紙飛行機で宇宙旅行。 --ものについて。時々酒と、下ネタと。--
Ray and LoveRock
「写真を撮る人」
Ray and LoveRock(れい あんど らぶろっく)写真を撮る人、ファッションエ ディターでもある人。フツウの人ではありますが、生きることはどちらかという と下手です。文章もロックンロールしていければ良いなぁ。「ものや写真、少し はカルチャーのことなんかを書いていきたいですが、お酒のこと、下ネタも好き なんで、お付き合いください」
http://blog.livedoor.jp/rayandloverock/
夜は愉し。
2012.05.16

歴史は夜つくられるという。
それは、老い先短い政治家が料亭で芸者をあげ、ろくでもない企みを「がはは」と話している時かもしれないし、媚びへつらいのために、自分と同趣味の大物代議士にSMパーティを誘い、鞭だの、蝋燭だの、鉄の籠だの、亀甲縛りだのに興じ、「ういやつ」だなどと思われることに躍起になっている時かもしれないし、どこぞの好いたらしいワインバーだかなんだかで、赤ワインはピノが良いだの、ボルドーが云々などとこれ見よがしに話しながら、ワイングラスをぐるぐるして酸素をワインに与えている間に自分の酸素もなくなって、自分の目が回り、ついでに会社もぐるんぐるんかき回してしまう会社社長や役員がぐでんぐでんになる時かもしれないし、もちろん、男と女がセックスをして、新たな――そして未来を作る――子を孕む瞬間かもしれない。
いずれにせよ、フェリーニの「甘い生活」ではないが、夜とはまた、ひとつの麻薬なのである。
夜だから、夜のおかげで、夜の力を借りて、できることだってあると思う。そんな力を借りて、見事カップルになった読者もいるだろうし、ご結婚されたカップルもいると思う。そういう方々には、おめでとう! ぱちぱち。
あのとき、あの時間が、日中のなんだか健康的な時間だったら、おそらくその幸せはないんじゃないか、と思うのだけれど、いかがなものでしょう?
夜のしじまに囁く声が聴こえる。愛とか、恋とか。そんなこと。結局のところ、エロといっても過言ではない、そんな部分が夜になるとガバッと、とても素敵に見えるときが来るのだ。スキー場で女子が2倍きれいに見えるみたいに。
その日、は「キスの夜」だった。
8時に少し前に、銀座の街角でイタリア人っぽい男と日本人だとほぼわかる女のキスシーンにすべては始まっていた。
その前に、ぼくはドアノーの有名な街角のキスシーンも見ていたので、キスを見つけることが誰よりもうまくなっていたのかもしれない。そして渋谷に向かっていた。
渋谷駅では、ハグする若いカップル。ライトなキッスをしている。
ん? いまぼくはまったく自然にキーボードを打っていたのだけれど、なぜ4番ライト松井な時だけ「キッス」なのだ? あくまでも「キッス」はハードロックだと思うのだけれど。
言葉の感覚とは恐ろしいもので、ベラチューとでも言おうか、ディープな感じは基本「キス」と書きたい。それがたとえディープキッスといわれようがディープキスであってほしいのだ。また、接吻、口づけの類いも「キス」と訳して欲しいところだ。
そして、チュッみたいなライトな感じ――挨拶ていど、緊張半分な――もしくは檸檬の味がしそうなやつは「キッス」な気がするのは、筆者だけなのだろうか?
話の腰を自分で折ってみたわけだが、いかがなものだろうか? 読んでいただいている読者の皆さんも、すっかり何を読んでいたか、忘れているに違いない。ボケ防止にもぼくの文章が役立つというわけだ。まあ、なんというか、ボケまくっていますよ。忘れることが多すぎて多すぎて。ボケ老人も真っ青なくらいいろいろ忘れています。
さっき話したことを忘れ、さっきあった人を忘れ、というより、もともと記憶という名の曳出しに何も入れていなかっただけなのかもしれない。
そんなわけで、渋谷の飲み屋のガラス張りのカウンターに目をやると、そこでも軽くキッスである。
フリーセックスならぬフリーキッスの国、それがニッポン。ま、つーことはフリーセッ○スなんだろうな。
飲んでるところは安くて美味しい焼き鳥屋だったから、デート人口も多いはずがなく、ぼくらみたいにゲイ並みに男同士が好きなやつら、そして会社帰りの会社員がほとんどという店。そんな店から窓の外を見るとなしに見る。打ち合わせもしているから、チラ見。
がーん! やっぱりキッスな夜。何も夜の遊び場案内所(つまり風俗案内所)の入り口でベサメムーチョしなくても......。
どこまでもフリーキッスな国ニッポン。日本の未来を憂うおれ。48歳。どうなんだニッポン? って20年前からなんも変わらないか!?
まあ、大体堂々としているよね、キッス。渋谷駅までの帰り道、もうふたつ、みっつキスシーンを見たけれど、最後が極めつけ。
就職活動らしき女子がふたり、真剣な表情で何かを話している。就職のことだろう。黒のリクルートスーツが、地味目の女の子をさらに地味に見せている。
山手線がホームに滑り込んでくる。
地味子が先に立ち、続いてやや派手子が立とうと思った中腰くらいの体勢で、地味子大胆に首に手を回し、"ぶ"チューである。しかし、周りの人間は誰も気づかないのか、もうすっかりフリーキッスの国ニッポンは麻痺しているのか、ロックオンしているのはぼくひとり。いとさびし。
地味子は自分の電車に向かうように、きびすを返す。残されたやや派手子にぼくのフォーカスはピンバッチリ。
唇に指を当て、甘い感触を反芻するみたいに。官能を全身に染み込ませようとするみたいに。
あの、満更でもない、といわんばかりの、もしくは満更でもない、と顔に書いてある表情を見て、ぼくは思った。
そりゃ、男の表情だろ!
フリーキッスの国ニッポン。