——2015年AWシーズンを機に、5Fフロアを大幅にリニューアルされましたね。その中でも気になったのが、百貨店がユーズドアイテムを扱うということ。これは、大変だったのではないでしょうか?

小野洋平さん(以下・小野 敬称略):そうですね。まず、今回のリニューアルに先がけて、〈リーバイスⓇ ビンテージ クロージング(LEVI'SⓇ VINTAGE CLOTHING)〉〈キャピタル(KAPITAL)〉〈ガレージコレクト(GARAGE COLLECT)〉の3店舗は、2014AWにオープンしていました。その時に、〈リーバイスⓇ ビンテージ クロージング〉と〈ベルベルジン〉が当社で協業し、ユーズドアイテムを含めた新しい取り組みにチャレンジしようという話がまとまりました。その時にメンズ大阪の5Fとして古物商の申請も行いました。ユーズドアイテムを扱ったのは、それが最初ですね。

——ユーズドアイテムは、洗い加工で出る若干のサイズの違いや物性などから百貨店では難しいと聞いたことがあります。そんな中、あえて扱おうと思ったキッカケはなんでしょう?

小野:阪急メンズ大阪は2008年のオープンから7年が経過していますが、それ以来メンズマーケットも成熟化し、ニーズも多様化しています。それこそ昔は、全身を同じブランドで着込んでいれば安心というというニーズもありましたが、それだけではなくなってきた。価値基準が非常に多様化しているんです。

一方で百貨店のメンズ売り場は、同質化しながら飽和しているというのが、僕らが感じていたこと。大阪の中でも、この梅田エリアは商業施設も増加し、オープン時とはマーケットも大幅に変わってきています。

——多様化するマーケットに対して、阪急メンズ大阪として新しい価値観を提案するキーとなるのが「ユーズドアイテム」だったということですか。

小野:それだけにこだわるというよりも、次のマーケットを考えていこうというのが、そもそもの入り口ですね。世代を超えた顧客に対して、ルーツや背景を踏まえた、いわばカルチャーのあるファッションを提案したいと考えたんです。

そのためには、アパレル以外にも書籍や植栽、飲み物・食べ物に至るまで、より広いアイテム領域を提案し、その背景にある文化を伝える必要がある。「ユーズドアイテム」もその一つです。他にも、「ワーク」「アウトドア」「アート・サブカル」などのキーワードをもとにこのフロアを構築しています。

たとえば、〈ラギッドミュージアム〉であれば、「アウトドア」「カレッジ」「アスレチック」などのルーツカルチャーを深堀りするために、雑誌との連動はもちろん、編集長の私物を放出する「チーフズファクトリー」を起点にリアルビンテージ品を販売することで、本物があって復刻があるという業態をやっていこうと思っています。

また、〈ハイ!スタンダード〉では、店舗をアメリカのマーケットに見立てて、アパレル以外のアメリカらしいポップな道具や雑貨なども販売しています。

そのような、ベースとなるブランドやショップがあり、そこに更なる新しさやチャレンジを足していく方法もあれば、〈ソーグ〉のようにコンセプトショップ自体をイチからつくっていこうという取り組みもあります。

ブランドには、それを形づくる方々の源流が必ずあるはずなんです。それを深堀りするための象徴が、例えば家具なのか、書籍なのか。そのカルチャーを表現するために有用であれば、それらを取り入れて表現したいと考えています。闇雲にアイテムの幅を広げるということではありません。

——新規でオープンした5店舗は、そういったことも加味されたのでしょうか?

小野:そうですね。みなさまそういう考えに共感して頂いて、じゃあ一緒に新しいものをつくりましょうと言ってくださり、議論を深めてまいりました。

——その表現の一つとして、各ショップと限定アイテムもつくられていますよね。商品開発の打ち合わせでは、どういった意見が出ましたか?

小野:商品を作る議論や、表現の仕方、顧客への表現。なによりも、自分たちのルーツカルチャーは何で、そこからぶれていないか。これは、ぶれているからやめましょうとか、これはそれを掘り起こすためにやりましょうといった、本質・根幹の議論が多いですね。ですので、各ショップともに、自分たちの考えを見返すキッカケにもなるとおっしゃって頂けています。

——常設のポップアップスペースは、今後どんな動きをされるのでしょう

小野:店頭では表現できない一部分をピックアップして、そこにイベント要素を盛り込もうと思っています。もちろんこれで終わりではないので、今後はいまのポップアップスペースに小屋のようなものを幾つも建てて、フロアの背景が伝わるモノやコトを盛り込みたいと思っています。

そこでは、ポップアップもやりますし、飲食や本、花を売ってもいいですしね。アイテム領域にとらわれず、背景のカルチャーを表現することになるのであれば、色々な施策をしたいですね。

