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Interview with Jamie xx. ジェイミーXXの叙情的な音楽は、いかにして生まれたのか。

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デビュー・アルバム『xx』で英国最高峰のミュージックアワードと称されるマーキュリー・プライズを受賞し、世界的な評価を得たバンドThe xx。その頭脳にして、ソロ名義ではDJ/プロデューサーとしても活躍するジェイミーXXにインタビューを敢行した。ポスト・ガラージやダブステップ、さらにはソウルやジャズといったジャンルレスなリミックスを得意としながら、そのサウンドはどれもが叙情的。唯一無二ともいえる彼の世界観は、どのようにして生まれたのか。

Photo_Satomi Yamauchi
Interview&Text_Yukiko Inoue
Edit_Kenichiro Tatewaki

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— (来日公演を終えて)ライヴ、長丁場でしたがご苦労さまでした。気付くと2時間近くがあっと言う間に過ぎていった楽しい瞬間でしたが、ご自身ではいかがでしたか?

ジェイミーXX: 日本に来る前はオーストラリアにいてフェスに参加していたんだけど、そっちではオーディエンスが皆酔っ払っていたんだ。でも昨日のショーはそれとは全く異なって、みんな僕のDJの敬意を示してくれていた。だから全く異なる楽しみ方ができたね。

— オーディエンスとの一体感もすごいものでしたね。

ジェイミーXX: そうだね、すごく良かった。頑張ったよ。

— 心の喜怒哀楽を時に静かに、エモーショナルに描いた最高にドラマティックなセットリストでしたが、そこに込めた思いを教えて下さい。

ジェイミーXX: 残念ながらまったく覚えてないんだ(笑) でも、会場のみんなに楽しんで貰うことが一番重要だった。皆にこのセットの中で旅をして貰えるように折衷的なセットリストを意識して作ったよ。

— “旅”というキーワードをよくご自身の仕事に用いていますが、DJをするにあたってその辺りに気をつけているんですか?

ジェイミーXX: そうだね。自分自身がオーディエンスとして遊びに行く時(他の人がDJする時)も旅のフィーリングのあるDJを楽しんでいる。自分の想像を超えた、予想できないプレイが個人的に好きなんだ。

— 生のバンド演奏ではなく、ステージにはDJとしてのあなた1人だけになるわけですから、当然照明が音楽やステージをより高揚させる上で重要なものでしたし、実際音楽とのシンクロは本当に素晴らしかったです。その辺りにこだわった部分はありますか?

ジェイミーXX: もちろん。それは自分の中でもすごく大切な要素で、前にリリースしたアルバムのテーマが“カラフル”ということもあるし、照明はフルに活かそうとしている。昨日のライティングをやっていたのはThe xxを手掛けてくれている人でもあるんだけれど、もう5、6年ずっと一緒にやっているので僕のスタイルをすごくよく理解してくれているんだ。彼はキーボードを使ってライティングを操っているんだけれど、まるで一緒にプレイしているような気分にさえなる。そのくらい照明にはこだわりがあるんだ。

— もう一人のメンバーと言っても過言ではない。

ジェイミーXX: 確実にそうだね。彼がいなかったらあそこまでの良いショーは出来ないね。

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— 昨年にリリースされたアルバム『In Colour』は、ジェイミーXX名義であってThe xxではありません。しかしながら、アルバムにはロミーやオリバーが参加している。3人の共同製作ではないということからも、本作は極めてプライベートな作品であるという風に推測するのですが、それで間違いありませんか?

ジェイミーXX: そうだね。自分のインスト音楽を作ることで一番良いと思う部分は、言葉が無いことによっていろんな人が自分なりの解釈を持って繋がることが出来るということ。そういうことをソロのプロジェクトとしてやりたかったというのはあるね。

— そういう意味ではあなたの人生の記憶や思い出、日記という風にも取れる気がしますが、どうでしょう?

ジェイミーXX: 日記というよりも、その音楽が持つ意味が、聴く時々で変わるんだ。作っている時は自分にとってある特定の意味がある作品だったのだけど、2、3年経って聴いてみるとまた違った意味を持っていたりする…。そういう醍醐味もあるね。

— トライアングルの関係で作る作品より、ソロはある種の偏りが出そうですが、本作を制作する上で、プロデューサーの立場として気をつけた部分はありますか?アーティストとプロデューサーという2つの立場が本作には存在すると思うのですが。

ジェイミーXX: 僕の場合はソングライティングとプロデューサーの違いはあまりなくて、それらは一つの流れの作業なので、自然の流れに任せてやっているよ。

— 曲作りの一番ベーシックにあるのはビートですか?

ジェイミーXX: メロディだと思う。僕に関して言うならメロディを作るのが一番得意なんじゃないかと思うね。

— なるほど。とはいえ、あなたの作るものはビートに重きを置いた優れたダンスミュー ジックでもあると思います。ダンスミュージックへのこだわりについても聞かせてもらえますか?

ジェイミーXX: 僕がダンスミュージックを好きな理由は、悲しい曲に対して皆がダンスするっていうところ。そこがこだわりであり、醍醐味だね。悲しい音楽とハッピーな行為であるダンスを同時に行えるというのが、ダンスミュージックの素晴らしい部分だと思う。

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— あなたのバックグラウンド、音楽的なルーツについても聞かせて頂けますか?

