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ポール・スミスが語る “本当” のデヴィッド・ボウイ。

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ポール・スミスは、1946年7月、イギリス・ノッティンガムで生を受けた。その約半年後にロンドン南部ブリクストンで生まれたのが、デヴィッド・ボウイだ。ともにスウィンギングロンドンを謳歌し、ボウイが亡くなるときまで、彼らは親しい友人であり続けた。

ポール・スミスがデヴィッド・ボウイの訃報を受けたのは、ロンドン・メンズコレクション真っただなか、自身のプレゼンテーションの当日だった。あの日を振り返りながら、ポールは「もう大丈夫だよ」と笑顔を向けつつ、「彼の死を悲しむ暇もないほどに忙しかったのが、私にとっては、逆に良かったのかもしれない」と付け加えた。

さて、現在ポール・スミス スペース ギャラリーでは、ポールとボウイの共通の友人であり、’70年代からずっとデヴィッド・ボウイを撮り続けてきた写真家・鋤田正義による写真と、ポールと鋤田が保有するデヴィッド・ボウイのレコードのコレクションなどを展示する、小規模で親密な展覧会「Paul Smith + Masayoshi Sukita for David Bowie 2016」が開かれている。これに合わせて来日したポールに話を聞いた。

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ーあなたもデヴィッド・ボウイも、若かりし頃にスウィンギングロンドンの洗礼を受け、同じ時代を生きてきたイギリスのカウンターカルチャーのアイコン的存在ですね。そしてあなたは、いつも音楽ととても近い距離にいるデザイナーです。デヴィッド・ボウイとの最初の出会いを覚えていますか?

ポール・スミス(以下ポール):どうやって僕がデヴィッドに出会ったか……。残念ながら、いつ、どんな場所で彼に会ったのか、正確には覚えていないんだ。

’60年代後半、僕はまだ18歳くらいで、週末になると、地元ノッティンガムから車を4時間も走らせては、ロンドンのパブや小さなライブハウスで同世代のミュージシャンたちのギグを見に行っていた。ガソリン代を稼ぐために、シルクプリントを施した自作のTシャツを携えてね。そこで知り合ったのが、僕より少し年上の、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジや、ザ・フーのピート・タウンゼント、フェイセズのロッド・スチュアートといった面々だった。僕は彼らの音楽をクールだと思ったし、彼らもまた、僕のTシャツを気に入ってくれて、次第に仲良くなっていったんだ。そういった場所で、僕がデヴィッドに会うことはなかったと記憶しているよ。

その後、デヴィッドはスターダムを駆け上がり、僕もまた、デザイナーとして実績を積んでいくわけだけど、デヴィッドは僕のデザインを気に入ってくれて、頻繁にコヴェントガーデンのショップで買い物をしてくれていたんだ。デヴィッドはいつもお忍びでやってきた、ボディガードも誰も従えずに。ある日、ショップスタッフが、上階にある僕のアトリエに電話をかけてきて、「デヴィッド・ボウイが来てます」と教えてくれたんだ。僕はたいてい、どんなスターが来ても、「そうか、それは良かった」と答えるだけなんだけど、このときばかりはショップに下りて行って、デヴィッドに挨拶したんだ。’79年頃のことだと思う。彼が店を出るときには、なんと数百人ものファンたちが詰めかけていたよ(笑)。

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ーデヴィッド・ボウイのためにスーツを制作されていますね。ボウイとのコラボレーションは、どのような感じでしたか?

ポール:彼がサクソフォンを吹いているLPジャケットのブラック&ホワイトのスーツは、僕が特別に仕立てたものだったけれど、話したように彼はいつも僕のコレクションを店で買って着てくれていたんだ。彼とのコラボレーションは、とてもオーガニックな作業だった。好きなテイストが似ていることもあって、ジャケットの丈はとても短く、ストロングショルダーにして、パンツは当時流行っていたフレアではなく太めのストレートで……というふうに、ごく自然に進んだよ。

ちなみに、これは蛇足なんだけど、いま、僕には22歳くらいの若いデザインアシスタントがいるんだ。先日、彼と一緒に僕のアーカイブが仕舞ってある倉庫に行ったとき、僕がデヴィッド・バーンのためにつくったオレンジのスーツを見て、彼は「すっごくクールだね!」とかなり興奮していたんだ。世代のまったく異なる若者の目を通して自分のコレクションを振り返るのは、とても興味深い作業だったよ。

ーその他、彼との日常的な思い出はありますか?

