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「MASTERS AT WORK in JAPAN -It’s Alright, I Feel It!-」 に寄せて––––自叙伝としてのハウス・ミュージック

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サルサやラテンを背景に持ちグラミー賞も獲得しているルイ・ヴェガ(Louie Vega)と、ヒップホップやレゲエなどのサウンドで、ストリートから強烈な支持を受けているケニー・ドープ(Kenny Dope)による史上最強のユニット、MASTERS AT WORKが10年ぶりに日本へやってくる。そこで今回、イベント開催に先駆けて、自身もDJとして参加する「BEAMS RECORDS」のディレクター、青野賢一氏が、MASTERS AT WORKへの想いをここに綴る。


 MASTERS AT WORK(以下、MAW)の音楽に最初に触れたのはいつだっただろうかと彼らのディスコグラフィーをひもといてみると、1991年にリリースされた12インチ・シングル「Justa “Lil” Dope / Our Mute Horn」(Cutting Records)であった。DOPE SIDEと名付けられたA面にはレゲエ・フレイヴァーのあるボトム・ヘヴィーなヒップホップ・トラック、B面のMADD SIDEにはミュートしたトランペット・ソロ(レーベル面には”Mute Horn Solo by Ray Vega is Dedicated in Memory of Miles Davis”と記されている)を全面的にフィーチャーしたハウス・トラックが収録されている12インチだ。同じ年に出た12インチ「KENNY ‘DOPE’ presents POWERHOUSE 3」(Nu Groove Records)もリアルタイムで入手したのを覚えている。当時、つまり90年代初頭のダンスミュージック・シーンを振り返ってみると、ハウス・ミュージックが加速度的に浸透した印象があった(自分のいた現場がそういう傾向が強かったというのもあるが)。

 東京についていえば、’89年、芝浦にオープンしたクラブ「GOLD」のメイン・フロアでは開店当初からハウスがプレイされていたし、’91年にオープンした西麻布「YELLOW」もハウスを中心とした箱だった。個人的な話で恐縮だが、私がDJを始めたのが’87年。その頃はレア・グルーヴ、ソウル、ヒップホップ、ハウス、ワールド・ミュージック、ポップスなどのレコードを買っていたが、クラブでプレイするときにはハウスとガラージ・クラシック(故ラリー・レヴァンがレジデントDJを務めたニューヨークの伝説的ディスコ「パラダイス・ガラージ」でプレイされていた曲)が中心だった。スクラッチが上手く出来なかったというのもあるが、曲を重ね、時間をかけてグルーヴを組み立てるハウスは聴いていて心地よかったし、音楽の世界に没入することが出来た。そんなわけですっかりハウスの虜になっていたのである。ちなみに先の「パラダイス・ガラージ」については、ジャズ雑誌『アドリブ』の中の「ニューヨーク・ホットライン」という連載ページにきまぐれに掲載される過去のガラージ・ヒットチャート(パラダイス・ガラージは’87年にクローズしている)のコピーを持って、中古レコード屋に買いに行っていたのだった。

 ‘90年前後のハウス・シーンで人気の高かったDJ、リミキサーを挙げると、フランキー・ナックルズ、デヴィッド・モラレス、トニー・ハンフリーズ、トッド・テリーといったところが代表格だろうか。それからC+Cミュージック・ファクトリーと名乗る前のロバート・クリヴィルス&デヴィッド・コール。’70年代からリミキサーとして数々の名作を世に送り出したシェップ・ペティボーンはこの頃にはマドンナの「VOGUE」を手がけている。’89年にリリースされたチャカ・カーンのリミックス・アルバム『Life Is A Dance – The Remix Project』に参加している面々を眺めると、この頃人気だったリミキサーがよくわかる。

 前述のDJ、リミキサーが携わった楽曲はダンスフロアでも人気があったが、メジャー・アーティストの曲も少なくなかったので、ずっとそうしたものばかりかけているわけにはいかない。そこでDJはよりアンダーグラウンドな作品や、あまり知られていないであろう曲をDJセットに組み込み、それぞれのスタイルを作ってゆくことになる。それに呼応するように、良質なダンスミュージックを供給するアンダーグラウンドなレーベルが幾つも登場した。冒頭に挙げた「Justa “Lil” Dope / Our Mute Horn」の〈Cutting Records〉と「KENNY ‘DOPE’ presents POWERHOUSE 3」の〈Nu Groove Records〉は、そうした中でもパル・ジョーイの〈Loop D’ Loop〉などと並んで抜群に信頼度の高い、いわゆる「レーベル買い」が出来るレーベルであった。おそらくは、この2枚も「このレーベルだったら間違いないだろう」と思って買ったのではなかっただろうか。ともかく、そうして手に入れたMAWの12インチはなんともフレッシュな印象だった。とりわけ「Our Mute Horn」は、ガラージ・クラシックとして知られるVisual「The Music Got Me」をサンプリングしつつ、スウィング感のあるハイハットが醸し出すグルーヴとその上に乗るトランペットが絶妙なバランスを保っていて、ある程度フォーマット化が進みつつあったハウス・ミュージックの中でも異彩を放っていた。初期ハウスは、ドラムマシン、サンプラー、安価なシンセなどを使って制作した、言い換えればすべての素材をライン録音で制作したものが多く、ある種のDIY感覚を備えたものであったが、「Our Mute Horn」の最大のポイントは生演奏がフィーチャーされているところだろう。この特徴は、のちのティト・プエンテ「Ran Kan Kan」(Elektra/1992)やNuyorican Soul名義での諸作、あるいはルイ・ヴェガのElements Of Lifeへと繋がっている。

