日常の馴染み深いものを、ぼくらの感性で再定義
結野多久也 / MERICAN BARBERSHOP 代表
1978年生まれ。外資系企業で働いたのち、「MERICAN BARBERSHOP」を地元・神戸に立ち上げる。今年4月に福岡店をオープン。出自を活かした柔軟な発想で、普通のバーバーにはないハイブリッドな試みを生み出す仕掛け人。
まずは「メリケンバーバーショップ 福岡」のオープンの経緯について聞きたいのですが、なぜ福岡だったんですか?
結野友達のブランドが福岡に出てきて、遊びに行ったら福岡を好きになったんですよ。それまでは何の縁もなかったのですが、その友人からの煽りもあり、神戸の店でやりきれなかったことがあったんで、それを詰め込める場所として出店を決めたっていう感じです。神戸の店でもお客さんはビールとコーヒーを飲めるんですけど、ひとつの空間で喫茶とバーラウンジをやることは店の構造的にできなくて。
4月21日のオープンから3ヶ月が経ちましたけど、ゼロからのスタートだったんですね。縁もゆかりもない場所でドライブさせていくのはエネルギーがかなり必要ですよね。
結野そうですね。コミュニティもネットワークもなければ、店は駅から少し離れた雑居ビルの地下1階だし。この店のコンセプトがアメリカに禁酒法があった時代の「SPEAKEASY」(潜り酒場)で。当時の秘められたラグジュアリーな質感をつくり込みたかったんで、地下1階が理想だったんですよ。
表に出ている看板はなく、目印はこれだけ。扉を開け階段を下るとバーバーのスペースが現れ、その奥に喫茶&バーラウンジのスペースが広がる。
でも、地下に潜らなきゃいけないってハードル高いじゃないですか。
結野入口どこだってね(笑)。この店の前は約20年やっていたジャズバーで、しかも桑田佳祐とか奥田民生が立ち寄る名店だったみたいです。ちなみに当時ここにあったバーカウンターは「ゴルゴ13」にも出たことがあるらしくて、それもたまんないじゃないですか。ただやりたいことをやるんじゃなくて、ジャズバーだった文脈もアップデートしないと意味がないし、この空間をクラブとはまた違う人たちが集まる場所にしていきたくて。
この空間のトーン&マナーに合わせるというか。こんなロケーションのバーバーは唯一無二だと思います(笑)。
結野そこはユーモアとインテリジェンスが必要なんですよね(笑)。バーバーカルチャーって日本でも流行っていますけど、海外のバーバーを丸パクリしたらぼくらじゃないんで。サンプリングしながら、ここには喫茶店っていう日本の要素を入れているんですよ。バーバーも喫茶店もいい場所なんだけど、昔の感じのままでやっていると若者に支持されなくなっていて。この産業を無くしたくないし、だからテーマにしている“ネオクラシック”には、日常にある馴染み深いものをぼくらの感性で再定義するっていう意味を込めていて。
バーバーがクラブカルチャーのイベントをやるって、まさに “ネオクラシック”ですね。
結野そうなんです。7月28日にはここで「WE WANT」っていう大阪発の移動式音楽イベントをやるんですよ。アルバムのリリースパーティも兼ねて、ヒップホップグループのゆるふわギャングがライブするんです。ちなみに、神戸の店では8月末に3周年なんでパーティーをやるんですけど、場所は生田神社(笑)。この日は櫓を組んで盆ダンスをやろうかなと。
アッパーだけどビジネスとして成立している。このバランス感覚がすごいなと。
結野ぼくらはストリートスマートが立ち位置なんですよ。スマート(ビジネス)もこなしながら、ストリートともコネクトする。ブランドって、つくったら最後はマネタイズしていかないとダメじゃないですか。
バーバーと何かを組み合わせて新しい体験を作るアプローチが上手いですね。
結野ヨーロッパには「Barbershop / (slash)」っていう文化があるらしくて、バーバーの奥に花屋とか何でも入れていくんですよ。それはバーバーがブランディングできているから、花屋がよく見える効果もあって。メリケンのフィルターを通したら、後ろのものがきれいに見えるっていうね。
今まで知らなかったものをここで知ってもらうというか。
結野そうそう。理髪店って元々はそうだったんすよ。街で何か新しいことをするんだったら、理髪店へ挨拶行けって言われていたくらいで。その文化をもう一回戻したいんですよね。喫茶店も同じじゃないですか。たまれる場所だったし、それを若いやつらに教えてやりたい。
結野ただ何かをやるんじゃなくて、そこにデザインとストーリーを入れないと。誰かが真似できないものをつくらないと面白くないんで。かっこつけまくることをフックにしてます。年内に新しいグルーミングブランドを立ち上げて、その一部として整髪料をつくるんですよ。まだ内緒ですけど、とある老舗とタッグを組むつもりです。
メリケンバーバーショップの代表として、福岡で実現したいことって何ですか?