ポール:皆が思い描くデヴィッドのイメージは、ド派手でシアトリカルな衣装を身に纏ってパフォーマンスしている姿だろうけれど、僕が知るデヴィッドはスターというより、むしろ良い意味でとても普通の良識的な青年だった。それこそ、デヴィッド・ボウイだったんだ。

僕がいま思い出すのは、僕のアトリエで交わした他愛ない会話。先にも言ったように、彼はよく僕のコヴェントガーデンのショップに買い物に来てくれたんだけど、最初に会ってからというもの、ショップを訪れては「ポールはいる?」と言って、上階のアトリエに遊びに来たんだ。彼はいつも、「紅茶を入れてよ」って僕に頼んで、お茶をすすりながら、アトリエ内の写真集や自転車、ガラクタなんかを興味深そうに見て回っていた。彼も僕も、とても好奇心旺盛だったんだ。大人になってからもそう。僕たちに何か共通点があるとしたら、決して成熟しすぎることがない、ということだろうね(笑)。

もうひとつ、僕の記憶に残っている素敵な思い出があるよ。数年前、僕は妻と一緒にデヴィッド、彼の妻イマンと食事をしたんだ。食事を終えてレストランを出ると、そこには階段があって、デヴィッドは階段を下りながら、僕ら夫婦に向かって「The party’s over, it’s time to call it a day」って口ずさんでくれた。彼が亡くなったとき、このときのことを思い出して、夫婦で涙したよ。

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ーあなたは、デヴィッド・ボウイが亡くなったとき、「革新者」と讃えました。その最たる理由を教えていただけますか?

ポール:彼は革新者であったと同時に、コメディアンでもあったよ(笑)。彼は、彼の音楽もそうであったように、誰とも違うパーソナリティの持ち主だった。いとも自然に、既存の文化的ルールを壊したし、恐れ知らずで、当時の若者たちの代弁者のような存在だったんだ。

’60年代や’70年代特有の空気も後押ししたのだと思う。世界大戦の終戦から20年ほどを経て、ロンドンは開放的な気風に満ち、僕たち若者は、ついに自己表現を取り戻したんだ。人と違って当たり前、失うものはもう何もないし、食べるものもある、あとはただ前に進むだけ……そんな雰囲気さ。デヴィッドは、まさにその象徴のような存在だった。一方、隣のパリは、五月革命が勃発するなど、もっとアグレッシブな状況だったから、ロンドンのような自由さはなかったと思う。

ー最後に、今回のエキシビションを通してあなたが伝えたかったデヴィッド・ボウイの側面とは、何でしょうか?

ポール:僕はただ、自分の友人であるデヴィッド・ボウイというひとりの人間の素晴らしき人生を、そのパーソナリティを、日本の皆とともに讃えたかったんだ。大げさではなく小規模に、親密にね。彼はとても勇敢な人だった。そう考えると、この近代化された世界に生きる今の若者たちは、ちょっと保守的で、ビジネスライク過ぎるようにも感じる。どうか皆、デヴィッドのように恐れずに、もう少しだけ自分らしさを表現してみて欲しい。

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ポール・スミス
1946年イギリス生まれ。少年時代に学校を自主退学して自転車競技のレーサーを目指すも、不慮の事故に遭い断念。アートスクールの学生との出会いやテーラーショップでの経験を活かし、デザイナーを目指す。’74年に自身の会社を設立。’76年、パリ・メンズコレクションにデビュー。ブリティッシュテーラードに遊び心とユーモアを加えた服で、男性たちから支持を獲得。’94年春夏シーズンからウィメンズラインを開始。2000年、エリザベス女王よりナイト爵位を授与された。’16年6月から日本で展覧会「ポール・スミス展 HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH」の巡回が予定されている。

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写真は、ポール・スミス スペース ギャラリーで行われている展覧会「Paul Smith + Masayoshi Sukita for David Bowie 2016」の風景。左上 デヴィッド・ボウイと写真家・鋤田正義のファンが作ったジン。右上 鋤田氏が撮影したボウイの写真。左下 イギリスの雑誌『GQ』で企画されたデヴィッド・ボウイの特集記事。ボウイが着ている服はすべて〈ポール・スミス〉。右下 鋤田氏の写真にポールの手書きのメッセージをプリントした限定Tシャツ(¥10,000+TAX *ポール・スミス スペース分はすでに完売)。収益の全額が、公益財団法人日本対がん協会に寄付される。

Paul Smith + Masayoshi Sukita for David Bowie 2016

ポール・スミス スペース ギャラリー
住所:東京都渋谷区神宮前5-4-14 3F
会期:〜4月17日(日)
時間:12時〜20時(土・日・祝日は11時から)
電話:03-5766-1788

ポール・スミス 三条店
住所:京都府京都市中京区三条通富小路東入中之町28
会期:4月23日(土)〜5月8日(日)
時間:11時〜20時
電話:075-212-2313

Paul Smith Official Site
www.paulsmith.co.jp