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左:ルイ・ヴェガ、右:ケニー・ドープ

 MAWの音楽が特別なものであるのは、ケニー・ドープとルイ・ヴェガ、それぞれの個性に異なる領域があって、それが化学反応を起こすということに起因している。これは二人の出自や育った環境によるところも少なくない。父がジャズのサックス奏者、叔父にサルサ・バンド、ファニア・オールスターズのボーカリストのひとり、エクトール・ラヴォーがいて音楽的に恵まれた環境にあったルイ・ヴェガと、ブルックリンに生まれ、10代前半のとき地元のブロック・パーティーでヒップホップのビートを吸収し、’80年代後半にはマイク・デルガドとともに「Masters at Work」という呼び名のパーティーをオーガナイズ、そこでトッド・テリーと出会って親交を深めたケニー・ドープ。このふたつの個性––––サルサ、ジャズ、ハウスとヒップホップ、レゲエ、ソウル––––がトッド・テリーの紹介によって引き合わされ、’90年よりルイ・ヴェガとケニー・ドープはMAWとして活動を開始することとなった。最初期の作品はフォーマットとしてのヒップホップとハウスが比較的はっきりと分かれていたが、’93年にMASTERS AT WORK present Nuyorican Soul名義でリリースした「The Nervous Track」ではジャジーなベースラインと野太いブレイクビーツが絡み合いコンガの乱れ打ちが鳴り響くという、二人の持ち味ががっぷり四つに組んだスタイルを披露。’96年にリリースされたNuyorican Soulのアルバム『Nuyorican Soul』(Talkin’ Loud/Giant Step Records)でそのサウンドは見事に確立された。MAW名義での作品、リミックス・ワークではこれぞハウスといった四つ打ちのものも多いが、ケニー・ドープの色が出たビートのマッシヴさは他に類を見ない。

 作品だけでなくDJセットにおいてもMAWは各自のカラーを存分に発揮しながら祝祭空間を創り上げてゆく。ルイ・ヴェガのDJスタイルは、ラリー・レヴァンやティミー・レジスフォードを彷彿とさせるアイソレーター使いで曲をエモーショナルに聴かせる。いわば、ガラージ直系のDJスタイルだ。一方のケニー・ドープはどっしりと構え、ときおりエフェクターでアクセントを加えるといったところ。かつて実際にプレイを体験した際は、ケニー・ドープはハウス・トラックを二枚使いしてブレイクビーツのようにかけていて、実にヒップホップだなぁと思ったものである。こうしたプレイ・スタイルの違いが彼らのDJに独特のダイナミズムを与えているのだが、異なるスタイルをひとつのDJセットとして聴かせるだけの繊細な配慮とスキルが必要とされるのはいうまでもないだろう。

 一口にハウス・ミュージックといっても、それを構成するエレメンツは様々。ソウル、ジャズ、ディスコ、ロック、ニューウェーヴ、はたまたヒップホップやアフロ、レゲエ、ダブなどのエッセンスをどのように曲中に取り入れ表現するかは、時代のトレンドという側面もあるが、それをはるかに上回るパーソナルな問題である。元来が雑食的であるハウス・ミュージックは、その意味において楽曲の作り手やDJの自己表現に適したダンス・ミュージックだ。踊りの足を止めさせることなく、自身の嗜好や経験、さらには生まれ育った環境や交友関係までも内包するハウス・ミュージックは、いわば自叙伝のようなもの。流行り廃りを超え、自分の思いを込めてプレイするDJに説得力があるのはこうしたところからであり、何時間にもわたるロング・セットが採用されるのも、まさにハウス・ミュージックの自叙伝的性格からのことではないだろうか。MAWについていえば、楽曲制作、そしてDJと、自身の表現が二重に存在する上に、二人組みであるからその広がりたるやいわずもがなであろう。今回のageHaではどんなストーリーを紡いでくれるのか? ライティングでMAWのストーリーを彩るアリエルとのコンビネーションも含め、楽しみでしかない。そしてMAWだけでなく名実ともに日本が誇るDJ陣がその人でしかなしえないDJプレイを披露してくれるはずである。かつてDJハーヴィーは何かのインタビューで「週末のDJパーティーは7割がエンターテインメント、3割はエデュケーション」と発言していたが、「MASTERS AT WORK in JAPAN -It’s Alright, I Feel It!-」はまさしくそんな内容になるのではないだろうか。エデュケーションといっても堅苦しいものではなく、曲やプレイから伝わる思い、未知の音との出合い、そして音楽体験を通じた自身の心の変化だって立派なエデュケーション。楽しい記憶とともに必ずやなにかを持ち帰ってもらえるパーティーになるに違いない。親愛なる皆様、2016年11月19日は新木場でお会いしましょう。

Text_Kenichi Aono
Edit_Masaki Hirano, Jun Nakada


PRIMITIVE INC. 10th Anniversary × ageHa 14th Anniversary
MASTERS AT WORK in JAPAN -It’s Alright, I Feel It!-

日程:2016年11月19日(土)
時間:START 14:00 / END 21:00
会場:新木場ageHa
チケット:DOOR ¥5,800、ADV TICKET ¥5,300、Group Ticket ¥22,500
出演者:Masters At Work / Ariel(ライティング) / DJ NORI / FORCE OF NATURE / HIROSHI WATANABE a.k.a KAITO / やけのはら / MONKEY TIMERS / 井上薫 / 高橋透 / Dazzle Drums / DJ YOGURT / INNER SCIENCE / Midori Aoyama / 青野賢一 / LO:BLOC a.k.a DJ SODEYAMA / DJ KENSEI / 沖野修也 / YOSA / DJ SHIBATA / XTAL / DJ YOKU / 橋本徹 / peechboy / 宇川直宏
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