Interview with Yosuke Aizawa in Paris

ー今回のコレクションは、最初に黒のスタイリングで始まり、柄とカーキ、オリーブを挟んで、白という一番初めのショー(2010 SPRING / SUMMER dressed to climb)を思わせるとても美しい構成でした。個人的には、とくに黒が印象に残ったコレクションでした。ファ-ストルックなどは、相澤さんの普段のコーディネイトそのままのような気がします。

黒に関しては、自分たちの組手というか手段として、もう定着した感じがあります。ブランドを始めた当初はとにかく柄が多かったですし、(2013 AUTUMN / WINTERの)ピッティに出た時もそんな感じだったんですが、ヨーロッパで広く展開するとなると、黒い服に対してのリクエストがすごく多いんです。そういうことも関係していると思います。

ーもともと黒に関しては、〈BLK〉という別ラインで展開をしていました。

はい。一時期複数のラインを作っていくことが精神的にも時間的にもきつくなってきて、ショーの質を高める方に注力していた時期がありました。そこから一度ショーをやめて、もの作りにもう一度立ち戻る機会ができたことと、お客様からのリクエストが増えてきたタイミングで、〈BLK〉を復活させました。そうなると、そのウェアに合わせるベーシックな黒いパンツが欲しくなってという流れで、黒いアイテムが増えていきました。

ー今シーズンは「SPEC」というミリタリーを下敷きにしたテーマで展開しているということもあって、黒以外にはカーキ、オリーブが目立ちますが、それをのぞくとグレー、白があるぐらいで、あまり派手な色展開はありませんね。

展示会をやったときにラックにざっと並べてみたら、相当暗い感じでした。今シーズンは白が差し色という感じになっていると思います。

ー今、日本では全身白なんていうコーディネイトも流行っています。

個人的には、おもにシャツと靴で白を取り入れていますが、全身は着ないかもしれません。ただ、ネイビーブームもちょっと落ち着いた今、確かに白とか黒が流行ってる感じがします。

ーシーズンテーマはどのぐらい前から決めるものなんでしょうか?

昔は全然前もっては決めてなくて、アイテムを作りながら形作っていったという感じだったんですが、最近はキーとなる言葉は決めています。今回の「SPEC」に関しては、あまり変わったことをやりたいわけではないので、ある意味で直球なテーマです。

ー軍モノというか、ミリタリーはもともと好きなんですか?

好きです。あとは、最近またスノーボードにどっぷりとハマり始めて、その時に着るようなアウトドアウェアが、ミリタリー的な機能性とリンクしていることが多いことに改めて気づいて。なので、一度きちんとミリタリーをテーマにしたコレクションをやってみたいと思っていたんです。

ーカモフラひとつにしても、〈ホワイトマウンテニアリング〉にしかできないようなユニークな落とし込みを感じました。

テキスタイルから、ウチらしいニュアンスを出したいなと思っていたので、カモフラージュ一つにしても作りこみました。今回のモノトーンカモフラージュは、4種類ぐらいのウッドランドを組み合わせてレイヤードすることであの雰囲気を作り出しています。あまり他では見られないものに仕上がったと思っています。

ーそのカモフラが乗せられた今回のプロダクト、素晴らしい完成度でした。とくにスニーカーが白眉の出来ですね。

今回のパリでの2015AWのプレゼンテーションでは、〈アディダス オリジナルス(adidas Originals)〉と一緒に作ったスニーカーや、〈スノーピーク(snowpeak)_〉と作ったテントなどを発表しましたが、今回に限らず協力してくれるブランドには恵まれています。やはり専門のブランドと組むことで、当然クオリティーが上がりますし、プロダクトとしても魅力的なものができます。とにかくやるからには、見かけ倒しなものにはしたくないんです。0から1を作り上げるのも大切なんですが、ベースがあるものをアレンジしていく作業も最近大事だなと思うんです。

ーブランドとしては、昔から色々なところとコラボレーションしてきているかと思いますが、最近は以前にも増して凄みが増しているような印象です。

コラボーレションワークというモノはブランドを多角的に見せることができるツールとしてとても有効だと思います。自分は〈ホワイトマウンテニアリング〉というブランドのデザイナーであり、自分のデザイン会社を運営している身でもあるんですが、基本的にあらゆることは、〈ホワイトマウンテニアリング〉をベースにしてやりたいと思っているんです。〈ホワイトマウンテニアリング〉は自分だけのブランドではなく、スタッフ全員で作っているものであって、僕はゲームのキャプテンのような意識が強いです。そのためにバランスを取る必要があると思っています。

ーいつ頃からそういった心境になったのでしょうか?

