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FEATURE|BEAMS JAPAN RE- LAUNCH 石川顕、鈴木修司の二人が形にした、それぞれの“日本のクラフト”。

BEAMS JAPAN RE-LAUNCH

石川顕、鈴木修司の二人が形にした、それぞれの“日本のクラフト”。

「クラフト」に始まり、「食」「ファッション」「カルチャー」「アート」と日本のさまざまな魅力を取り揃える「ビームス ジャパン」が新宿にオープンした。なかでも、フイナムが注目するのが〈ビーミング ライフ ストア(B:MING LIFE STORE by BEAMS)〉や〈フェニカ(fennica)〉のバイヤーとして、日本各地の銘品に触れてきた鈴木修司氏による1階の「銘品」と、4階にあるTOKYO CULTUART by BEAMS内に、スタイリスト石川顕氏がつくりあげたスペース「KRAFT PUNK」。ともに、日本のクラフトをテーマに掲げながらも、異なるアプローチでその魅力を表現している。ふたりが考える「ビームス ジャパン」と「クラフト」の魅力について話を伺った。

  • Photo_Ayumi Yamamoto
  • Text_Satoru Kanai
  • Edit_Ryo Komuta
「もう手作りのクラフト製品の良さとか、素敵さとか、和みとか、モダーンさとか、、、もう知るかっ!という感じです。ハンドメイドの作り手たちは「自由でいいね」といわれることに辟易してるかもしれませんよ。ハンドメイドのPUNKアイテムです。けして怒ってるわけでもないし、バンドでもないし、ファッションパンクでもなく。あくまで手作業の効率の悪い勝負です」
これはプレス向けに、スタイリストであり、「TOKYO CULTUART by BEAMS」の相談役も務める石川顕さん本人が書いた「クラフト・パンク」のプレス用テキストを、抜粋・編集したものだ。そういえば、いつからか“クラフト”は職人の手を離れ、“手作り”という名の別物にすり替わっていたのかもしれない。この文章を読んで、そんな思いが頭をよぎった。
日本の魅力が集う「ビームス ジャパン」という場所で石川顕さんが再提示する、刺激的で正しいクラフト作家の姿。そこから浮かび上がる、“クラフト”に対するひとつの答え。

私物であることが大事なんです。

「古着なんで、星が全部取れてたの。それを「ペロクーン(peloqoon )」の森川まどかさんがぬいぐるみの星でカスタマイズしてます」
これは、〈ラブラドール リトリーバー (Labrador Retriever)〉の中曽根信一さんが買い付けてくれた古着のライダースジャケット。タイポグラフィは「PLACERWORKSHOP」内田洋一朗さん、石川顕さん曰く「耳なし芳一」。
「洋服の人って、平面に考えるでしょ。でも、最初の質問が『縦ですか? 平置きですか?』なんですよ。そんな考え、なかなかできないよ」
―このブレザーは、元々は〈スロウガン(SLOWGUN)〉小林学さんの私物。自身が着やすいようにカスタムしていたコレクションを、石川さんが“買収”したそう。
「今回は着られることとか、イカしたパーティウェアにしない人に洋服のカスタムをやらせたかったんです。壁に絵を飾るのとおんなじなんで。着るかどうかは、その人次第。基本的には置物。使えるオブジェもあるし、使えないのもある。私物っていうのが、すごく大事なんです」
―洋服のデザイナーにカスタムは頼まないといいながらも、〈オアスロウ(Orslow)〉仲津一郎さんは、古着のデニムをベースにした「ストレージ・デニム」を作成。しかし、これだけは別物。
「家具だから。ジーパンじゃないから。だから、意地でも自分のところの古着でやってくれ、しかも手作りでって言いました。非売品なんですよ。でも、売りたくないって気持ちもわかる」
―「鉢植えを売りたくてさ」。そう言いながら紹介されたのは、蘭が植えられたビンテージのスニーカー。蘭はもちろん、タイポグラフィも「PLACERWORKSHOP」内田洋一朗さんの手によるもの。
「これも、中曽根くんが探してきてくれて。玄関先に、いっぱいスニーカーが並んでるじゃん。そのなかに置きたいんだよね。あと、カフェのベンチの上とかさ。この蘭は育てるのが簡単なやつを内田くんが選んでくれてるから、霧吹きで水まくだけ。難しくないんですよ」
―〈山と道〉のバッグにも内田さんのタイポグラフィが描き込まれている。これらは、「ピーナッツ」の登場人物のひとり、ライナスの言葉を引用している。
「ライナスって、ちょっと悪そうなのがいいんだよね。ポスト・イットの翻訳文は内田くんが書いてます。青い方の矢印は僕が。内田くんが描いた風にして(笑)」
―石川さんは20歳のとき、高倉健の出演する映画を観てM-65を購入。その店は、中曽根さんが勤めていた「THE BACKDROP」。
「実は、高倉健にM-65を渡したのも中曽根くんだったの。これはM-65に、〈ワイトロフィー(WHYTROPHY)〉の高澤くんが持ってたアンティークのロゼットを縫いつけてます。高澤くん、これで使いきったって言ってたけど大丈夫かな?」

