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interview with DAUGHTER. 孤独だけど、暖かい音楽。

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コクトー・ツインズ、ピクシーズ、セイント・ヴィンセント、グライムスなど、80年代以降、独自のスタイルと美意識を持ったアーティストを送り出してきたイギリスの名門レーベル、4AD。その歴史に新たに名を連ねるのがロンドン出身の3人組、ドーターだ。シンガー・ソングライターとして活動していたエレナ・トンラ(ヴォーカル)を中心に、同じ大学に通っていたイゴール・ヒーフェリ(ギター)、レミ・アギレラ(ドラム)によって結成されたドーターは、エレナのメランコリックな歌声とシガー・ロスを彷彿とさせる幻想的なギター・サウンドで注目を集めて、レーベル契約前にも関わらずアメリカの人気テレビ番組「レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン」に出演。2013年にはデビュー・アルバム『イフ・ユー・リーヴ』を発表して、4ADの新しい顔として話題を呼んだ。そんな彼らが約3年ぶりにリリースした新作『ノット・トゥ・ディサピアー』は、ディアハンターやアニマル・コレクティヴを手掛けたニコラス・ヴァーネスがプロデュースを担当。ロンドンを離れてNYのブルックリンでレコーディングした本作で、その幻想的なサウンドは一段と奥行きと広がりを増した。孤独をテーマにしたというエレナの歌詞と、幾重にも重ねられたサウンドスケープが生み出すイマジネイティヴな歌の世界。それはどのようにして生まれたのか、メンバー3人に話を訊いた。

Photo_Yuichiro Noda
Text_Yasuo Murao


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ー今回のアルバムは、初めて外部からプロデューサーを招いて制作されていますね。ニコラス・ヴァーネスの参加はアルバムにどんな影響を与えました?

イゴール・ヒーフェリ(以下イゴール):ニコラスに頼んだ時点で、アルバムはほとんど出来ていたんだ。「こういうふうにしたい」というアルバムの方向性はだいたい決まっていて、自分達のサウンドに自信もあった。必要だったのは技術的な助けで、そこをニコラスに頼みたかったんだ。僕らは独特のサウンドを持っていて、他人に「こうすれば?」みたいに指示されて自分達のサウンドを見つけてもらうタイプのアーティストではないからね。その点、ニコラスは僕達のやりたい事を理解してくれたし、共通したフィーリングを持っていたんだ。

—方向性は決まっていたということですが、アルバムを作り始めた時、何か目的にしていたことがあったのでしょうか?

エレナ・トンラ(以下エレナ):サウンド的に何か新しいことをやろうというのはそんなになくて。ただ、いろんな選択肢に対してオープンでいようって思いながら曲を書いてデモを録り始めたの。もうちょっとエレクトロニックにやってみるとか、シンセもたくさん使ってみようとか、いろんなアイデアを試しながら曲を作ったわ。

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—イギリスを離れてNYでレコーディングしたのも新しい挑戦ですね。

レミ・アギレラ(以下レミ):そうだね。僕達は新鮮な何かを必要としていたんだと思う。デモを一年近くかけて作っていたんだけれど、行き詰まって堂々巡りみたいになってた曲もいくつかあったしね。だからニコラスとアルバムについて話始めた時に、彼がNYにスタジオを持っているというのがしっくりきたというか。彼自身のスペースと機材がある、そういう環境でレコーディングするのがベストだと思えたんだ。

エレナ:今回のアルバムは、長い時間かけてロンドンで曲を書いてロンドンで作っているから、すごくロンドン的な音だと思う。でも夏に2ヶ月、NYで録音したことで、NYの夏っぽさというかエネルギーが入ったんじゃないかと思うわ。といっても、自分達のサウンドは夏っぽくないから、入ったとしてもほんの少しだとは思うけど(笑)。

—その夏っぽさを嗅ぎ取りたいと思います(笑)。でも、今作を聴くと前作以上に重層的で膨らみのあるサウンドになっていますね。

エレナ:私たちはレイヤーが(音を重ねるのが)すごく好きだから自然とそうなったの。ただ3人でやってるバンドだから、レコーディングでたくさん音を重ねても、それをライヴで再現するのには制限があるから、そこは考えながらやらなきゃいけないっていうのはあったわ。今回のライヴではキーボードのメンバーをサポートに入れているの。あと、前作ではいろんな楽器をいろんな場所で録音した。ヴォーカルは家で、ギターとドラムは別々のスタジオで、みたいな風にね。でも今回はひとつの場所で全部レコーディングしていて、それはアルバムに大きな影響を与えていると思う。

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イゴール:僕にとってのチャレンジは、曲のバランスを見つけるというか、その曲が言いたいこととその曲のサウンドを、どういうふうにコンセプチュアルに結びつけるかを考えることだった。例えば、言いたいことをサウンドによって強調するっていうやり方があるよね。逆にものすごく対照的なものにして、歌詞とはまた違う文脈をサウンドで作るっていうやり方もある。そういうバランスを考えるのが僕はすごく好きっていうか、大事なことだと思っているんだ。

—歌詞と曲のバランスについてもう少し教えて下さい。歌詞はすべてエレナが手掛けているそうですが、曲と歌詞ではどちらが先ですか?

