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FEATURE|PANTHER is Reborn ミタスニーカーズとWISMが歴史あるニューカマー「パンサー」に着目したワケ。

PANTHER is Reborn

ミタスニーカーズとWISMが歴史あるニューカマー「パンサー」に着目したワケ。

1970年代に全国の学校指定靴として採用され、当時の子どもたちのあいだで一大ムーブメントを巻き起こした〈パンサー〉が、この春“メイド・イン・ジャパン”のカジュアルスニーカーとして復活を遂げる。その動きをいち早くキャッチし、他に先駆けて取り扱うことを決めた『ミタスニーカーズ』の国井栄之と『WISM』の市之瀬智博は、なぜこのブランドに着目したのか? そして、スニーカーブーム再来と言われる今、このブランドをどのように捉えているのだろうか?

  • Photo_Keita Suzuki
  • Text_Issey Enomoto
  • Edit_Hiroshi Yamamoto

そもそも、〈パンサー〉とは何か?

〈パンサー〉というスニーカーブランドを知っているだろうか? 20代や30代の若い世代にはあまり馴染みがないかもしれないが、40代以上の世代なら懐かしさを感じずにはいられないはずだ。というのも、今から52年前の1964年に誕生したこのブランドは、数々の日本のトップアスリートを足元から支えたほか、1970年代には全国の学校指定靴として採用され、子どもたちのあいだで一大ムーブメントを巻き起こしたからだ。

1970〜80年代の〈パンサー〉のデッドストック。見るからに“学校指定の運動靴”の佇まいだ。

そんな〈パンサー〉がこの春“メイド・イン・ジャパン”のカジュアルスニーカーとして復活を遂げる。そこにいち早く目をつけたのが『ミタスニーカーズ』と『WISM』。今回のファーストコレクションはこの2店舗で先行販売される。
『ミタスニーカーズ』の国井栄之と『WISM』の市之瀬智博は、なぜこのブランドに着目したのか? ふたりに話を聞いてみた。

国井と市之瀬、それぞれの〈パンサー〉に対する思い。

左/国井栄之(ミタスニーカーズ クリエイティブディレクター)
右/市之瀬智博(WISM ディレクター)

—『ミタスニーカーズ』と『WISM』で〈パンサー〉を先行販売することになった経緯を教えていただけますか。
国井:もともとのきっかけは、メーカーさんから「試作段階のサンプルを見てほしい、そして意見を聞かせてほしい」と言われたことです。そうして見せてもらった〈パンサー〉の最初のサンプルは、カラーリングを今っぽくコンテンポラリーにアレンジしたものでした。
それまでは僕自身、〈パンサー〉というブランドに関しては、名前を聞いたことがある程度。詳しいことはよくわからず、実際に履いたこともありませんでした。
そんな〈パンサー〉というブランドをもっと深く知りたいと思って、メーカーさんに昔のカタログを探してもらい、見せてもらいました。そうしたら、当時のオリジナルがとてもかっこよく見えた。そこで、「カラーリングを含めて、昔のままを忠実に再現するのがいいんじゃないか」とメーカーさんに提案したんです。
市之瀬:そのあたりの経緯や、サンプルを最初に見たときに感じたことは、国井くんとだいたい同じかな。変に今風にアレンジするよりも、昔のままのほうが断然かっこいいじゃん、と。それくらい昔のカタログに載っていた〈パンサー〉のスニーカーは魅力的に見えました。

今回のプロジェクトが始動したきっかけとなった昔の〈パンサー〉のカタログ。

国井:ただ、当時のものを忠実に再現しようとすると、スウェードの発色や風合いなど、正解があるがゆえに、逆に難しくもある。また、見た目は当時のままだとしても、履き心地は現代のものにアップデートしたほうがいい、ということもメーカーさんに伝えました。
で、それを受けて上がってきたサンプルが、僕の意見を見事にかたちにしたものでした。色合いや風合いの再現性が驚くほど高く、また、履き心地に関してもオーソライトのインソールを敷くことでクオリティを高めていました。
今回の復刻は“メイド・イン・ジャパン”というコンセプトも聞いていたし、職人気質で頑固なところもあるのかなと思っていたけれど、いろいろな面でとても柔軟に対応してくれて、ブランドとしてバランスの良さを感じました。