ピッティが終わってから一回リセットした感じです。ホワイトマウンテニアリング=相澤みたいな感じではなく、当たり前に身の周りにあるようなブランドにしていきたいなと思ったんです。あとは、一緒にやってきたスタッフとのコンビネーションがどんどん精度が上がってきているということもあります。ものづくりをする上で、昔ほど詳細を伝えなくても、暗黙の了解でお互いにわかってしまうからどんどん進んでいけるんです。極端な例ですけど、「先シーズンのあのパンツの膝下を少しだけカットして、ちょっと細くした感じ」みたいな会話でもう通じてしまうんです。その経験値はどんどん活かしていきたいですし、こうした制作環境が、自分の心境に与えた影響は少なくないと思います。僕はずっと、そういうチームを作りたかったんです。

ー〈アディダス(adidas)〉とのコラボレーションについて、もう少し聞かせてください。

実は、数年前に一度お話はいただいていたんですが、その時は〈MONCLER W〉などをやっていた時期ということもあって、一度お断りをしたんです。ただ、元々〈アディダス〉は自分も好きでしたし、よく履いていたので機会さえあれば、とは思っていました。そんなことを思っていたら、またお誘いをいただいて、今回のタイミングで実現することができました。2015AWでは〈アディダス〉と〈ホワイトマウンテニアリング〉のコラボレーションでスニーカーだけの展開ですが、2016SSでは、〈adidas Originals by White Mountaineering〉として、ウェアも含めたカプセルコレクションを展開します。

ースニーカーは2型でのリリースになりました。

「ZX FLUX」と「NASTASE(ナスターゼ)」です。

ー「ナスターゼ」って、ちょっと聞きなれないモデルですね。

ロッド・レーバーとか、スタン_・スミスと一緒の時代に活躍していたテニスプレーヤーで、イリ・ナスターゼという方がいるんですが、そのモデルがすごく好きで、今回復刻させてもらったんです。今は、インラインでは展開されていないものだと思います。

ーシューズでいえば、〈スペクタスシュー(SPECTUSSHOECO.)〉とのモデルもラインナップされています。

〈スペクタスシュー〉に関しても、デザイナーの竹ヶ原(敏之介)さんより、こんなアイディアがあるんだけどっていうどうでしょう?というアイデアをいただいたんですが、竹ヶ原さんが作っている靴が好きだったので、ぜひという感じでやらせていただきました。

ーやはりいろんなオファーがあるんですんね。

幸せなことにいろんなお話はいただきます。少し前に〈モンクレール〉とやって、今は〈バブアー(Babour)〉、〈バートン(BURTON)〉、そして〈アディダス〉。こんな風に、きちんと表現ができる相手と組んでやれれば面白いですし、〈ホワイトマウンテニアリング〉が好きな人にも、こういうものもありますよと、目線の変えた提案ができるので面白いです。一つ作るのにも時間がかかって色々と大変ですが、その分達成感はあります。コラボレーションする相手の基準は、プロフェッショナルであるかが重要です。ここと組めば自分たちの価値観が上がっていく、そういったところとの仕事じゃないと意味がない。〈ホワイトマウンテニアリング〉では、基本的にそういった考え方をしています。

ーところで、先ほども話に出ましたが、柄モノの割合がどんどん減ってきて、色展開に関してかなりミニマルになってきていると思うんですが、色だけではなく、ポケットなどの仕様、ディティールに関してもシンプルな方向性に向かってきていますよね?

すべてにおいてシンプルになってきました。

ー〈BLK〉においては特に顕著だと思います。以前はポケット一つとっても、デザイン性が強い表現が気分だったということなんでしょうか?

そうした洋服や、ディテールは今でももちろん好きです。ただ、〈モンクレール〉と2年間一緒に仕事をさせてもらったことというのは、ひとつ大きいかもしれません。〈モンクレール〉というブランドの中で、自分が何をすべきかということを考えたときに、一つのアイテムに色々な要素を組み合わせるということがあったわけです。ブランドからもそうしたクリエイションを求められてると感じていました。やはりインラインのアイテムが非常に大きな規模感で展開していて、トム・ブラウンがやっている〈モンクレールガム・ブルー(Moncler Gamme Bleu)〉のように、ファッション性が強いものがあったら、僕はプロダクトにフォーカスするのがいいのではないか、ということがありました。

ー〈モンクレール〉というブランドの中での役割、ですね。

そうです。それで、作り込んだものをやってきたら、その反動で〈ホワイトマウンテニアリング〉をどんどんシンプルにしたくなってきて、また一方で、〈バブアー〉と一緒にやっていると、クラシックなディティールをどうアレンジするかという気持ちが出てくるんです。こうした心境の変化は、当然作るものに直接的な影響を及ぼします。今はまだ発表できませんが、今後また新しい展開をしたいな、と思っています。

ー〈ホワイトマウンテニアリング〉は今、ブランドとして10年ですか?