イゴール:このアルバムで興味深かったのは、サウンドと歌詞がこれまでよりも一緒に育って行ったことだった。もちろん曲によっては歌詞から始まってサウンドやコードが生まれていくものや、それとは逆にサウンドから始まって歌詞の内容ができるものもあって、それは曲によって様々なんだけど、どちらにしても積み木をやるみたいに、その時々のバランスを考えながら曲を作りあげていったんだ。それはミキシングの段階でも同じで、「この楽器はよそう」「いや、入れよう」とか、最後までバランスをとりながらやっていった。あと、今回エレーナは歌詞を書くにあたってあまり深く考えずに、その瞬間の意識の流れのままに書いたことが曲に影響を与えていると思う。

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—歌詞に共通したテーマやイメージはありました?

エレナ:私は「さあ、曲を書こう」と改まって書くタイプじゃなくて、いろんな細かいものを頭に中に集めておいて、それが溢れ出てくるのを待って書くタイプなの。だから後から共通したテーマに気がつくことが多いけど、今回は全体的に孤独を感じさせるものが多かったと思う。それは私がこの2年間に感じていたことだったりもするわ。ただ、その孤独感は曲によっていろんなかたちをとっているの。自分の視点だったり、他の人の視点だったりしてね。例えば祖母のことを書いた曲があるけど、そこでは祖母の視点に立って歌詞を書いている。ただ、孤独を感じるだけではなく、それと戦う強さみたいなものもあって欲しいと思ってるわ。そこは曲(サウンド)が助けてくれるというか。ヴォーカルはすごく悲しげかもしれないけど、音が暖かくハグしてくれるというか。ただ悲しいだけじゃなくて、気分を高めてくれるような曲になっていてほしいと思ってる。

—確かにドーターの曲はメランコリックですが、優しく包み込んでくれるようなサウンドですね。

エレナ:良かった(笑)。そう感じてもらえると嬉しいわ。

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—それと同時に幻想的な美しさがあって、アートワークのイメージとぴったりだと思いました。最後にアートワークについて教えてください。この絵はサラ・ショウというイギリスの画家の作品だとか。

イゴール:僕のガールフレンドがアートギャラリーをやっていて、一緒にブライトンのアートフェアに行ったんだ。そのカタログでこの絵を見つけて「これだ!」と思った。その時点ではまだアルバムも完成してなかったし、ヴィジュアルのイメージを集めてるような状態だったんだけどね。それでアルバムが完成した時にサラに連絡をとったら、彼女が「ドーターの音楽が好きなの」って言ってくれて、絵を使うことを快諾してくれたんだ。でも、実はこれは油絵で、写真に撮ると細やかな色合いみたいなのがなかなか伝わらなくて、ちょっとがっかりしてるんだ。ほんとに刺激的なイメージだと思うし、想像力を刺激するし、独特のオーラがある。僕らもアルバムやサウンドに対して、そういうものを持ってほしいと思っているんだ。薄れかけてるんだけど輝いてる、そういう雰囲気のサウンドにしたいと思っているから、そこがアートワークと共通しているところだと思うな。

エレナ:あと、すごく曖昧で、いろんなイメージが浮かぶ絵だと思う。だから、観る人によって受け取るものも想像するものも違う。自分たちの音楽も、そういうものであって欲しいと願っているわ。

DAUGHTER JAPAN TOUR 2016

【大阪公演】
日程:2016年4月13日(水)
時間:18:00(OPEN)19:00(START)
場所:Umeda CLUB QUATTRO
住所:大阪府大阪市北区太融寺町8-17
チケット:¥6,000(前売り/スタンディング)
お問い合わせ:06-6535-5569(SMASH WEST)

【東京公演】
日程:2016年4月14日(木)
時間:18:00(OPEN)19:00(START)
場所:恵比寿LIQUIDROOM
住所:東京都渋谷区東3-16-6
チケット:¥6,000(前売り/スタンディング)
お問い合わせ:03-3444-6751(SMASH)