ーまずはディランの経歴を教えてください。
ディラン:生まれ育ったのは南カリフォルニアで、幼少の頃からサーフィンやスケート、バンド活動に明け暮れていました。実際、プロとして世界に名を馳せる友人もたくさんいます。そんななか僕は、スケートカンパニーでフットウェアのデザイナーとしてのキャリアをスタートさせました。そこで靴作りのノウハウからアスリートとの付き合い方まで、さまざまなことを学び、〈ナイキ〉で働くようになったのは2010年からですね。
ーアクションスポーツ畑から〈ナイキ〉に入社しようと思った理由を教えてください。
ディラン:スケートカンパニーで働く前から、〈ナイキ〉は好きなブランドでしたからね。しかも、僕はシューズデザイナー。この仕事をしている以上、〈ナイキ〉に憧れを抱くのは当然のことです。実を言うと僕は学生時代に〈ナイキ〉のインターンの募集に応募して、落ちたことがあるんです(笑)。かつての雪辱の意味も込めて、経験を積んだ段階でリベンジさせてもらいました(笑)。
ー〈ナイキ〉に入社するまでは、どれくらいの審査があるのでしょうか。
ディラン:応募から合格まで、約3ヶ月かかりました。コンセプトをもとにしたデザイン案を提出したり、テレビ電話を使った面接、さらにポートランドの本社を訪れて対面の面接を繰り返して、ようやく〈ナイキ スポーツウェア〉のセクションに合格することができました。
ー〈ナイキ〉に対してどんなイメージをお持ちでしたか?
ディラン:アクションスポーツ業界で仕事をしてきた僕にとっては、〈ナイキ〉にはとてもオーセンティックなイメージを持っていました。スニーカーという共通のキーワードはあるものの、企業としての規模感もまるで違うので、異なる業界にいるような感覚というか。ただ、今ではアクションスポーツをはじめとしたさまざまなスポーツに進出しています。だからこそ、僕の経歴が役に立つのかなと。
ー実際に〈ナイキ〉に入社して驚いたことを教えてください。
ディラン:クリエイションのためのリソースが尽きないことですね。多くの才能豊かなスタッフがいるだけではなく、世界中の情報を収集できるネットワークも確立されている。おかげで世界のあらゆる事柄からインスパイアを受けて、物づくりに活かすことができる。かつて僕が勤めていたスケートカンパニーとは、物づくりの根本的な部分が大きく違いました。
ーそんな〈ナイキ〉で、どんな日々を過ごしているのでしょうか。1日の流れを教えてください。
ディラン:朝7時に起きて、奥さんがこしらえてくれたグリーンスムージーを飲み、瞑想にふけります。瞑想は頭をスッキリさせるために、朝晩で欠かさず行っているんです。その後、出社して午前中は世界のトレンドをチェックするためにネットサーフィンをして、Eメールをチェックします。食事を済ませたら、本格的なシューズデザインの仕事に取り組み、17時頃には帰路につきます。
ーちなみにシューズデザインという仕事は、具体的に何をしているんですか?
ディラン:コンセプトから考えて、まったく新しいシューズをデザインすることもあれば、消費者のフィードバックを反映させたアレンジを加えたり。ときにはスケッチをもとに手作業でサンプルを作ってみたり。華々しいプロダクトに比べてみると、とても地味な作業の連続です(笑)。
ディラン・ラーシュ●ナイキ スポーツウェア フットウエア デザインディレクター
幼少期からアクションスポーツに親しみ、大学卒業後にスケートカンパニーでシューズデザインに従事。ナイキには2010年に入社。近年のビックヒットモデルである「ナイキ ローシラン」の開発者。
ーそういった積み重ねの中で、近年の〈ナイキ〉のなかでも爆発的なヒットとなった「ナイキ ローシラン」が生まれたわけですね。
ディラン:実は「ナイキ ローシラン」のアイディアを、初めて上司に提案したのは4年以上前なんです。そのときは強度や形状の問題で、ダメ出しを食らってしまい……。それでも僕は「ナイキ ローシラン」のコンセプトには可能性があると信じていたので、継続して開発・改良を重ねていき、製品化することができました。
ーしかも、驚くほど人気を集めています。
ディラン:最初はとても小さいコレクションでスタートしました。それが瞬く間に売り切れて。徐々にコレクションの規模を大きくしていくなかで、着実に消費者に受け入れられているのを実感しました。まさか僕が瞑想中に思いついたアイディアが、ここまで大きくなるとは思いもしませんでした。ただ、デザインや価格、汎用性など、あらゆる面で既存の〈ナイキ〉には無い魅力を感じていました。ある意味、直感だったんですけどね。自分の直感を信じて製品化したい、そんな作り手としての欲求もありましたし。
ー多くのメーカーが「ナイキ ローシラン」のような、価格もお手頃で履き心地も良く、スタイリッシュなスニーカーを追随している現状はどう思いますか?
ディラン:「ナイキ ローシラン」は環境に優しい物づくりを目指して作られています。そういう面で、多くのメーカーが追随してくるのは、とても素晴らしいことだとは思います。コンセプトやデザイン、価格帯といった表層的な部分だけを汲み取られてしまうのは、正直残念な気持ちが強いですね。
ー「ナイキ ローシラン」は、今シーズン発表されるスニーカーブーツコレクションにもラインナップされています。
ディラン:今シーズンのスニーカーブーツコレクションにおける「ナイキ ローシラン」は、屈曲性を高め、シューレースも比翼仕立てとなり、スウッシュはパンチングであしらっています。今では15種類以上の「ナイキ ローシラン」がありますが、なかでも機能とデザインが見事にマッチしたバージョンだと思います。
ーところで「ナイキ ローシラン」がヒットしたことで、会社からはどんな賞与が与えられたのでしょうか?
ディラン:残念ながらビッグボーナスはありませんでした(笑)。
ーそれでは最後に〈ナイキ〉で働く醍醐味を教えてください。
ディラン:物づくりをするためのアイディアが、膨大にあることは醍醐味の1つだと思います。膨大なアーカイブに最先端のテクノロジー、そして歴史的なモデルを開発してきた先人たちの言葉も身近にあります。こういったリソースは、ときに途方も無いアイディアさえも形にしてくれます。それは僕自身、「ナイキ ローシラン」の開発で身に沁みて感じたことです。
ー逆に大変なところはありますか?
ディラン:それはとても難しい質問ですね(笑)。仕事をしている以上、楽しいことばかりではありません。苦労を伴うからこそ、大きなやり甲斐を感じることができますし。ただ、僕は物づくりに没頭してしまうタイプなので、長いミーティングはちょっと苦手かもしれません……(笑)。
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