10年目に入ったところです。

ー10年続いているブランドには、等しくリスペクトの気持ちがあります。続けることの難しさ、そして大切さというか。それにしても、今〈ホワイトマウンテニアリング〉はとても良い状態にあるのではないでしょうか。作っているもの、作っているスタッフなど色々な面から見ても、その充実ぶりがうかがえます。

確かによい環境でものづくりができていると思います。僕も色々と経験してきて、デザイナーとして自己主張したいという気持ちが、どんどん薄くなってきているのを感じます。自分がどうこう、というよりも、“ブランドとして”素晴らしいという状況を作りたいんです。それはブランドとしての自己主張に変わったんだと思います。 もちろんビジネス的な部分も無視できません。売上を取るということは共感を得るということだと思いますし、ブランド力を大きくしなければ今回の〈アディダス〉のように新しいプロジェクトに参加できることもできません。

ー昔と比べると随分と肩の力が抜けたような印象があります。

「たかが服、されど服」というと語弊があるのかもしれませんが、どんどん考え方がコンパクトになってきました。以前は偏った集中をしていたのかもしれないです。木を見て森を見ずではないですが、全体像をイメージすることを最近は心掛けています。

ーところで全然話は変わるんですが、ブランドを象徴するアイテムとして、以前はシャツを挙げていましたが、その気持ちは変わりませんか? アイテム数としては随分減ったような気がします。

個人的には好きなので、相変わらずよく着ています。ただ、コレクションの中で占める割合となると、昔の半分ぐらいだと思います。ニットもショーをやっていた時と比べると、型数は半分ぐらいです。柄物を多く作らなくなったのが大きいと思います。

ーなるほど。でも、だからこそワンポイントで入ってくる柄物が、コレクションの中で効果的に見えてくるような気がします。

例えが合ってるかわからないのですが、12人編成のバンドがあったとして、一人一人が大きな音を出していたら、一つ一つの音は聞き取れないですよね。そこにパッとストリングスが入ってきたら、その音だけがグッと頭に入ってくると思うんです。今は、柄物に対してはそんな気持ちです。昔はどんどん柄物を作っていたし、奇をてらったインパクトが強いモノを作らないといけないと思い込んでいました。自分のキャリアというか染織科出身で、前職でもテキスタイルをメインに仕事をしていたので、そのストロングポイントを有効に使おうと意識していました。今とまったく考え方が違いました。

ークリエイションの方法ひとつとっても、昔はテキスタイルから作り進めるという手法だったと思うのですが、今はおそらく違いますよね。

全く違いますね。洋服自体の作り方も変わりましたし、それ以外の部分の変化も顕著です。洋服作り以外の表現をどうアウトプットするかという意識です。今はスタッフ一丸となってやっているという感じなんです。ブランドからデザイナーの自己主張の強さをどんどんなくしていった結果、逆に強くなってきている、というとわかりにくいでしょうか。あとは、ここ3年学校の講師をやっているのも大きいかもしれません。

ー金沢美術工芸大学の非常勤講師ですね。

学生たちを見ていると、とにかくエネルギーに溢れていて、「私は、これとこれとこれとこれが好き!」というがむしゃらな想いはすごいのですが、それをいざ表現する、形に落とし込むとなると、なんだかよくわからないものになってしまったり。プレゼンテーションは上手なのですが、出口が見えてないというか。なので、そういう生徒に最終的な着地点を見つけてから過程を作らないと、ということを教えていくわけです。こうしたことをずっとやっていると、やはり自分自身の考え方にも影響はありますよね。〈ホワイトマウンテニアリング〉を始めた頃、まさか自分が講師をやるなんて、思いもしなかったです。

ー色々な要因があって、クリエイションが変わってきたわけですね。今の〈ホワイトマウンテニアリング〉は肩の力が抜けていて、かつフレッシュで、とても素敵だなと思っています。言い方が正しいのかわかりませんが、「フイナム」というメディアにすごくフィットしている気がするんです。

僕も今の〈ホワイトマウンテニアリング〉、好きです。昔の方が細かいところまでこだわっていたと言われることもありますが、実は今の方がずっとこだわっています。細部にこだわることだけではないですから。そして今の方がブランドに対して愛情があります。ブランドそのものに対しての愛が深まった結果、僕がデザイナーとして、強く存在していなくてもいいなと思えるようになったんです。これじゃなきゃダメだというこだわりは全くないですし、それどころか時々ファンのような目線でブランドを見ていることがあります。パリでこういうことをやって欲しいなとか、あのブランドと組んで欲しいな、とか。

ーそれぐらいフラットな気持ちなわけですね。ここ最近の〈ホワイトマウンテニアリング〉のクリエイションが変わってきたということは、当然お客さんにも伝わっていると思います。その上で数字も付いてきているわけで、ブランドとしてとてもよいサイクルに入っているだろうことを感じます。今後のブランドの行く先がとても楽しみです。

今って、ハイ&ローの時代だと思うんです。きちんとした技術・デザインで作られた、“ハイ”なものと、フレキシブルでライフスタイルに合うフィット感を持っていた“ロー”なもの、その双方を持っていないと、ブランドってつまらなくなるんですよね。そんなことを思いながら、最近はものづくりをしています。