.6キロ)で、アルヌルフォ選手がA4(90.4キロ)で、それぞれ残念ながらリタイア。山ならどこまでも走れる彼らですが、想像以上にロードの区間が多かったことが、彼らの足に思わぬダメージを与えたようです。

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アルヌルフォ選手の足元(写真中央)は、裸足にワラーチ!
計測用のICチップはくるぶしにヒモで巻きつけています。

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下りを颯爽と走るシルビーニョ選手。彼の足元はランニングシューズでした。

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