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ごちそうさまに生きる人。 エピス ギンザ オーナーシェフ 朝岡久美子

The interview of FOOD People

ごちそうさまに生きる人。 エピス ギンザ オーナーシェフ 朝岡久美子

世界でも有数の食の国、日本。人びとの関心は常に高く、新しいお店が続々と誕生しています。では、どんなひとたちがいまフード業界を支えているのか? そのなかでもフイナムではスタイルをもったひとたちに注目しました。今回は、スパイスブレンドのスペシャリストである朝岡久美子さんに、カレーどころか料理の範疇にも収まらないスパイスの全方位の魅力について語っていただきました。めくるめく魅惑のスパイスの世界とは? スパイスとファッションの意外な共通点とは? その真髄に迫ります。

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朝岡久美子/「épices GINZA」オーナーシェフ

スパイス会社を経営する両親のもとで育ち、自身もスパイスの輸入・製造・販売・使い方の講習などを行ってきた。1日1組限定、紹介制のレストラン・スパイス菓子「エピス ギンザ」を2016年銀座に開店。「スパイスブレンドが織り成す香りと味覚」をテーマに、コンサルタント、講演、雑誌、テレビ出演、監修などの活動を続けている。

スパイスの原体験。

両親がスパイスの会社を営んでいたので、子どものころからスパイスに囲まれた生活をしていました。自宅では胡椒だけで6種類くらい、シナモンでも4種類くらいありましたね。10歳頃からは、それらを使って自分で料理をするようになりました。レパートリーは、ハンバーグやかぼちゃのプリンなど。既製品の調味料は家になかったので、ウスターソースも粒マスタードも、すべて自家製です。変な話ですが、小学校の給食で初めて既製品のカレールーの味を知り、「なんて美味しいんだろう!」と感動したほど(笑)。そういう環境だったので、複数のスパイスを使ってイチから料理することが、自分にとってはごく当たり前のことになっていたんです。大人になってからは、両親の仕事を継いでスパイスやハーブの輸入、製造、販売をするかたわらで、使い方の講習なども行うようになりました。

スパイス=カレーだけじゃもったいない。

スパイス=カレーというイメージの人が多いと思いますが、その世界はもっと広い。ほとんどの人はあまり意識していないと思いますが、ありとあらゆるものがスパイスなんです。うなぎにかける山椒も、うどんにふる七味唐辛子も、全部そう。オリーブオイルだって、スパイスです。試しに舐めてみると、ピリッとした辛さがありますよ。

それに、スパイスって料理に使うだけではありません。漢方と同じように、本来は健康のための自然素材。たとえば、子どもの頃は、虫歯になるとクローブを噛んでいました。クローブは、神経痛や関節痛に効くからです。今でも、風邪のひき始めにはレモングラスの紅茶を飲んで体調を整えています。「ガラムマサラは胃腸薬とほぼ同じ」と言われると違和感を感じる人もいるかもしれませんが、成分表にある「桂皮(けいひ)」はシナモンのことだし、「丁子(ちょうじ)」はクローブ、「甘草(かんぞう)」はリコリス、「茴香(ういきょう)」はフェンネル。呼び方がちがうだけなんです。

もちろん興味を持つきっかけは、カレーでもなんでもいい。今までお会いした人のなかには、スパイスの色素で絵を描いている人もいました。私自身は、体のために食べている。スパイスにはいろんな入り口があって、誰でも、どこからでも入ることができるんです。そうやってスパイスの世界に入り込んできた人たちに向けて、ブレンドすることの魅力と楽しさを伝えていきたいなと思っています。

スパイスブレンドはいい、悪いの二択じゃない。

スパイスのそもそもの面白さは、産地や栽培された時期によって味も香りも変わること。たとえば、ウコンも沖縄産とインド産でちがいます。その国、その地域ごとの個性がスパイスには出てくるんです。そこに「ブレンド」という概念を加えると、量や種類など、配合の仕方にその人の思想と好みが表れてきます。どこ産のどんなスパイスか、そして誰がそれをブレンドするかで、スパイスの可能性が無限に広がっていくんですよね。そんな言葉では表現しきれなくて、目で見ることもできない、いい意味で曖昧なスパイスブレンドの世界に、私はすごく魅力を感じています。いい、悪い、では一概に判断することはできない、すごく自由なものなんです。

