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栗野宏文さんがパラブーツを愛するワケ。

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ー〈パラブーツ〉が売場に並ぶようになってすでに10数年とか。

栗野宏文(以下、栗野):当時の〈パラブーツ〉は、評価は高いが地味な存在でした。埋もれていた魅力を発掘することが好きなディストリクトにとって格好の存在でしたね。別注の第一弾は、確かグレインレザーのウイングチップ。汚れに強いグレインレザー、パラテックスソール、ノルヴェジェーゼ製法というガンガン履けるつくりで評価をいただきました。それからは毎シーズンのように提案してきました。定番のシャンボードではカラーシューレースをとおしたモデルやホワイトソールのモデルをリリース。中でもペリアンは最も特別なモデルだと思っています。インラインに存在しなかった外羽根のプレーントウをイチからつくり上げてもらったもので、モデル名はシャルロット・ペリアン(フランスの建築家)から採ってネーミングしました。

ーその魅力は?

栗野:誤解を恐れずに言えば、〈パラブーツ〉はブサイクです。しかしそれは見栄えではなく、機能を追求してたどり着いた佇まいであり、質実剛健を体現したその靴はタイムレスの価値観も獲得しています。〈ロレックス〉のオイスターや〈オメガ〉のスピードマスター、〈フォルクスワーゲン〉のビートル……、亀の子束子からもおなじ匂いがします。

北島康介選手が引退会見で細身のスーツを着ていました。鍛え抜かれた身体にはとても似合っていましたが、あのスーツはそれ自体のシェイプも美しく、誰が着てもそれなりにサマになる。一方、野暮ったい靴は履き手の力量が試される。そこが面白いと思うのです。

質実剛健の観点でいえば、自社でラバーソールのパーツ自体を製造する会社という点も見逃せません。〈パラブーツ〉はラテックスの可能性に着目したブランドであり、ブランド名はラテックスの仕入れ先であるブラジルのパラ港から採っています。雨が多い日本にとって妥協なくつくり込んだラバーソールのプライオリティは高い。東京で年間100日降るといわれていますからね。ちなみに長崎にいたっては130日ちかく。内山田洋とクール・ファイブの曲「長崎は今日も雨だった」は創作じゃなかったんですね(笑)。

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ー質実剛健を重んじるのはやはり、トラッド的なものへの愛着でしょうか。

栗野:仕事柄、いろいろな服や靴を試してきましたが、一貫してその軸はぶれなかった。デザイナーブランドを選ぶときも例外ではありません。〈ドリス ヴァン ノッテン〉しかり、〈コム デ ギャルソン〉しかり、エディ・スリマンしかり。根底にはトラッドへの敬愛が感じられるブランドばかりです。そう言えば、エディは’90年代に〈イヴ・サンローラン〉を手掛けていたとき〈パラブーツ〉で靴をつくっていますね。

トラッド・マインドの大切さに開眼したのは多分19歳のころ。ワードローブを見返して高校生のころにさんざん袖をとおしてきたボタンダウンシャツやブレザーが何年も経っているのに古びていないことを再確認しました。

〈パラブーツ〉はトラッドともうひとつ、リラックスというマインドにもフィットしています。’80年代にソフト・コンストラクションを打ち出したジョルジオ・アルマーニは紳士服の概念をがらりと変えました。その後、さまざまなブランドが登場するものの、アルマーニが具現化したリラックス・マインドのコンセプトは色褪せることがありませんでした。〈パラブーツ〉はこの気分に応え得るスペックをそなえており、それはスニーカーのような革靴とも言えますね。

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ー2年ほどまえに投入したのが「フォトン」ですね。

栗野:服のシルエットが変わるのにあわせてラインナップに加えました。それまで縦のラインを強調するシャープなシルエットだったものが、丸くなってきたタイミングです。服の発注サイズのレンジもワンサイズ上にスライドしました。例えば、今日着ているジャケットも50です(栗野さんは通常46を選ぶ)。中心にゆとりをもたせつつ、肩のラインは丸く、ボトムはテーパードさせた紡錘型のシルエットにぴたりとハマる靴が「フォトン」だったのです。

サイドゴアのデザインはモッズやパンク、ニューウェーブ、ニューロマンティック……そういうイギリス的な流れにも合致します。

ー履いた感想はいかがですか。

栗野:スリップオンながら甲をしっかりと覆ってくれるのですこぶる快適です。そしてほんとうになんにでも合う。今日のようなリラックスした着こなしはもちろん、スラックスを軸にしたドレッシーなスタイルにも溶け込みます。わたしは〈ニューバランス〉も好きですが、もう少しドレッシーに仕上げたいときについ手が伸びる一足です。

ー6月にはネイビーの「フォトン」が出ると聞きました。

栗野:ネイビーの靴はいろんなブランドでつくってきました。〈オールデン〉とか、〈チャーチ〉とか。ネイビーを提案して3年は経つんじゃないでしょうか。スーツにもあわせられる品の良さがおすすめです。

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〈パラブーツ〉の「フォトン」は、オイルをしみ込ませたやや厚めのレザーを使用。写真左はスエード、その他はカーフ。ディストリクト ユナイテッドアローズではカーフの黒と茶のモデルを揃え、6月からはネイビーのモデルを発売する。各¥58,000+TAX

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〈パラブーツ〉の「フォトン」を履いた、栗野さんのコーディネート。ジャケットは〈ディストリクト〉、ソックスは〈アンティパスト〉、カットソーとTシャツは〈tsuki.s〉、パンツは〈1205〉のもの。すべてディストリクト ユナイテッドアローズ。

栗野宏文
ユナイテッドアローズ・クリエイティブディレクション担当上級顧問。1953年生まれ。和光大学卒業後、鈴屋、ビームスを経て1989年、ユナイテッドアローズの立ち上げに参画。全社の方向性をクリエイション面から考える立場にあるが、2000年にオープンしたディストリクト ユナイテッドアローズではいまなおみずからディレクションとバイイングをおこなっている。

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