〈ジェイエムウエストン(J.M. WESTON)〉の知るひとぞ知るマスターピース、それが「ヨット #690」だ。文字どおり甲板の上で作業する男たちのために生まれたデッキシューズにカテゴライズされる一足で、「シグニチャーローファー #180」や「ゴルフ #641」などタイムレスな11のモデルで構成されるコレクション「アイコン」にその名を連ねる。
いかにも甲板への食いつきがよさそうなトレッドパターンもさることながら、見逃せないのはアッパーである。
きめの細かなシボが表皮を覆う、肉厚でしなやかなレザーは靴好きが愛してやまないロシアンカーフをモチーフにしたオイルドレザーだ。ロシアンカーフはかつて帝政ロシアでつくられていたトナカイのレザー。数百年のときを経て沈没した船から引き揚げられたというニュースは大いに話題になったものだ。そのオイルドレザーは本家のロシアンカーフに負けず劣らずのポテンシャルがあり、足をやさしく包み込み、そして耐水性に優れる。
セメント製法が多いこの靴種をグッドイヤーウェルト製法で仕上げている、というのも靴好きならたまらないはずだ。絞り込まれたヒールカップと相まって、足に吸いつくような履き心地が味わえる。
Photo_Hiroyuki Takashima
Text_Kei Takegawa