結野いちばん実現したいのは、何かと何かがつながる場所にメリケンがなるっていうことですね。そのためにはこの場所が何かを知るための棘のオンパレードになっていかないとダメ。棘がないと人には刺さらないじゃないですか。あと、福岡はアジアとのアクセスが良くてその文化があふれているし、ここでアジアのハブを作れたらヤバいですね。
この場所で、ネオクラシックなマスター像を。
宮田剛志 / MERICAN BARBERSHOP マスター
メリケンバーバーショップ は “ネオクラシック” のコンセプトを掲げていますが、宮田さんは喫茶とバーのマスターとして、それをどう落とし込んでいますか?
宮田例えば、ぼくのなかでナポリタンはネオクラシックそのものなんですよね。普通はパスタを茹でて、ケチャップソースとか調味料と炒めて作りますけど、ウチのベースはしっかりとトマトソースを作って、そこにケチャップと調味料を合わせているんです。麺もパスタではなくてチャンポン麺を使って。そうやってクレイジーにアップデートしているというか。
喫茶とバーのメニューはオーソドックスなもので構成されていますよね。
宮田スタンダードなメニューですね。でも、ジャンボプディングはあんなにデカいものは今までになかったと思いますよ。ルックスのインパクトだけじゃなくて、味はしっかりとプロフェッショナルなものに仕上がっている自信がありますし、そのギャップを狙っていて。メロンクリームソーダは願望を叶えるべく、アイスはデカくて、シロップは濃いめ、炭酸も強めにしたかったんです。関西のクラシックという意味で、ミックスジュースっていう関西カルチャーも持ってきています。
宮田こだわりをしっかりとお客さんに提供するっていうことに尽きますね。品数多くお客さんに出すのではなく、スタンスを伝えられる厳選されたものをしっかりと味わってもらいたい。そして、このSPEAKEASYな雰囲気のなかで、いい時間を過ごしてよっていうメッセージです。
SPEAKEASYのエッセンスとして、宮田さんのスヌープドッグのような三つ編みは強烈です(笑)。
宮田アイリッシュウイスキーのジェムソンを推しています。ジェムソンは男性ガンの啓発活動「Movember(モーベンバー)」を東京だけじゃなくて、グローバルでサポートしていて、そこに海外のいろいろなバーバーが参加しているんですよ。だから、ストーリーもあって相性が最高。ジェムソンの味自体もとても好きですし、アルコールと一緒にナポリタンを食べてもらったりすると、ぼくららしいのかなと。
宮田マスターっていう言葉に誇りを持っています。マスターやバーテンってお客さんの会話をヒントに、その人に合ったお酒をすっと出せてこそなんですよ。それが技術ですし、あえてメニューに載せていないものもあります。
宮田ここに人が集まってきて、出会いが生まれる場所にしていきたいなと。そのためのハブになりたくて。普段からラウンジDJがいて、ふらっと遊びに来るだけで楽しめる場所にしたいですし、その中で、自分はマスターとしてしっかりとドリンクとフードをつくり続けていきたいですね。メリケンっていう箱の中で新しいマスター像を作っていく。それがぼくなりのネオクラシックなのかもしれませんね。
バーバーのフィルターを通して、心地いい違和感を。
沼田有斗 / MERICAN BARBERSHOP バーバー
沼田さんはバーバーでありながら、ビジュアルやイベントのディレクションも手がけていますよね。
