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Backgrounds 飽くなき探究心が生む圧倒的なプロダクト、レミ レリーフの現場を追う。

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何百万も捨てながら身につけていった秘訣。

染めが終われば、次はダメージ加工です。方法は一般的にもよく聞く“ストーンウォッシュ”というもの。ただ、そのこだわり方は当然普通ではありません。

「ウチは、普通の工場の10倍くらいの手間をかけていると思います。釜の大きさも、市販だと100kgとか、200kgというサイズなんですが、ウチでは中間の160kgっていうサイズがベストだったので、新たに作ってみたり。それに加えて、回転数を変えられるように改造しています。なので、今ここにある釜は見た目は一緒なんですけど、他とは全く違いますね」

なぜこうした改造を行うのか。そこには当然のように明快な理由がありました。

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「石を入れた釜をグルグル回して、石が上にいって下にある衣類に落ちたときにダメージがつくわけです。そういうときに釜の大きさが大きすぎると、カットソーなんかは穴が空きすぎてしまうんです。なぜそうしたことが起きるかというと、通常カットソーをこうして加工することってそんなにないんです。ですが、自分はほぼすべてのアイテムに加工を入れています。なので、釜のサイズを調整する必要があった。デニムパンツはどこのブランドでも加工をしますよね。でも、デニムパンツの加工はこんなにすごいのにTシャツはピカピカ、っていうブランドって多いと思うんです。バイヤーさんによく言っていただく、「Tシャツからアウターまで全部同じ雰囲気だよねって」という点はウチのセールスポイントです。それは全部自分たちでやっているからこそなんです」

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とにかく試行錯誤の連続。話を聞いて納得しながらも戦慄したのですが、当然のことながらサンプル1枚を作って終わりではないので「1000枚作ったらどうなる?」という状況までもシュミレーションしておかないと、製品としてはゴーを出せないという事実。冗談ではなく、これまでに何百万も捨てているそうです。

「サンプルと本番を同じように作るのって、やっぱり難しいんですよね。1000枚っていう単位で作るときに、サイズ1つとってもどうしてもブレがでてしまう。グッと縮んだりするんです。お店からしたら、その違うものが納品されてきたらたまらないですよね。だからサンプルだけではなく、本生産の品質管理までも自分でやります。危ない品番は作る前からわかってるので、加工前に児島に入って、釜をいちいち止めながら見ています」

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加工の終わったスウェットを脱水機に。

「効率化だけを考えると、石をゴムのボールに変えたり、あとは人口の軽石とかになっていくんですが、ウチでは天然の軽石にこだわっています。あとはアイテムによって、入れる石の形状を変えてみたりとかもしますね。とにかく洗いすぎて本当に破れたという雰囲気にしたいんです。似せたように作るのではなく、本物の経年変化にこだわりたい。当然、グラインダーなどでダメージを与えたり、「しわの型」などは使っていません。全部自然にできることなので、ひとつひとつ表情が異なります。そもそもS~Lで、サイズが全然違うわけで、加工でしわをつけていくと、どこか不自然になってしますんです」

ちょっといい話を聞きました。後藤氏は自分が作った〈レミ レリーフ〉のアイテムを他所で見て、「これいい感じですね、古着ですか?」と本気で聞いたことがあるそう。無類の古着好きである、作ったデザイナー本人が見間違うほど、精緻な加工。それが〈レミ レリーフ〉の加工です。

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さらに乾燥機にかけて、最終の仕上げへ。

「職人のすごいところは、1枚の加工が素晴らしいだけではなく、同じことを100枚、1000枚とできることだと思うんです。それが職人の素質なのではないでしょうか。初期からいるメンバーは、それまでにある程度経験を積んできた方なので、最初から信頼しています。とにかく黙々とやれるんですよね。あとウチはサンプルと本製品を作る人が同じなんです。それに加えて、商品の方向性が一貫して変わらないので、職人さんたちの技量も伸びやすいというのもあります」

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手作業で、細かい部分の補修など。

今回〈レミ レリーフ〉の工場を取材させてもらって一番痛感したのが、ものづくりにおいて、何より大切なのが現場、つまり職人との関係性であるということ。どんなに素晴らしいデザインを上げても、実際に手を動かす現場で求めるクオリティを出せなければ、そのデザインは砂上の楼閣となる。

「これは当たり前といえば、当たり前のことなんですが、売れてきて生産数が変わると工場を変えないといけなくなるケースがあるんです。100枚しか売れてないときはこの工場でいけるのに、平均して300枚売れ始めると、違うところでやらないといけない。それは工場のキャパシティ的に仕方がない。でもそうなると、せっかく職人さんたちが覚えた技術を、また別の職人さんに一から教えないといけない。これは致命的です。自分の工場を持つことのメリットはここにもあります。現実に売れ行きが上がることで、アイテムのクオリティが落ちていく、ということもありえるんですが、自社工場ならありえません」

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アイテムのクオリティを落とさず、数を増やすためにはどのようにやっていくべきか。後藤氏は日々そうしたことも考えながら、ものづくりに勤しんでいます。続けていくことで積み重なっていく技術を愚直に信じるその手法は、とにかく筋が通っているというか、地に足がついています。

デザイナーは作りたいものを、工場は儲かるものを、という関係性になりがちなところを、その壁を取っ払ってものづくりをしている後藤氏。これからもまだまだ新しいものを生み出していくだろうという、そんな確信を覚えた2日間の取材でした。

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