穏やかな湖面にただよう、“山”らしき写真。アートや写真にそれほど詳しくなくとも、この写真を見れば、きっと何か感じるものがあるはずです。このちょっと不可思議な“山”の写真を撮影したのは、写真家濱田祐史。
いくつかの商業誌で活躍したあと、活動の主なフィールドを自身の作家活動に定め、ゆっくりと、でも確実に印象的な作品を残してきました。
この“山”の写真は「Primal Mountain」と名付けられた連作で、こちらのHPで作品の一部がご覧になれます。作品の詳しい解説はそのHPに譲りますが、今回ご紹介したいのは、この特異かつ幻想的なシチュエーションについてなのです。
一体これはどんな展示なのか?
今年の9月から10月にかけて、スイスのヴェヴェイで行われたフェスティバル、「Images」。
屋外展示を主体とした2年に一度行われるイベントで、写真のみならずイメージとして想起させる映像やインスタレーションをミックスしていて、ヨーロッパでも近年とても注目されているイベントなのです。
展示している作家も美術家、写真家、インスタレーション作家、など様々。
イメージ(画像)とは何か?我々が見ているもの/見えているものは何か?というものをイベント全体で表現しており、鑑賞者も体全体を使って体感し、アーティストとコミュニケーションをはかることができるというイベントなのです。
実に素晴らしい取り組みですね。作品たちが街というキャンバスの上でいきいきと輝いています。こうしたイベントのなかで、冒頭のような濱田氏の展示が行われたわけです。
ちなみに濱田氏の作品は、「images」のHP上でこのようにトップページで大きく扱われており、現地でも高い人気を誇っていたもよう。
ここからは、濱田氏が気になって、街で見かけた作品群をご紹介しています。
もうすでに有名な作家のものから、新進気鋭のアーティストまで様々です。
共通して言えるのは、どの作品にも一種のユーモアが介在しているということ。そしてアートの教養あるなし関係なく、誰でも見ればわかるという視覚的な迫力とフィジカルな魅力。
これまでにも多数の展覧会に参加してきた濱田氏ですが、一番といっても良いくらい作品がフィットしていたのではないでしょうか。
そして、そんな濱田氏ですが、今年自身初となる写真集『photograph』をリトルプレスレーベル「lemon books」から刊行いたしました。
「印画紙の上で光を描く」ということを命題に、日常的な場所・空間にある光を具体的に眼に見えるように撮影した連作です。実はこのシリーズは制作より10年弱のときが流れています。ですが、一向に古びず、今もなお新鮮で情感に訴えかけるような瑞々しい魅力に満ちています。
さらにこの『photograph』は「The Paris Photo-Aperture Foundation PHOTOBOOK AWARD2014』のショートリストに選ばれました。結果は今年の11月14日に発表になります。
と、今年に入ってから目覚ましい躍進を見せる濱田氏。こうして脚光を浴びるようになる前からひそかに応援していた身としては万感の思いです。
濱田氏の作品は、一切の言語を必要とせず、簡単に海を越えていきます。そのユニバーサルなスタンスは活動初期の頃より何も変わっていません。
今後も脳ではなく心で見るような、ある種プリミティブな写真を撮り続けていってほしいと思います。