沼田バーバーとして技術があるのは大前提で、店とイベントのプロデュース、アートディレクションすることもぼくの仕事ですね。 “ネオクラシック” を踏まえたうえで、違和感を作っていくというか。心地よく見えるものには違和感があると思っていて。それに気づいたのが、アイスクリームのチョコミントなんですよ。あれって違和感の塊じゃないですか。あの中毒性がわかる人には伝わるように、ぼくらの質感を伝えることを意識していますね。
バーバーのスタッフがバーカウンターに座って、お客さんと話しているのも違和感ですよね(笑)。
沼田ぼくらを知らないお客さんからすると、ちょっと緊張しながら地下に潜って来て、いきなりドリンクを聞かれるから、不安な気持ちから関係が始まるんですよ。でも、しっかりと髪を整えられて、なんだかかっこいいところに来ているなと感じてもらえる。それがメリケンならではの心地良さなんじゃないかなって。心地良さって癒しだけじゃないんですよ。
緊張感を持ったお客さんに対して、コミュニケーションで意識していることって何でしょう。
沼田「こんちはーっす!」のノリにつきますね(笑)。ここは不安が心地良さに変わる場所なんですよ。ラフなんだけどしっかりとしている。このメリハリのバランスが大事にしているポイントかなと。
喫茶とバーバーがあることでフィードバックされているものはありますか?
沼田異なるジャンルのお客さんとスタッフがひとつの場所にいることで、自分のなかのいろんな壁がなくなっていますね。ぼく最初はマスターに偏見があったんです。理美容師は国家試験に合格して国家資格を持っているけど、彼らは資格がなくても成り立つわけで。誰でもできるんじゃないかって思っていました。でも、マスターがつくる酒や料理のこだわりを聞いていくことで、この人にしかできない仕事なんだなって認め合えて。ここでいろいろなイベントを一緒にやっていくうえで、自分の中ではすごく大きかったです。
直近では「WE WANT」をこの空間で開催しますが、イベントのプロデュース・ディレクションに関しては何に重きを置いていますか?
沼田このクセのある空間でイベントを作るのは難易度が高いですけど、ここでしか見せられないものをお客さんに感じてほしいっていう気持ちが強くありますね。ディレクションを本職にしている人には真っ向勝負しても絶対に勝てないと思うんですよ。だから、バーバーとしてどんな面白いことができるのかを突き詰めて、違う土俵での勝ち方を考えています。バーバーのフィルターで表現したほうが、絶対に面白いものができるはずなんで。
今後、どんなイベントを企画していきたいと考えていますか?
みんなの想像を越える、驚きのあるものをつくっていきたいですね。何もない空間からプロデュースして、そこにバーバーのエンジンを積んで、ファッションをコンテンツとして投入するのもありですし、バーバーって何かと組み合わせるだけで面白いんですよ。そうやってユニークなものを表現していくことで、福岡の街を刺激していきたいです。
沼田モノ・ヒト・食・文化とかがギュッと凝縮されている福岡はとてもユニークな街だと感じますし、最高から最低まであらゆるレイヤーがあるから、どんな人でもフィットできる場所があるはずなんです。ただ、その間を行き来するのがちょっと難しい感じがしてるんですけどね。ぼくらは、ここ福岡で、かっこつけまくって、みんなのやっていることも認め合って、ストリート、スマート、ラグジュアリーも全部の壁を取っ払って、誰でも集まれるソーシャルのハブになりたいんです。
MERICAN BARBERSHOP FUK
住所:福岡県福岡市中央区警固2-13-7 オークビル2 B1F
時間:11:00〜15:00 / 17:00〜23:00(Barber)
12:00~15:00(喫茶)
17:00~26:00(Bar-Lounge)
定休日:火曜日(火曜日が祝日の場合、翌日休み)
電話:092-771-5870