-マンガや小説を映像化する場合、いろいろなケースがあるとは思いますが、作者が「原作と映像は別ものなのでおまかせします」ということもあれば、設定や脚本に対して細かく注文が付くこともあると聞きます。今回、原作者の吉田秋生さんからは何か注文はあったのでしょうか。もともと是枝作品のファンだったとお聞きしましたが。
是枝:「是枝版『海街diary』をつくっていただいてかまいません」というありがたいおことばをいただきまして、ほぼ制限なしで預けていただいたので、たいへん感謝しています。撮影中には時々、イラスト付きの励ましのお手紙を送っていただいたりして、家宝にしております(笑)。
-でも、逆に「おまかせ」というのもプレッシャーが大きいですよね。
是枝:確かにプレッシャーはありましたけどね。あ、そういえば、その時に「アライさんだけは出さないでほしい」と言われたんですよ。
-ああ、そうなんですか!
是枝:「アライさんだけは、もし手とかを出すとしても、誰がやったのかわからないようにしてください」と、そこだけはこだわられていたのが印象的でしたね。そういう話が出たことで、僕も「そうか、出てこない人間が大事な話なんだな」と再認識したので、大切なヒントをもらったような気がしました。
-これは無粋な質問かもしれませんが、原作はまだ続いているわけですし、続編をつくろうと思えばつくれないことはない話だとは思うのですが、その辺りは現時点で監督のお気持ちとしてどうなんでしょう。
是枝:気持ちとして? 気持ちとしては今、完全にやりきったので(笑)。
-街の長い時間と歴史のうちのある1年間だけを切り取り、2時間の物語として成立させつつ、その前後の膨大な時間や不在の人間までをも想像させるつくりになっていると思いますので、この一作で終わってもまったく文句はないんですが、まあ単純にこの続きを観たいな、という(笑)。
是枝:うん、もしこれで続編の話が出て、四人姉妹が揃い、僕が断って誰か別の監督が撮ることになったら、それはちょっと耐えられない(笑)。
-是枝監督のこれまでのキャリアの中で、続編という発想のものはないですよね。何かが当たったから、じゃあ同じ感じでもう一作という発想はそもそもお好きじゃないのだろうなと。
是枝:僕の中にそういう色気はないんですけど、ただ、すずの成長を記録するというのは意味のあることだと思うので…。
-そうですよ! 日本の国家プロジェクトとして取り組むべき案件です(笑)。
是枝:確かに、あの子はちゃんと育つと、20代、30代になった時に、それこそ綾瀬はるかのような国民的な女優になっているであろうキャパシティをもっていると思う。
-そのプロセスを映像に記録しておくべきではないか、と。
是枝:と思いますよ。僕が、とは断言できませんけど、誰かがやるべきだと思います。
-そういえば、映画『幻の光』の公開が1995年なので、今年で監督生活20周年なんですね。やはり感慨のようなものはあるのでしょうか?
是枝:ありますね。そうか、20年やってきたんだなあ、と。あっという間でしたけど。
-やりたいことをやりたいように出来た20年だったですか?
是枝:いや、そんなことは全然ないですね。やりたいことの半分も出来ていないと思います。でも、半分は出来ているんだとしたら、それはたぶん恵まれた環境だったんだろうし、恵まれた監督生活だったんじゃないでしょうか。
-はい。というところで時間のようです。本日は貴重なお時間、ありがとうございました。