素材の風合いや色合いは昔のものを忠実に再現したもの。

クッション性に優れたオーソライト社製のインソールに用いることで履き心地を向上している。


最近のトレンドとはちょっと違う。だからこそ、面白い。

市之瀬:実は僕の場合、今だから言えることですけど、最初にメーカーさんから話をもらったときの第一印象は、ちょっと複雑なものでした。「しかしまた、すげえの持ってきたなあ」と(笑)。〈パンサー〉というブランド自体よく知らなかったし、見た目的にも現在のスニーカーシーンにおいて主流のものとはまったく違うかたちだと思ったし。
国井:たしかに、このかたちは最近のスニーカーのトレンドとはちょっと違いますよね。
市之瀬:でも、今の主流ではないからこそ、それが逆に面白いかな、と思ったのもまた事実。『WISM』だけで扱うのは厳しいかもしれないと思いつつ、どこかがいっしょにやってくれるんだったら、『WISM』でも扱ってもいいかなと思いました。こういうペタッとしたフォルムのクラシック靴って、メインストリームじゃないゆえの新鮮さがあるし、コーディネートの仕方によってはかっこよく見えるんじゃないかという思いもありました。
国井:そこは僕も同じ考えです。スニーカーショップの立場からすると、選ぶ側の選択肢を広げてあげるというのも僕たちの役割のひとつだと思っています。今、“メイド・イン・ジャパン”のクラシックなスニーカーという括りは他にあまりないので、そこにちょうど〈パンサー〉がタイミング的にハマったというのも、『ミタスニーカーズ』で取り扱うことを決めた理由のひとつです。
僕らの仕事って、商売だけのことを考えたら、“売れるもの”だけをセレクトして販売すれば、それでいいのかもしれません。でも、〈パンサー〉に関しては、“売れるもの”を提案したいというよりも、“売りたいもの”を伝えたい、という思いが強い。それがないとショップが自動販売機のようになってしまいますから。
市之瀬:そうですね。『WISM』としても、単発で盛り上がるようなものではなく、継続的にやっていって、ゆくゆくは定番になればいいなと思っています。

国井と市之瀬、福島の工場を訪れる。

今回復刻される〈パンサー〉は“メイド・イン・ジャパン”であることが大きな特徴となっている。それは実際、どのような場所で、どのように作られているのか? 国井と市之瀬から「モノ作りの現場をぜひ見てみたい」という熱い要望を受け、福島県にある工場を訪れた。
そこで国井と市之瀬が目の当たりにした〈パンサー〉のスニーカーの製造工程は、ふたりが事前に想像していた以上に機械が入り込む余地がなく、ほぼすべてが手作業によって行われていた。
素材を裁断し、貼り合わせ、縫い合わせるーー。それぞれの工程は熟練の職人たちによって分業制で進められる。いずれの作業も高い技術と豊富な経験が求められ、ミリ単位のズレも許されない。国井と市之瀬はひとつひとつの工程を真剣な眼差しで見つめていた。
裁断から縫製、そして成型まで、合計60にも及ぶ工程を経て、ようやく一足のスニーカーが完成する。工場の担当者によると、〈パンサー〉のスニーカーはパーツ数や工程が多く、一般的なスニーカーに比べてはるかに手間と時間がかかるという。

モノ作りの現場を見て、国井と市之瀬が感じたこと。

〈パンサー〉が実際に作られる現場を見て、国井と市之瀬は何を感じたのだろうか。
市之瀬:僕は今回、靴の工場を見学するのは初めてでしたが、パーツや工程が思っていた以上に多くて驚きました。靴作りって大変なんだなと改めて。
国井:〈パンサー〉のスニーカーって見た目はシンプルですが、実際はものすごく手間がかかっていることがわかりましたね。
市之瀬:あと、日本人のモノ作りの“繊細さ”を強く感じました。職人さんたちの手先や指先がとても美しかったのが印象的でした。
国井:同感です。僕は過去にアメリカの靴の工場を見学したことがありますが、日本の工場に来たのは今回が初めて。アメリカの工場では、いい意味での“無骨さ”や“ラフさ”を感じたのに対して、この〈パンサー〉の工場で感じたのは日本人らしい“繊細さ”です。そういう部分が“メイド・イン・ジャパン“ならではなのかなと。
市之瀬:個人的には、スニーカーに限らず、“メイド・イン・ジャパン”であること自体に価値があるとは思っていなくて。ジャパンだからとかチャイナだからUSAだからとか、ポイントはそこではないんじゃないかと。でも、今回工場を見学させてもらって、ちょっと見方が変わったかもしれない。日本のモノ作りって、やっぱりすごいわ。
国井:僕も“メイド・イン・ジャパン”だから偉いとか、そういう考えはまったくないです。でも、日本のモノ作りの良いところが、〈パンサー〉のスニーカーには詰まっている。今回工場を見学して、改めてそう思いました。先ほど話に出た“繊細さ”こそが〈パンサー〉ならではの色であり、価値である。それを身をもって体感できたことが、今回工場を訪れて得た大きな収穫です。
市之瀬:僕たちは今回こうやってモノ作りの現場を見せてもらう機会を得ましたが、ここで見たことや感じたことを、お客さんにきちんと伝えていきたいですね。ただ「メイド・イン・ジャパンです」とか「ハンドメイドでつくってます」とか、そんな単純な話じゃないですから。それをうまく伝えていけたら、〈パンサー〉の魅力もどんどん広めていけるんじゃないかな。
最後に、〈パンサー〉の製造過程を追った動画を紹介しよう。国井と市之瀬が現場で感じた日本人のモノ作りの“繊細さ”を、この映像から感じてもらいたい。
PANTHER GT DELUXE
アッパーにスウェード素材を使用した「パンサー GT デラックス」。オフホワイト、ネイビーの2色展開。各¥15,000+TAX
PANTHER DERA
アッパーにナイロン素材を使用した「パンサー デラ」。ホワイト、ネイビー、エンジ、コバルトの4色展開。各¥13,000+TAX