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【FOCUS IT.】オートロウリュにクラフトビール、DJブースまで⁉︎ ニューウェーブ銭湯「黄金湯」が示す、新時代の風呂屋のカタチ。

スカイツリーからほど近く、夜ともなれば酔客たちが行き交う街、錦糸町。繁華街や住宅地としてのイメージが強いエリアですが、銭湯好きが集うホットスポットとしても知られています。なかでも街場を賑わせているのが、今年8月にリニューアルを果たした「黄金湯」

スタイリッシュな大浴場やサウナーを唸らす本格派のオートロウリュ、さらには水深90cmの水風呂など、街人たちの癒しを一手に引き受けています。それだけに留まらず、DJブースやビアバーも完備された空間は、まさに新時代の憩いの場。

その仕掛け人が、押上の銭湯「大黒湯」も手がける新保卓也さん。多くの店が窮地に立たされるなか、彼はなぜ、創業88年を迎えたこのタイミングでリニューアルを決断したのか。エンタメ性を追求した銭湯愛の先には、下町への強い思いがありました。

サウナ歴7年、筋金入りの“サウナー”でもある新保さん。どんなに忙しくても、週に一度は整えているそう。

ー88年もの長きにわたって地元の方から愛される「黄金湯」ですが、それを継いだ理由はなんだったんでしょうか?

長年営業している銭湯は、いろんなオーナーさんを経ているケースが多くて、ここもそのひとつなんです。私たちが継いだのは二年前。当時から地域で愛されていたんですが、経営的にはだいぶ苦しくて。時代とともにお客さんも銭湯の数も減少しています。だけど、魅力的な「黄金湯」は、次の世代に残すべきだと思ったんですよね。私がもう一つやっている「大黒湯」も祖父母から受け継いでいて、それも同じ理由。銭湯を残すことは、下町の文化を残すことでもあると思うんです。

ー下町への強い思いがあるんですね。「黄金湯」を継いで、二年経った今年にリノベーション。面影を残しつつも、さまざまなカルチャーが介在した現在のスタイルにリニューアルしようと思ったのはどうしてですか?

私たちは“チャレンジ”という言葉を大事にしていて。銭湯がいくら昔ながらの商売といえど、時代に合わせた変化も必要だと思うんです。それがエンタメ性かなと。もちろん、“国民の衛生を保つ”という銭湯としての義務は果たした上で、さらに親しんでもらえるような銭湯づくりができないか、というところでリニューアルを決意しました。

ー今回のリニューアルにあたって、クラウドファンディングもされてましたよね。

これもひとつの挑戦だったんですが、最終的には目標金額の2倍の支援をいただき、1000人以上もの方が応援してくれました。

ーすでにそれだけのファンがいるのは頼もしいですよね。

本当にありがたい限りです。まずは地元の錦糸町界隈、そして東京、さらには世界中の人たちから愛されたいという思いで新しい「黄金湯」をつくりました。しかし、万人受けするスタイルを貫くのは難しい。自分たちが理想とする風呂屋を実現するためには、多くのお客さんの共感が必要不可欠だったんです。なので、脱衣所と湯船、サウナから水風呂までの距離感など、お客さん目線に立って細かくこだわっていきました。おしゃれなだけじゃなく、毎日でも通いたくなるというのが公衆浴場にとって最高のスタイルだと思ったんです。

ー実は、インタビューの数日前に一度利用させていただきました。ただ新しいだけでなく、どこか懐かしいようなアットホームさも残っていて。静かに時間が流れているという印象です。DJブースやクラフトビールが気になっていたのですが、それと同じくらいに銭湯とサウナも良かったです。

私たちはあくまで風呂屋ですから、そう言ってもらえて嬉しいですね。銭湯には4つの湯船を用意していて、それぞれ温度は違います。これは、誰がきてもお風呂を楽しんでもらうため。すべて軟水を使っているので、肌に優しいんです。

地下から組み上げた軟水は、皮膚の汚れをしっかりと洗い流すだけでなく、保湿効果も高いのだとか。

漫画『きょうの猫村さん』の作者ほしよりこさんによる富士絵巻図には、少年の成長模様が描かれている。

ーサウナは、利用者の気持ちをよく考えてつくられていると感じました。新保さんはよくサウナに行かれるんですか?

最近は週に一度くらいしか行けてないんですが、全国各地を回るくらい無類のサウナ好きで(笑)。そんな私のこだわりを詰め込んだのがこのサウナです。

例えば、全面に張った麦飯石。これによって、保温性と遮熱性が増して、さらには遠赤外線効果も期待できます。なおかつ、オートロウリュなので湿度も保たれますし、香りもいい。
週末はサウナ目当てのお客さんも多くて、並びができることもしばしばあります。

アロマ水がサウナストーンに注がれるため、蒸気とともに、心地よい香りも漂う。

ーサウナから水風呂までの距離がかなり近いですよね。

ここの導線も、サウナを出てすぐ水風呂に浸かれるように配置してあります。深さは90cmで広々としているので、大人数の方が入っても、ぬるくなりにくいんです。外気浴もかなり評判が良くて、風や景色の抜け感を意識してつくりました。

ー気になったんですけど、サウナ用の水風呂と大浴場の水風呂は、何か違いがあるんですか?

