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featuring COMMON.シカゴが産んだリリシスト、コモンの今。

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92年にデビューし、これまでに数々の名盤を世に送り出してきた孤高のリリシストラッパー、コモン。カニエ・ウェストととも発表した2005年にリリースの『BE』では、4つのグラミー賞にノミネート、2007年には再びカニエとタッグを組んだ『ファインディング・フォーエヴァー』で、米ビルボード・アルバム・チャートで1位に輝いた。そんな彼の名をアメリカのヒップホップ史に刻んだ代表作『リザレクション』から早21年。今やアーティストとしてだけでなく俳優としての才能も開花させ、『アメリカン・ギャングスター』や『グローリー』、そしてシリーズ第3弾となる『バーバーショップ3』が控えていたりと、活躍の場をさらに広げている。ラッパーとして、はたまた俳優として、コモンが描くビジョンを探った。

Photo_Kiyotaka Hamamura
Text_Shiho Watanabe
Edit_Jun Nakada

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コモン(COMMON)

1972年生まれ。アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ出身。1992年にコモン・センス名義でアルバム『Can I Borrow A Dollar?』を発表以降、激動のヒップホップ・シーンで20年以上に渡って第一線で活躍し続けている現役のMC。近年は俳優業としての才能も開花させ、表現の場を広げている。
www.thinkcommon.com

MC、役者を経て思うことと、これからのこと。

ー来日を心待ちにしていました。今回で2度目の来日ですよね?

そうだね。前回の来日は10年前にアルバム『Be』をリリースしたとき。ブルーノートでライブしたのを覚えているよ。日本のみんなはとてもリスペクトに満ちていて、礼儀正しくて、親切で素晴らしい。ステージに立ってみると、みんなピュアな気持ちで音楽やカルチャーを楽しんでくれているんだなと感じるんだ。

ー2015年に入ってからは、国内外問わず映画『グローリー-明日への行進-(原題:SELMA)』の話題で持ちきりだったと思います。実際にあの作品に出演してみて、いかがでしたか?

『グローリー』への出演は、人生を変えてしまうくらいの大きな経験になった。世の中には、もっとたくさん学ぶべきことがある、そして、困難な状況でも耐えねばならないということを、身を以て学ぶことが出来たよ。僕が演じたジェームズ・ベヴェルは、公民権運動のさなか、自分自身をも犠牲にしてアラバマのセルマから行進したり人々のために祈ったり、世界を変えようと邁進していた人物。元々僕もアーティスト活動を通して自分の意思を発言してきたけれど、社会的正義を守るためにはもっと自分の声を言葉に出して、人と人とを結び付けながら活動的にならないといけないと感じたよ。

ー『グローリー』の主題歌「Glory featuring John Legend」ではアカデミー賞において主題歌賞受賞という栄誉に輝きました。あの楽曲を制作するに至った経緯は? そして、受賞の瞬間を振り返ってみて、どうでしたか?

元々あの曲は、役者としてあの作品に関わっていくなかで、強くインスピレーションを受けて生まれた曲なんだ。”さあ、曲を作ろう!”と決めた段階で”ジョン・レジェンドしかいない”と思って迷わず彼を呼んだ。書き上がった瞬間に”これだ!”と思ったよ。アカデミー賞での経験は、人生の中でも最も忘れられない瞬間になったし、これまでにないほど充実した気持ちを味わうことができた。あの場にいること自体、とても感謝しているし、何より『グローリー』の主題歌としてあの賞を受賞したことにとても達成感を感じている。あの作品に関わった人みんなと祝福し合えたし、言うまでもなく「Glory」は自分のこれまでキャリアにおいて特別な一曲になったね。

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ー本日、拝見したビルボード・ライヴでのステージでは、「Kingdom」、「Black Maybe」、そして「Glory」と、政治や人種的なメッセージの強い曲も披露されていましたね。あらためて、ステージ上のあなたからこうしたメッセージを受け取ることが出来てとても心を動かされました。

ありがとう。そういう風にメッセージを受け取ってくれたらなら嬉しいよ。

ー『グローリー』はあなたのキャリアにとって大きな転機となったと思いますが、そもそも、ラッパーとしてデビューしてすでに20年以上、第一線で活躍し続ける、そのモチベーションとなるものはどこに?

“音楽が持つ目的”を追求していることかな。僕はただ、エンターテイメントのためだけに音楽を作りたいわけじゃないんだ。音楽によってみんなにインスピレーションを与えたり、人と人の関係を繋げたり、愛情深い気持ちを高めさせたり…そんな、音楽が持つ目的を大事にしたいと思っている。音楽を通して世界に貢献したいとも思っているし、音楽活動を続けたいというモチベーションは常に人生にあり、とも言えるかな。あとアートが好きということも、大きなモチベーションのひとつだね。

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ー最新アルバム『Nobody Is Smiling』では、ビッグ・ショーンにジャネイ・アイコ、リル・ハーブら、これまでになく若い世代のアーティストをフィーチャーしている点に惹かれました。

そう、僕の作品にしてはちょっとレアだよね。これまで、僕のアルバムにフィーチャーされるアーティストの多くは、すでに自分のスタイルを確立してきた人が多かったからね。ディアンジェロやシー・ロー・グリーン、ローリン・ヒル、彼らだって素晴らしいアーティストに違いないんだけど、もっと自分のキャリアを若いアーティストにも返してあげる時期に来ていると思ったんだ。とくにリル・ハーブみたいな若いMCを自分の作品に呼べたことはとても嬉しかったね。

ーリル・ハーブは、シカゴの新世代を台頭するラッパーですよね。チーフ・キーフらのデビュー以降、シカゴの新たなシーンが騒がれていますが、彼らについてはどう感じていますか?

うん、彼らの起こしているムーヴメントは最高だと思うよ。リル・ハーブにリル・ダーク、リル・ビビー、チーフ・キーフ、チャンス・ザ・ラッパーにヴィック・メンサ…若いアーティストがシカゴから生まれて来ているのは、本当に喜ばしいことだと思う。

ーあなたのファッション観についても教えてください。スタイリッシュな面が注目されることも多いと思いますが、何か秘訣があるんでしょうか?

そうだな、とにかく”You Gotta Be Free”ということかな。自由な気持ちでいることが大事だし、自分が何を好きなのかとか、もっと自分を曝け出してもいいんじゃないかとか、人とは違うスタイルを楽しむことで、もっと自由に自分らしくいることが秘訣かな。あと、色んなコーディネートのスタイルをミックスして、自分が好きなものを自信たっぷりに着る姿勢も大切だと思う。”俺はこのスタイルが好きなんだ!”っていう信念を持つことがだね。

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ー今後の活動予定を教えてください。

今はシカゴを舞台にしたテレビ番組のプロデュースを手がけているところ。まだタイトルも決まってないんだけど、その番組の音楽スーパーバイザーも担当する予定なんだ。ニュー・アルバムも制作途中だし、映画『Barbershop 3』の撮影も進行中。これは人気シリーズだけど、今回から僕とニッキー・ミナージュも参加しているんだ。彼女はアーティストとしてもドープだけど、女優としても間違いないね。とにかくスーパー・クールだから楽しみにしてて!

ーちなみに、同郷であり、かつては同じレーベル内で活動していたカニエ・ウエストが2020年のアメリカ大統領選への出馬を表明して話題になりましたが、支持する?

当たり前だろ! これまでもカニエのことはずっとサポートしてきたから、もし彼が本気で大統領選に立候補するなら、もちろん全力でサポートするよ。俺のブラザーだからね(笑)

終わり。