「ブレンド」ではなく、「ミックス」という言葉を使っていた時期もありました。でも、よく考えてみると、「ミックス」ってミキサーでがーっと混ぜて複数の素材を一緒くたにしてしまう印象を与える気がしたんです。「ブレンド」という言い方の良さは、それぞれの特性を活かしながら、なにか形の違うものができあがっていくイメージがあること。コーヒーやウイスキーにブレンドの商品があるように、単品とはちがい、複数の物を合わせて新しい何かを創っていけそうな感じがしますよね。

「料理」と「語り」で、人々に直接伝えていく。

より多くの人に、スパイスの魅力を伝えたい。そんな思いが高じて始めたのが、「エピス ギンザ」です。100種類以上のスパイスを揃え、30ヶ国の料理やお菓子をお出しする、というのをウリにはしていますが、私が本当にやりたかったのはスパイスを介して人をもてなすこと。自宅に人をお招きするときと同じような寄り添った空間を提供したいので、1日1組限定、紹介制にしています。

お客様がお店にいらっしゃったらまずお話をして、その日の様子や体調を把握してからメニューを組み立てます。そして、一品ごとにテーブルに運び、その料理に使ったスパイスの特徴と料理の背景をお伝えします。「食べる」ということは命を預ける行為なわけですから、きちんと思いを込めて作りたい。それに、レストランでの食事に慣れたお客様ほど、自分に向かって料理をしてもらえると嬉しいんじゃないかな、と思っています。ほかにはない、特別な体験として喜んでもらいたいですね。

お店では、スパイスのブレンド技術を身につけるためのセミナーを希望者を募って開催しています。私自身は子どもの頃からスパイスに囲まれた生活をしていたから、今では作る料理や自分の気分・体調に合わせて感覚で配合できますが、一般の人がいきなりスパイスをブレンドすることは難しい。たとえば、料理に合わせて胡椒を感覚で選ぶことがありますよね。ステーキなら粗挽きがいいし、ラーメンには粉末が合う。それと同じように、スパイスの配合も感覚で選べるようになるための手助けを、自分はしていきたいなと思っています。

日本人は真面目だからレシピを覚えようとするし、使い方に決まりがあるように考えがちだけど、そうではなくて、本当はもっと自由なもの。極端な話、私は、いつも感覚でスパイスを配合しています。自分の体調や、一緒に食べる人に合わせて、常にスパイスの調合を変えているからです。

ただ、「自由」ってなんでもいいわけではありません。カレーにしても、ソーセージにしても、それが作られている地域の文化や背景を知り、スパイスの各々の香りや特性を覚えたうえで、自由な配合を楽しめるようになる。ある一定の基礎がないと、自由とは成り立たないものだと私は考えています。

スパイスブレンドとファッションは好相性!?

最近思うのは、スパイスブレンドは、ファッションとすごく似ているのではないか、ということ。ファッションって、流行もあるけれど、トップスとボトムスの組み合わせ方であったり、好みの色やデザインであったり、その人の個性が出ますよね。着る人によって服自体の印象も変わってくる。アパレル系のイベントに行ったりすると、参加している人たちの服装から「着たいから着ている」という意思の強さがにじみ出ていてすごくいいなぁと感じるんです。

私自身はファッションに疎いので理解できないこともあるんですけど、でも、「どうしてその短パンを選んだの?」とか、聞いちゃうんですよね。固定観念がない着こなしほど、興味を持ってしまう。人にどう思われるか、ではなくて、自分がどう着たいか、というファッションの感覚は、私から見るとスパイスのブレンドとすごく近いものがある。ファッションに興味がある人こそ、実はスパイスブレンドを自由に楽しめる感覚を持ち合わせているのではないかな、と思っています。

épices GINZA

www.epiceginza.co.jp
東京都中央区銀座8-18-6二葉ビル1F・2F

「世界のスパイスクッキング」講座スタート。
スパイスクッキングアカデミー 「12ケ月のカレー」2019年10月スタート。
※詳細は、HPを参照ください。
※お問い合わせはメールのみ。
asaokaacademy@gmail.com

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