サウナ用は16度、浴場のは22〜24度に設定していて、これは交互浴をしてもらうためなんです。16度の次に、22度に浸かると、まったく冷たさを感じない。だから永遠に入っていられるんです。その後、サウナに入り直してたり、お湯に浸かったりしても良い。いろんなパターンで湯が楽しめるのがうちの強みですね。

サウナの正面に設置された水風呂は、ライトに照らされることで幻想的な雰囲気に。

ー確かに、永遠に入ってられました(笑)。洗練されたデザインだけでなく、利用者のことを第一に考えられた空間設計は、「ブルーボトルコーヒー」も手がけられているスキーマ建築計画の長坂常さんならではだなと感じました。

クリエイティブディレクションを担当してくれたのが、私の知人でもあり、アーティストの高橋理子さん。彼女から提案してもらったのが長坂常さんで、彼は次の世代に繋げていくという考えを持っていて、私たちの理想像と一致するなと思い、迷わずお願いしました。

ーレトロな風情もありながら、打放しコンクリートのエントランスやベージュに統一された脱衣所は、新鮮な雰囲気ですね。

さすがだと思ったのは、エントランスの間口ですね。銭湯って入り口が狭いところが多くて、お客さんからすると少し入りづらくないですか? それが「黄金湯」では間口がガラス張りですし、広く取ってあるので、入りにくさは払拭できたのかなと思ってます。

ー確かにそうですね。外から覗いたときにビアバーやDJブースが見えて気になりました。

そうですよね。この間もビアバーだけ利用されるお客様がいらっしゃいました。

ー銭湯を利用する方だけじゃないんですね。

全然、大丈夫です。そのときは、「今度、お風呂にも入りに来るよ」と言ってくださって。ここを知るきっかけはどうであれ、銭湯に繋がるのはありがたいことです。

ー浴場もそうですが、どうしても気になるのがDJブースです。銭湯とDJはあまりない組み合わせだと思うんですが、「黄金湯」だとよく馴染んでいる気がしました。このアイデアは、どこから湧いてきたんですか?

うちにレコード好きのスタッフがいて、風呂で流したら面白いんじゃないかということで、一年程前から銭湯でレコード市をやっていたんです。

ーいまの若い世代の間ではレコードもブームですもんね。

銭湯みたいな、いろんな年齢層の方が来る空間でそういったイベントをやってみたら、世代を超えた会話が生まれたんです。これに感動して、今回はDJブースを設置することにしました。コミュニケーションがますます盛り上がればいいなと思ってます。

銭湯とDJを掛け合わせたイベントも計画中。風呂上がりの一杯とともに聴くDJプレイはまさに極楽だろう。

ーそこにお酒も加われば、さらに会話が盛り上がりそうですね。

お酒は3種類のビールとハイボールも揃えています。特に好評なのが、「黄金湯」オリジナルのクラフトビール。ペールエールをベースにしているので、フルーティで飲みやすいんですよ。そして11月には二階に宿泊と休憩スペースをオープンし、軽い食事もできるようになります。

サーバーから注がれる「黄金湯」オリジナルのクラフトビール。軽やかな口当たりで、女性にもオススメ。

法被やTシャツ、手ぬぐいなどのグッズのデザインは、アーティストの高橋さんが監修。

薄手ながらもふわふわとした触り心地の貸し出しタオルは今治製。風呂上がりも快適さこの上なし!

ーグッズもそうですが、世代を超えて誰もが親しめるような工夫がそこかしこから感じ取れます。最近では銭湯やサウナがユースカルチャーとして注目されていますよね。

若い方たちの間で、銭湯が注目されていることは純粋に嬉しいですね。やはり若者たちが興味を持ってくれないと、将来的に銭湯やサウナの文化は続かないと思うんです。幼い頃に親しんでいたものは、大人になっても愛着がありますよね。だから、いまのブームは、文化を知ってもらうキッカケになりますし、すごく感謝してます。

ー今日もオープン早々に若いお客さんが来られてましたね。

はい、リニューアル前に比べて徐々に増えてきました。ただ、流行という表面上だけの理由ではなく、本質を理解して利用されている方が多い気がしています。サウナも健康目的で入浴されたり。一日中パソコンとにらめっこしていると気が滅入りますから(笑)。そのリセットにもなると思うんです。

ー着実に生活に根付いてきているんですね。そんななか、「黄金湯」、そして新保さんが目指す理想的な銭湯のカタチはどんなものでしょうか?

錦糸町をはじめとするいまの東東京エリアって、すごく活気があるんです。それこそ、長坂さんが手がけた「ブルーボトルコーヒー」が火付け役になっているのかもしれません。そのなかで、「黄金湯」が錦糸町を訪れる理由になったら最高ですよね。ついでに観光に来てもらって、この街をもっと好きになってほしい。銭湯やサウナを通じて、この街に熱気が溢れてきたら嬉しいですね。

INFORMATION

黄金湯

営業日:月〜日曜 ※水曜は男女入れ替え日
定休日:第二・第四月曜
時間:10:30〜24:30 ※土曜は15:00〜24:30
住所:東京都墨田区太平4丁目14−6 金澤マンション 1F
Instagram:@koganeyu
黄金湯 オフィシャルサイト

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