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BIG YANK The Third Edition  5人の好事家デザイナーがアレンジした、それぞれのビッグヤンク。 Case2_山田和俊

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世界中のファッション関係者からも一目を置かれ、ヴィンテージ大国と呼ばれる日本を代表するショップである「ベルベルジン(BerBerJin)」。オーナーの山田さんは、今も毎月のようにアメリカでバイイングを行っている。数多くの〈ビッグヤンク〉のヴィンテージを見てきた山田さんがデザインしたプロダクトは、いい意味で期待を裏切るようなものであった。

ー今回の企画は、デザイナーさんが中心ですが、今までにデザインを手掛けたことはあるんですか?

山田:うちでやっていた、バイカーに特化したコンセプトショップ「バンカースタッド」(今年の1月にクローズ)のオリジナルを作っていたから、ジャケットを始め、いろいろと手掛けていましたよ。昔から「サーティーファイブサマーズ」の欣児さん(代表の寺本氏)にはお世話になっていて、いろいろと情報を教えてもらった先輩。こういう機会をもらえて嬉しかったですね。

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ーそもそも『ビッグヤンク』を知ったキッカケはいつだったんですか?

山田:「ベルベルジン」をオープンしたのが18年前なんですが、その当時は正直に言うと知らなかったですね。古着好きのお客さんに〈ビッグヤンク〉を教えてもらったのを覚えています。古着のシャンブレーシャツって、ワークウエアだからタックインして着るのが前提で、かなり着丈が長いでしょ? でも〈ビッグヤンク〉は着丈がまぁまぁ短くて、出して着てもバランスがすごくよかった。そういうシャツが他のヴィンテージになかったから、形のいいシャツというのが、〈ビッグヤンク〉の第一印象かな。

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ーなるほど、ディテールよりもシルエットだったんですね。当時から値段は高かったんですか?

山田:今ほどじゃないけど、他のワークシャツメーカーに比べるとそれなりに高かったと思いますよ。今買い付けでアメリカに行っても、まず〈ビッグヤンク〉に出会うことがないですからね。スリフトショップなんかでまず見つからないですし、ディーラーでもスペシャルなものは、1年に1回あるかないか…。まぁ、〈ビッグヤンク〉に限らず、60年もの前のヴィンテージは、そうそう見つかるものではないのですが。特徴的なガチャポケや山ポケは、今の市場だとワークシャツの王様的な存在。玉数が少ないのに、人気が高いから、ものによっては数十万になることも。昔から高かったけど、徐々に上がっていって、それこそ欣児さんが〈ビッグヤンク〉を始める頃にガッと値段が上がったんですよ。きっと欣児さんが、いろんな古着屋に声を掛けて、根こそぎ買ったのが原因じゃないかな(笑)。

ーあながち冗談でもないように聞こえます(笑)。山田さんが作った今回のシャツは、どのようなものなんでしょうか?

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BD SHIRT¥23,000+TAX

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山田:もちろん〈ビッグヤンク〉のなかでも滅多に出てこないレアものも知っているし、いいものは見てきた自負はあります。ただそれらを復刻させては、ヴィンテージショップを生業にする人間としたらどうかと。オリジナルを探している人間がレプリカで済ませてはいけないですよね。すでに欣児さんが素晴らしいものを作っていますし、後々、ヴィンテージと見分けがつかなくなりそうだから、現行のコレクションにはカンヌキを入れてもらっているんです(笑)。そう考えた時に、自分の今の気分である’60年代のボタンダウンシャツを、ワークウエアの縫製で作ろうというアイディアが浮かびました。

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ー山田さんと言えば、黒いヴィンテージの蒐集家としても有名ですが、あえて黒は作らなかったのですか?

山田:いや、黒い単色のシャツは基本的に着ないんですよ。やっぱり合わせが難しいし、実際にヴィンテージでもほとんど持っていません。元ネタにしたのは、’60年代のヴィンテージで、ニューヨークのテーラーショップが作ったカジュアルなボタンダウンシャツ。もともと好きなアイテムではあったけど、ここ2年くらいハマっているんですよ。ロサンゼルスに住んでいる友人がその頃のボタンダウンシャツにすごく詳しくて、いろいろと教えてもらっているうちに、興味が出てきて。これの気に入っている点は、絶妙なチェックのカラーリング。襟の大きさも大袈裟じゃないから、カジュアルに合わせやすくて大のお気に入りなんです。

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BD SHIRT¥23,000+TAX

ー今回の企画では、ヴィンテージとはどのように差別化したんですか?

山田:〈ビッグヤンク〉のガチャポケを胸に付けているのが大きな特徴。これはもともとシガレットポケットとして商標登録されたもので、タバコが汗で湿気ないようにボディとポケットに隙間を作るなど、よく考えられていますよね。でもヴィンテージだと今のタバコが入らないから、そこはしっかりとサイズを合わせています。ワークウエアのタフな巻き縫いで作っているのですが、あんまりワークウエア然としてもバランスがよくないので、前立てのバランスや脇の接ぎなんかは、きれいに仕上げてもらいました。シルエットは、ちょうどいい大きさというか、今っぽくタイトにはしていませんが、ヴィンテージよりもスッキリしていて、個人的に気に入っています。

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ー生地もいわゆるオックスフォードでなく、またいい雰囲気ですね。

山田:そこまでやるとやり過ぎだと思いまして、風合いのあるブロードにしています。あくまでも各都市部に存在したローカルメーカーが作ったカジュアルなシャツのイメージですし、トラディショナルな匂いは合わないかと。ワークウエアメーカーであった〈ビッグヤンク〉が得意とする巻き縫いミシンだと、これくらいの生地感で、何の気兼ねもなく、着ては洗えるってものがちょうどいいですよ。

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