ほんとに、その人たちにしかできないモノだけですよ。

―中曽根真一、内田洋一朗、仲津一郎、森川まどか、郷古隆洋にゲルチョップ……。このほかにも、今回のプロジェクトには錚々たるメンバーが参加している。
「みんな、ぼくの友だちなんですよ。組み合わせを考えるのもぼく。だから、無茶を言ってもいいし、向こうも乱暴に返してきてもいい。ダンサーのUNOさんくらいかな、紹介してもらったのは。ボロボロのスタジャンに絵を描いてもらったんだけど、すごいカッコいいよ」
―参加メンバーには「思いきりやろうぜ」と伝えた。しかし、必ずしも当初のイメージが成功するわけではない。
「〈クレイト(Crate)〉の盛永省治と〈ゲルチョップ(GELCHOP)〉。この組み合わせ、ありえないでしょ。省治に『お前、誰と一緒に組みたいの』って聞いたら、〈ゲルチョップ〉ですって。じゃあ、とりあえず金槌で割れ。半分を〈ゲルチョップ〉がつくるからって。でも実際にやってみたら、粉々になった(笑)。それで、穴を開けて、グラスファイバーとウッドのハイブリッドなドット柄にしました。クラフトのひとは、みんな〈ゲルチョップ〉と組みたがるんだよね。彼らは、ぶっ壊すでしょ。すべてを」
―プロジェクトの責任者は、「トーキョー カルチャート by ビームス」の永井秀二氏。長い付き合いの二人だけに阿吽の呼吸なのだろう。

クラシックでなければ、パンクは成立しない。

―「クラフト・パンク」の頭文字は、手作りの“C”から、ドイツ語で「力」を意味する“K”に書き換えられている。これは、昨今のクラフトブームへの提議にも思える。
「パンクって、メッセージがあるけど、楽器は下手でいいわけじゃない。でも俺たちがやるのは、ドリフ。すごい演奏が上手いんだけど、真剣にふざけるぞっていうね。ただ、そこに実力が伴わないと学芸会になっちゃう。絵を描くひと、植物を育てるひと、造形できるひとが本当に優秀じゃないとダメなんですよ。ほんとに上手でただしいクラフト作家がやる。それで、やっとパンクが成立するんです」
―そして、〈ビームス ジャパン〉でなければこの企画は成立しないとも。
「路面店でやっても、ただのワイルドなお店になっちゃうからね。テーマは、あくまでクラシック。カスタムを全部なくすと、すごく当たり前のアイテムしかないんです。みんな、1階の『クラフト』と5階の『フェニカ』がいいものだって分かってるでしょ。それがあるからこそ、『クラフト・パンク』がすごい盛り上がるんです。そして本当に好きじゃないと作っていけないし、売ってもいけない気がしますよ」
―けして広くはないスペースに、隙間を埋めつくすように並べられた“正しいクラフト作家によるパンクな逸品”。ただ、あまりにも情報量と品数が多く、紛れてしまいそうだ。
「それが僕の欠点だね。でも、美術館みたいな飾り方がキライなので。カジュアルなことをやりたいんですよ。絵をそのままブルーシートの上に置いて、200万とか高額でもいいから値段つけたり。フリマですよ、ぼくらとしての」
—最後に、「ビームス ジャパン」のある“新宿”というエリアについて尋ねてみた。
「いま、東京で一番いいのは新宿だからね。田舎から出てきて最初に観る東京って、浅草とかじゃなくて新宿なんだよ。外国人も一緒だと思う。歌舞伎町とかが、かっこいい日本の姿。その際どい、危ない感じが、もう薄まってはいるんだけど、唯一東京で残っているのは新宿かな。だから、ここにあるのが大事なんです」

石川顕|Akira Ishikawa
スタイリスト。TOKYO CULTUART by BEAMS相談役。雑誌『POPEYE』やブランド〈マウンテンリサーチ〉などのスタイリングを始め、オリジナルブランド〈ULTRA HEAVY〉を展開するなど、その活動は多岐に渡る。

次のページは、1階フロアのディレクションを担当した鈴木修司さんにお話を伺いました。