——新規店舗も増えて、まだまだ進化し続けるということですね。ただ、通常の百貨店の商売とは逆ですよね。大きなマーケットに集客させるのではなく、一点ものを扱うというのは。

小野:ユーズドアイテムや一点ものは、あくまで表現の一例ですが、効率や収益性だけを求めていったら、こういう動きはあまりできないと思います。当然、ショップも私たちも収支を見ないわけにはいかない。だけど、やり方を工夫して、新しい取り組みを行うことで、館全体の魅力も更に高まると思っています。いかに効率を上げるかだけの商売ですと、面白くないですしね。

今来てくれているお客様が30年経って、50歳、60歳になった時にも違う目線を持って来てくれるようなことをしないといけないと思っています。そのかっこ良いおじさんに憧れた20代も一緒に来て頂けたらうれしいですね。

長年にわたりロンドンのクリエイティブ業界を牽引し続ける「TOMATO」の「Simon Taylor(サイモン・テーラー)」と共に、物づくりを行う〈ワーク ノット ワーク(WORK NOT WORK)〉には、既存のショップスペースとは別に、ショップインショップ「WORK NOT WORK THE STUDIO」も。ここは、常に動きのあるスペースとして、様々なイベントがおこなわれるとのこと。

(写真右)〈ポーター(PORTER)〉とのコラボレーションで制作された、ブリーフケース。耐久性に優れたパラフィンキャンバスとレザーのコンビネーションが特長。ビジネスユースでの実用性を考慮しPC用コンパートメントを装備。大きく開くWジップに内部へのアプローチをしやすい。
Paraffin canvas / leather brief case ¥51,840(WORK NOT WORK × PORTER)

ディレクションを「ソーイング」、空間演出・アート植栽を、京都・一乗寺を拠点に活動する「GUGEIN」が行い、阪急メンズ大阪とともに作りあげたセレクトショップ。「bukht」「kiit」「GYPSY&SONS」といったドメスティックブランドから、ビンテージ家具、植栽、アートピースまで、「古きを知り、新しきを得る」というコンセプトのもと、幅広いセレクトを行う。今後は、大人の隠れ家を目指して、独自のイベントも検討中とのこと。こちらも、注目したい。

〈ハイ!スタンダード(HIGH! STANDARD)〉らしさを存分に施した空間演出が特徴。店舗をアメリカのマーケットに見立て、「ワーク」「スポーツ」「アウトドア」テイストのベーシックなウエアを豊富に揃える。アパレル以外のアメリカらしいポップな道具や雑貨なども販売している。

(写真左)「マウントレイニアデザイン・マークゴンザレス」コーチジャケット ¥11,880

青山のショップでも人気を博す「チーフズファクトリー」コーナーが、大阪エリアに進出。「ヘビクラ」「ラギッドアスレチック」「カントリー&ジェントル」といった『Free&Easy』がプッシュする3ジャンルのアイテムを中心に、編集長の私物が並べられている。オープン当初より常に動きがあるとのことなので、早めに行くべき。

(写真左上)「チーフズファクトリー」よりオールドのオールデン(ALDEN)
(写真右上)クレイジーハンティングジャケット ¥84,240

最新トレンドを取り入れた、限定性・話題性のあるシューズをセレクトする〈スニーカーセレクト(SNEAKER SELECT)〉。スニーカーだけに留まらず、〈レッド・ウィング(Red Wing)〉や〈ダナー(Danner)〉といったブーツも取り揃える。

阪急メンズ大阪がビンテージアイテムを取り扱うキッカケとなったのは、ここ〈リーバイスⓇ ビンテージ クロージング(LEVI'SⓇ VINTAGE CLOTHING)〉と「ベルベルジン(BerBerJin)」による取り組みのおかげ。一歩足を踏み入れれば、ショールームと同じディスプレイが施された壁面が目に入る。アイテムのラインナップ以外にも、こういった演出が〈LEVI'SⓇ(リーバイス)〉ファンの心を掴むポイントといえる。

先行オープンのひとつである〈キャピタル(KAPITAL)〉。正面に設置されたカウンターの堂々たる雰囲気に、ブランドの意気込みを感じる。ショップ内もまた、〈キャピタル〉らしいワークテイストの演出を存分に感じられる。5Fフロア内では広めの区画だけに、豊富なアイテム数も魅力。

棚にディスプレイされたブリキ製のおもちゃに壁に貼られたポスター。これら店内にあるものは、アパレル以外もほぼ売り物なのだとか。世界各国で買い付けられた一点ものを求めて足を運んでみるのも楽しそうだ。