FEATURE |
石塚啓次という男。うどん、スペイン、BUENA VISTA。

keiji_01.jpg

ー今日は、石塚さんが手がけられているブランド〈ブエナビスタ〉について、そして経営しているうどん屋「宵宵祇園(よいよいぎおん)」、さらにはスペインという国についてなど、色々とお伺いできたらと思います。まず、いつどんなきっかけでスペインに拠点を移されたのでしょうか?

3年くらい前やね。ちょうどその頃、日本で仕事がなくなってどうしようかなと思ってた時期やったんで、タイミングもうまく合って、という感じでやね。もともと兄がバルセロナに15年以上住んでて、家族で何回も遊びに行ってたから身近な感じやったしな。それであるとき、知り合いにビザ取れるかもって言われて、深い考えもなしにお願いしたら「取れました!」って。なかなか労働ビザって取れないの聞いてたし、むっちゃびっくりしたんやけどね。

ーそんなきっかけだったんですね。

自分の中では、移住ではなくて移民という感覚かな。自分には奥さんと子供が4人いるし、生活するためにとにかく何かをしなアカンし、向こうに移ってから1年くらいは、色々と模索して何が自分にできて、儲けられるか考えてたわ。

ー現地でのコーディネイト業務などをされていたとお聞きしました。

そやね。やらせてもらってます。自分はスペイン語ほとんどできないんで、通常優秀なスタッフが担当します。それでも自分が良いって言ってくれたお客さんのみ、日程あれば自分が案内します。

keiji_02.jpg

ーコミュニケーションはどんな風にとってるんですか?

まぁ、30~40個くらいの単語を使ってなんとかやってるという感じかな。英語もできるわけないし(笑)。妻はちゃんと勉強してたので、自分からすれば大分話せます。もちろん勉強しなアカンなって思ってはいます。永住を考えてるんで。ただまぁ、10年くらいしたら話せるようになってるやろって思ってます。今4年目なんであと6年あるしな(笑)。勿論ちょっとずつは進歩してるよ。

ーそんな中、うどん屋「宵宵祇園(よいよいぎおん)」をオープンされたのはどんな流れだったのでしょうか?

バルセロナに住んでみて、現地の人をずっと観察したり話きいてたら、普段全然お金使わへんけど、食事だけにはお金と時間をしっかり使う文化があることが分かったしな。外食文化もすごくあって、家で基本あんまり作らへんかな。それでちょっと飲食をやってみようかな、と。

ーお店の名前に“祇園”とついていますが、それは生まれ故郷の京都に想いを馳せて、というところなのでしょうか?

いや、そんな大層なものではないけどな。外国人にとって、日本といえば京都やし、キャッチーやし、分かりやすいかな?というぐらいでつけたわ。

ー飲食の中でもうどんを選んだのには理由があるんですか?

バルセロナって、パリとかロンドンからだいたい10年くらい遅れて食の流行がやってくるんことわかって。ラーメン屋も2年くらい前にバルセロナにできて、いま大行列です。ただ人気やからっていっても、ラーメンは難しいかなと思っていて。というのも、ラーメンって種類がものすごく多いし、どの味を選ぶかでまず選択肢があるというか。パリとかロンドンでうどんもちゃんとやっていけてるってことも知ってたし、先駆者にもなりたかったので、二番手になるラーメンではなくうどんを選んだわ。やるからには“なんちゃって“なものはやりたくなかったし、誰に見せても恥ずかしくないくらいものを作りたいとは思ってて、とある方に教えを請うて、こっちの小麦粉使って製麺機を自家製麺で納得できるものに仕上げました。いまオープンして1年くらいですが、まだまだこれからやね。

keiji_03.jpg

ーバルセロナの中でも、かなりいい立地にお店を構えていますよね?

そやね。東京でいうところの表参道みたいなメイン通りから曲がって3軒目。家は20分くらいで歩いていける、旧市街に住んでるわ。

ー3年間バルセロナで暮らしてみて、石塚さん自身にどんな影響がありましたか?

一言ではなかなか難しいけど、日本にいたときに比べると、あらゆる価値観が変わったと思うわ。今までいちいち他人の意見とか目を気にしていたのが、今は自分がまず楽しむことが第一で、その結果周りにいい影響を与えていけたらいいかなと思ってます。一度きりの人生なんだからとにかく楽しもう、というか。性格が外国人っぽくなってきたのかな、と。こっち住んでるし日本の性格のままでは生きていけないしな。それは子供達の方がそうなったかな。子供達はみんな地元の学校に行ってるし、自分よりももっとスペインという文化、スペイン人に触れてるしな。例えば何事にも自己主張しなければ生きていけない文化もあるし、日本のときのままではなく自分を変える必要があるしな。

keiji_04.jpg
keiji_05.jpg

ーブログでは、伸び伸び生活されている様子を綴っていますね。

税金は結構高いけど、物価は安いと思うわ。例えば、スーパーで買ったら缶ビールが40セント、フランスパンやったら1ユーロとかで買えます。市民にとって、生活必需品は全部安いわ。反対に、贅沢するようなものに対しては税金がすごく高いわ。あとは人の手が入ったもの。例えば、袋いっぱいに30個くらい入ったオレンジは1ユーロで買えるけど、それを絞ったフレッシュジュースとなると、一杯3ユーロとかする。どの国でもそういうものだとは思うけど、その差をすごい感じるわ。

ー労働力に対しての対価が高いわけですね。

そやね。働くということが人生においてそんなに優先順位が高くない思いうわ。こっちに住むまでは、ヨーロッパってすごく進んでいるイメージがあったんやけど、全然そんなことないね。例えばスペイン人がsuicaみたいなものを見たら、びっくりすると思うわ。あと、電線もむちゃくちゃやし、未だに電気抜いてるやつとかいるしな(笑)。

  |