ー〈Lue〉には機械を使って、作るシリーズもあると伺いました。
菊地:はい。ハンドで一から十まで作るラインと、仕上げは工場で行うラインの2つがあります。工場生産の方は、最初の型だけこちらで作ってあとは工場で抜く、というやりかたですね。
ーとなると、工場生産の方が、少し安いわけですね。
菊地:そうですね。それぞれに良さがあると思っています。例えばスプーンでもこんな感じにスタックするのであれば、工場で作った方が効率がいい、というかうまくいくんですよね。単純にきれいに作れるんです。それも、一旦は手作りで全部やっていたからこそわかることというか。
ー確かに。この5本セットの感じはとてもいいですね。ものとして、とても美しいと思います。手作りでやることの“味”とは、また別のベクトルですよね。
菊地:はい。手作りだけが素晴らしいというわけではないと思っています。あとは自分がやってみたかったんですよね。自分一人で完結するのではなくて、人と仕事をするということを。
ーなるほど。ちなみに、菊地さん以外にも真鍮でカトラリーを作っている方はいるんですか?
菊地:もちろんいますよ。岡山にもいます。
ーそうした方たちから見たら、菊地さんのやっていることは異端と写るのでしょうか?
菊地:うーん、どうなんでしょうか。ただ、手作りでやりながら、こうして工場での生産にまで手を出す人はあんまりいないかもしれないですね。手作りがいいと思って、皆やっているわけですから。ただ、僕はそれって“手作り”というところに逃げているんじゃないかな?と思ったりするんです。
ーさっきの民藝の話に少し似ていますね。
菊地:はい。だから、単に作るものによって、使い分けているだけなんです。
ー今日こちらにお邪魔する前に、瀬戸内の邑久駅にも行ったんですが、このあたりは備前が近いじゃないですか。いわゆる備前長船というと刀剣が有名ですよね。もちろん刀剣と菊地さんがやっていることは全然違うと思うんですが、それでも鍛冶屋っぽさというか、共通項はあるのかなと。土地柄的にこのあたりにはなにかあるんでしょうか?
菊地:うーん、どうなんでしょうか。。あまりないような気もしますね(笑)。ただ、確かに刀剣美術館はすぐ近くにあります。たまに鍛冶屋さんが来て、叩いていたりしますよ。
ーそうした様を見ていて、何か感じるものはあるんですか?
菊地:面白いなーとは思います。ただ、自分のやっていることとはだいぶ違うんですよね。持ってるハンマーから何から、全然違うし。一度鍛冶屋さんに話を聞いてみたこともあるんですが、素材が全然違うので、話がまったく噛み合わなかったですね。
ー金属全般が好き、というわけではないんですね。
菊地:はい。面白い素材があれば使ってみたいな、とは思いますが。
ー真鍮以外の素材で、作ってみようと思った事はあるんですか?
菊地:たまに思ったりもするんですが、今のところは真鍮でいいかなという感じですね。今、刃物作りにチャレンジしているんです。真鍮って刃物を作るには不向きで、今のところパン切りナイフとかチーズナイフぐらいしか実用化できてないんです。ただ、自分でも作り始めたら、これがすごく面白くて。いま作ろうとしているのは、いわゆる本当の刃物ではなくて、ディナーナイフのようなものです。
ーなるほど。近いうちに新作が世に出るかもしれませんね。最後に、今後はどんな活動をしていきたい、というようなことはありますか?
菊地:工場製品も色々バリーションを増やしていきたいと思いますし、定番は定番で作り続けていきます。あとは今もやってはいるのですが、展示会に出すような一点ものをもっと作って行きたいなと思っています。今の作業場も、もうひとつなにか機械が必要になったら、手狭になってしまうので、色々考えないといけないかもしれませんね。でも、まずはひとつひとつ、という感じです。
取材を終えて
自らのものづくり、そして自身が置かれている状況について淡々と話をしてくれた菊地氏。“頑固一徹”といったステレオタイプな職人のイメージとはずいぶんと違うキャラクターではありますが、ただ単に情熱を表に出すタイプではないだけなのかなと。それはまさに、自身が愛し使っている“真鍮”のごとく、柔らかく変化に富み、少しずつ色(表現方法)が変わっていくという性質そのものではなかったでしょうか。
と、こんな調子で、本企画では日本全国の作り手に迫っていきます。以後、お見知り置きを。
DASHI KATACHI ESSENCE OF JAPAN
会期 : 1月21日(水)~2月18日(水)
場所:HEATH CERAMICS San Francisco
主旨:日本の伝統的な出汁や食について、海外での認知を高めることを目的に、実際に商品やそれにまつわる道具を紹介(販売)するエキシビション。会期スタート直後にいくつかのワークショップも行います。