ジェイミーXX: 両親の影響もあって、幼少の頃からソウルミュージックをすごく聴いていたよ。

— ソウルのどういう部分に特にシンパシーを感じましたか?

ジェイミーXX: 感情的な部分とか、サウンドそのものも素敵だと思うんだ。今でもソウルミュージックを聴くとそれを聴いていた子どもの頃の自分の感情を想起したりするんだよ。

— 想像するに、無邪気な幼少期というよりは悲しみも喜びも両方知っている成熟しているこどもだったような印象です。だからこそ、ソウルに対して強いシンパシーを感じるのかなと。

ジェイミーXX: うん。良い見解だね。

— 一体どんな少年だったんでしょう?

ジェイミーXX: 学校に通っていた時はちょっと浮いていたというかあんまり学校が合わなくて結局行かなくなっちゃったんだよね。そこからずっと独りで音楽を作っていたんだ。

— いくつの時ですか?

ジェイミーXX: 15歳の頃。

— 家族の中に音楽関係者がいたというわけでは?

ジェイミーXX: 父親が若い頃ドラムをやっていた。でも僕は父がドラムをプレイしているのを見たことがないんだ(笑)

— それは残念ですね。言葉こそ作品の中では発せられませんけれども、私はその観察力も含めて、あなたは素晴らしい詩人だと思っています。自身の感情を表現することに非常に優れていらっしゃるわけですが、そういう意味で影響を受けた人がいれば聞かせて下さい。

ジェイミーXX: 今、ギル・スコット・へロンとアーサー・ラッセルについての本を読んでいるよ。音楽そのものに影響されるというよりは、僕の場合アーティストの人生すべて、彼らの自伝や伝記から影響されることが多い。本を読んでこれまでと何か違う考え方を持てるようになったり…、そういうかたちで影響を受けるね。

— ロンドンのどの辺りの出身ですか?というのも、あなたの作品はあらゆる音楽からの良き影響とインスピレーションを感じるのですが、とりわけレゲエやラガ、ジャングル、ドラムンベースといった黒い音楽のルーツが耳にとまるので。それらはどういう経験から来たのか聞かせてください。

ジェイミーXX: 僕はサウスロンドン出身なんだけれど、そこにはカリビアンの人がたくさん住んでいる。そこはジャングルの発信地でもあるし、ダブステップやレゲエの発祥地でもあるんだ。

— 自分の人生の中に普通に存在していたもの、日常が音楽に影響していると。

ジェイミーXX: そう。街やヴェニューでバンドもそういう音楽をプレイしていて。街中どこでもそういう音楽が流れていたからね。

— 確かに作品の中にイギリスの多文化的な側面を肯定する響きを感じるのですが、思春期に最も影響をうけた音楽やカルチャーについても聞かせて下さい。

ジェイミーXX: やはりソウルだね。ティーンの時もソウルを聴いていたんだ。それで、その頃からエレクトロだったり、サンプルを使った音楽に興味を持ち始めて、そこからダンスミュージックに興味を持ったり、そういうシーンの中に出かけていくようになった。

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— 本作では、ビートでもThe xxに通ずるオーガニックで太いサウンドが特徴的であると思います。ビート面でこだわっている部分についても聞かせて下さい。

ジェイミーXX: 感情を表現すること。メランコリーな気持ちや喜び、そういうものを表現しようとするとあんなビートが出てくるように思う。

— 作り込む作業=スキルは過程であって、あなたの作品にとって重要なのは記憶なのかもしれませんね。私はあなたのことを人々の記憶を呼び覚ます力のある優れた“詩人”であると思うのですが、ご自身ではどう思いますか?

ジェイミーXX: 僕自身、ノスタルジックな人間なんだ。だからこそ、そういう作品が生まれるのかも知れないね。

— また、あなたの作品は既に聴いたものでなく、既に繰り返されたものでもない。斬新さもあるし、発見もある。それはカルチャーやアートにおいてすごく重要な要素だと思うのですが、そういう意味で今刺激を受けることはありますか?

ジェイミーXX: The xxのロミーの新曲から、今はすごくインスピレーションを受けているよ。

— そのThe xxはどうなんでしょう?次の作品はいつ頃になりそうですか?

ジェイミーXX: まだわからないんだ。でも、そう遠くないうちに完成させることができると思う。

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— 最近のイギリスのクラブ事情はいかがですか?

ジェイミーXX: やはり土地の値段が上がったり色々とあって、どんどん閉鎖されているね。と同時に、本当にエキサイティングなクラブ・シーンが今でも存在していて皆そこに集まって盛り上がっているよ。

— あまり流行は気になさらないと思いますが、その中で面白いトレンドみたいなものがあったら教えて下さい。

ジェイミーXX: PC Musicじゃないかな?僕自身はあまりファンじゃないんだけどね、ペッカムのサウスロンドンの子たちは、今それにすごくハマっているというよね。ディスコもすごく大きくなってきている。イーストロンドンで行われているパーティはディスコが主流だね。

— 今日お話しさせて頂いて、作品において一番重要にしているのがソウルであるということがよくわかりましたが、それを踏まえた上で、次のアルバム、ひいては今後挑戦したいことがあれば教えて下さい。

ジェイミーXX: 出来ればソングライティングをもっと強化していきたい。例えば今よりももう少し正直な気持ちだったり、リアルなことを落とし込めるようにしていけたらと思っているところだよ。