―「フォトン」導入は個人的体験がきっかけとか。
中西正拡(以下、中西):初めてのパリがさんざんだったんです。からまれたり、スリにあいそうになったり……。
庶民的な街に溶け込みつつ、サントノーレも歩ける品があること。さらにいざとなったら走って逃げられること(笑)。この条件を満たしてくれる靴をそれこそ足を棒にして探しまわって、一目惚れしたのが「フォトン」でした。フィット感が高く、ラバーソールのそれは歩行道具として申し分ない。いたってシンプルなプレントウだからスラックスに合わせられる汎用性もある。
短丈のサイドゴアってのもたまらない。見慣れないかも知れませんが、じつは1900年代前半のアメリカではポピュラーなデザイン。その簡素なつくりといい、おそらく工場で働く男たちの作業靴的な位置づけだったと思われます。
―別注でつくられたのがスエードですね。
中西:表革って思いのほか切り傷が入りやすいんです。取引のあるファクトリーのアプローチにはオフロードな道のりが多いし、緊急事態には走らなければなりませんからね(笑)。
ロフトマンが別注した、〈パラブーツ〉の「フォトン」。インラインにはない黒のスエードを使用。¥58,000+TAX(ロフトマン)
―〈パラブーツ〉はいつから扱っているのですか。
中西:店が京都の今出川(ロフトマン誕生の地)しかなかったころからありましたから、かれこれ数十年。本格的に取り組むようになって7〜8年が経ちます。〈ダナー〉や〈ラッセルモカシン〉などアメリカのアウトドアシューズのラインナップが完成して、つぎのステップとしてヨーロッパに注目しました。そこで選んだのが〈パラブーツ〉でした。
アルプスの麓にあるイゾーに居を構え、登山靴の名ブランド〈ガリビエール〉をつくっていたファクトリーです。条件としては文句のつけようがなかった。しかし、それ以上に感じ入ったのは街履きできる面構えでした。フランス生まれのプライオリティなのでしょう、どこか抜け感がある。
マスプロダクトという枠のなかで勝負しているのもいい。ぼくらが手の届く範疇で切磋琢磨しているところはアメリカの思想にもつうじます。もちろん職人仕事を駆使したワンオフ的な発想もそれはそれで好物ですけど。
それまではアメリカやイギリスにばかり目が向いていましたが、100年つづくブランドはどこの国で生まれようがトラディショナルなんですね。これを教えてくれたブランドです。
―ロフトマンといえばアメカジですが、中西さんも根っからのアメカジ好きだったんでしょうか。
中西:いえ、じつはデザイナーズブランドがファッションのとっかかりです。いまのぼくからは想像がつかないと思うんですが、かつてはドカベン的体躯をウリに甲子園を目指していた高校球児でした。折しもデザイナーズブランド華やかなりしころ。憧れは人一倍あったのに物理的に受けつけない(笑)。すこしウエイトを落とそうと走り出したら面白くてやめられなくなった。痩せて服は着られるようになりましたが、野球選手としては圧倒的にパワーが足りなくなった。これでは到底プロになれないと悟ったぼくは服の世界を目指すことに。
さんざん散財して、服のクオリティとプライスはかならずしも比例しないことに気づきます。そこからプロダクト寄りのブランドに惹かれるようになるまで、たいして時間はかかりませんでした。そうしてロフトマンの門を叩くんです。
ぼくは服の学校を出ていません。それはいまもコンプレックスだったりするんですが、おかげで履いて試す、着て試すことを億劫がらずにすんだ。それなりに名の通ったモデルで履いていない靴はないと思います。ワードローブにはたくさんの靴があります。引け目があったからいち早く〈パラブーツ〉が見出せた、という自負も芽生えました。
中西さんが提案する〈パラブーツ〉の「フォトン」に合わせた着こなし。フランスのブランド〈ケーシーケーシー〉のジャケットとパンツ、〈ポストオーバーオールズ〉のベスト、山梨・富士吉田市を拠点とする〈オールドマンズテーラー〉のシャツ、〈ジェームス・ロック〉の帽子、〈マウンテンリサーチ〉のネッカチーフ。すべてロフトマン。
―スタイリングのポイントを教えてもらえますか。
中西:その出自を踏まえて作業靴的な着こなしを意識しました。イメージはアトリエのパントル(画家)。スエードとの相性がよく、これからの季節にいいリネンのセットアップを合わせました。ショップコートを羽織ってもいいかも知れませんね。
―「フォトン」への期待を一言。
中西:〈パラブーツ〉はつねにベンチ入りするブランドで、主軸に「ミカエル」と「シャンボード」、スポットで「アヴォリアーズ」や「ランス」という打順をくんできました。「フォトン」はクリーンナップへの定着も夢じゃない逸材です。
「フォトン」のインラインのモデル。写真上はスエード、下の2足はカーフ。カジュアルからフォーマルまで幅広いスタイルに合わせやすく、雨の日にもおすすめ。各¥58,000+TAX(パラブーツ)
中西正拡
チーフバイヤー。甲子園常連の野球部出身。高校を卒業後、建築の専門校へ。早々に卒業に必要なほとんどの単位をとってしまうと、服屋のアルバイトにハマり、2004年、ロフトマン入社。試して仕入れることをみずからに課し、これまで数多くの靴を履いてきた。〈トリッカーズ〉をアメリカのワークブーツ代わりに履くスタイルが好きだったが、最近はもっぱら「フォトン」。
ロフトマン
住所:京都府京都市中京区寺町通蛸薬師下ル円福寺前町280
営業時間:11:00 〜 20:00
電話番号:075-212-5352
www.loftman.co.jp
パラブーツ大阪店
住所:大阪府大阪市中央区南船場4-6-15
営業時間:11:00 〜 20:00(水曜定休)
電話番号:06-6251-1125
パラブーツ青山店
住所:東京都港区南青山6-12-3
営業時間:11:00 〜 20:00
電話番号:03-5766-6688
www.paraboot.com
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