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HIP THINGS VOL_5 斧から始まった、ていねいなものづくり。ベスト メイドの確固たる哲学とは?

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昨今様々なところで叫ばれている、“変わりつつあるアメリカ”。目の届く範囲で行われたていねいなものづくり、地産地消による安心・安全な食生活などなど、多くの人がこれまで抱いてきたある種ザックリとしたイメージとは全く異なる方向に、大国アメリカはゆっくり歩みを進めつつある。

2008年に起こったリーマンショックを一つのきっかけとしたこれらの動きを、総括的にまとめた書籍『ヒップな生活革命』が話題である。著者の佐久間裕美子氏には先ごろ発売になった『フイナム・アンプラグド』にて、今のアメリカの衣食住について執筆してもらっている。

今回取材してきたのは、NY発のライフスタイルブランド〈ベスト メイド(BEST MADE)〉。日本初上陸となるポップアップストアが、神楽坂の複合的ライフスタイルショップ「ラカグ(la kagu)」にできるという。

また、〈ベスト メイド〉のオーナーのピーター・ブキャナン・スミス氏と、佐久間氏は旧知の仲だそうで、今回の日本での大々的な展開にも一役買っているそうだ。オープン初日に行われた二人のトークショーの内容を織り交ぜつつ、ショップ・ブランドの紹介をしていこう。

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屋外から伸びる階段、もしくは1階からの階段を上がると眼前に広がるポップアップストア。想像よりもかなり広く、そして〈ベスト メイド〉が展開する多岐にわたるアイテムをバランス良く取り扱っているな、という印象。一昨年、NYにできたショップをタイミングよく訪れる機会があったのだが、その本店と比べても遜色のない感じ。

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そしてこれがブランドを始めたきっかけであり、代表的なアイテムである斧だ。我々日本人からしたら、当然「なぜ斧!?」となるわけだが、そもそもアメリカ人と日本人の斧に対する認識は全く違う。アメリカにおいて林業や農業に勤しむ人にとって、斧はなによりも重要な仕事道具なのだ。とはいっても、ブランドの始まりとしてはユニークな契機であることは間違いない。

もともとは、雑誌『ペーパー』の元クリエイティブディレクターを務めるなど、グラフィックデザイナーとして活躍していたピーター。「最初に斧を作った直接的なきっかけは、友人のアンディ・スペードがニューヨークでオープンした「パートナーズ&スペード(Partners & Spade)」というアートショップの最初の展示会に、何か出品してもらえないか?と頼まれたことなんです。そのときは12本作ったんですが、すぐに売れてしまいました。幸運にもそのことが評判になり、次々に注文が入るようになったんです」。ブランドをスタートして1~2年は、斧で手一杯だったとか。

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ただ、今では「生活」にまつわる様々なプロダクトを作るようになっている。斧を作ったピーターが次に形にしたプロダクトは「First Aid Kid(日本でいう救急箱)」。自身にとって重要であるアイテムから作っていったという〈ベスト メイド〉のラインナップは、一般的な?ファッションブランドと照らし合わせると、かなり風変わりである。例えばナイフ、ハサミ、のこぎりそして工具箱などなど。

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また、〈ベスト メイド〉の大きな特徴として、一つのプロダクトを作るのに、一番適した工場で作るようにしていることが挙げられる。どの国で作るかはそんなに問題ではない。昨今の日本で神格化が進む、“MADE in USA”だけにこだわっているわけではないのだ。“MADE in USA”だからいいものである、わけがない。それは我らが“MADE in JAPAN”でも同じ。

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「Japanese Higo Knife」というプロダクトが存在することからもわかるように、〈ベスト メイド〉は日本の素材を使ったプロダクトを数多く展開している。しかも比較的初期の段階から。今では〈ループウィラー(LOOPWHEELER)〉や、新潟の鍛冶屋とも一緒に商品開発をするほどになるほど、ピーターの日本好きは顕著だ。

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日本でポップアップストアを開催することになり、これまでアラスカやアイダホなどで撮影してきたカタログが、今回屋久島で撮影された。この日のトークショーでは、そのときの写真が公開された。前述のように、様々な国の工場と仕事をしてきて、たくさんの労働環境を見てきたピーターが、日本のものづくりは素晴らしいと断言する。「日本の人はいつも身の回りにあるから、気がつかないだけだと思いますが、本当に何気ないものまで本当によくできていると思います」。

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ちなみに、今では1日に30本もの斧の注文が入るという。トークショーの最後に「日本では斧を扱ったことのない人が大多数だと思うのですが、そんな人たちにはどんな言葉をかけますか?」という質問が。これに対し、ピーターは実に熱のこもった返答をしたのだった。

「知ってますか? 斧は人類史の中で、最も古い道具なんだということを。僕らの世代では日常的に使うことは少なくなったけど、それでも太古の昔から斧を使い続けてきた私たちのDNAには、“斧”という物体がしっかりと刷り込まれているのです。ゆえに、ひとたび使ってみればすぐに体に馴染むでしょう。また、僕らが作っている斧の中にはしっかりとした説明書が入っているので、初めての人でも問題なく斧を扱えると思いますよ。そうだ、次回来日するような機会があれば、斧の使い方についてのワークショップなどを開催しても面白いかもしれませんね」。

デザインの美と、機能の美が重なるところを常に探し求めているというピーターが作り出すプロダクトは、流行り廃りに流されるような表層的なものではなく、どれも確固たる哲学に満ちている。風化しないもの、永続的なものであること。これらを念頭に置いた彼らのものづくりは、どこまでいってもブレることはないだろう。ちなみに今は弓矢を制作しているところだとか。斧の次は弓矢!? どこまでもプリミティブなピーター、そして〈ベスト メイド〉のこれからに目が離せない。

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左がライターで、『ヒップな生活革命』の著者である佐久間裕美子氏。そして右が〈ベスト メイド〉のオーナーであるピーター。

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こちらは「ラカグ」のオリジナルメンズブランド〈ハンドレッドソン(HUNDREDSON)〉と〈ループウィラー〉とのコラボレートアイテム。こうした商品が今次々とお店に入荷中。

POP UP STORE : BEST MADE

期間:~2015年6月末(予定)
住所:新宿区矢来町 67 番地 la kagu 2F
電話:03-5227-6977
www.lakagu.com
bestmadeco.com
Peter Buchanan-Smith(ピーター・ブキャナン・スミス)

デザイナー、Best Made co. 設立者。Best Made co. のデザイナー、ファウンダー。 トロント郊外の農場で育ち、ニューヨークでグラフィックデザイナーとして活躍。デザイナーとしては、ニューヨーク・ タイムズ紙などのほか、ペーパー・マガジンでクリエイティブディレクターを務めた。2009 年にアンディ・スペード氏に勧められ、斧をデザインしたことをきっかけに、Best Made Co. が誕生した。