Number 10
中野 レラ・チセ

北の大地の贈り物。

日本の先住民族であるアイヌ民族。自然と一体となった、魅力的で独特な文化を持つ彼等のことを、私達はざっくり日本版アメリカン・インディアン? と勝手に認識している以外、知らないことが多いのではないだろうか。アイヌは文字を持たなかったため、彼等の文化はユーカラと呼ばれる口承によって、外部からの様々な軋轢に翻弄されながら現代まで伝えられてきた。残念ながら、今日その細部にまで入り込むゆとりはない。しかし、得意の好奇心の暴走に身を任せ、アイヌ料理レストラン「レラ・チセ」に辿り着いた僕等は、食べ物を通して少しでも彼等の文化に触れられるのではと、考えたのだった。

今回お話を聞かせてくださった元店長の沖さんに、一言でアイヌ料理の特徴はと聞くと「保存食」との答えが返ってきた。確かにそれは厳しい気候の中での最重要課題であったろうと、想像は難しくない。たまたま取材当日現店長の友人から送られてきたと言うヒグマがあったが、アイヌにとって神様である熊を食するのは特別な儀式時に限られているとのこと。陸の主食鹿、海の主食鮭、そして山菜が中心となる食材で、「レラ・チセ」の山菜は北海道現地のおじいちゃんやおばあちゃんが山で採って来たものを取り寄せているので、本格的だ。同時に厳密に言えば、伝承されているものに現代風のアレンジを加えたのが「レラ・チセ」の料理。それも、自然と共生してきたアイヌにしてみれば、環境の変化に倣って変わるのは当然のことだろう。

北海道のスケールに触れることのできる「レラ・チセ」は、国連の定めた「国際先住民年」を契機に募金をもとにまず早稲田に94年5月に出店、そして00年に中野区新井に移ってきた。経営的に瀬戸際な時期もあり、しかし東京周辺に5千人いると言われるアイヌ民族の居場所を守るという志によって、店は今日もそこにある。「風の家」の意である「レラ・チセ」。アイヌ文化は確かに風にのり、大地の味わいと共に、人々の心に伝わっているだろう。

中野 レラチセ
住所:東京都中野区新井1-37-12
TEL:03-3387-2252
残念ながら、2009年11月7日に閉店。








店名と同じく基本アイヌ語のメニューは、覚えるのが大変だが響きがどれも暖かい。
ヒグマの肉はやはりクセがあり、酒や生姜で匂いを抜いて柔らかく。入荷するのも稀とのことで、幸運。
“ル”が「溶ける」の意、鮭の“ルイベ”。ルイベは今一般の料理でも聞く言葉で、これも絶妙に口内で溶ける。
代表的な“オハウ”は汁物の意で、さんぺい汁のルーツ。
混ぜ煮“ラタシケ”の「シ」は本来小さく表記。かぼちゃ、金時豆、とうもろこしにキハダの実“シケレペ”が入り、この「レ」も小さく表記。
鹿もも肉のステーキ美味!
雑誌、広告、CDジャケット、ドキュメンタリーなどで、世界各地のディープな場所やモノ、人を中心に紹介することで有名な写真家。ダライラマ14世を写真に収めたことでも知られる。
日々のトレーニングのせいで感情移入してしまい、オリンピックばかり観ていた活性家。人生で最も地味で激しくなる先約2ヶ月はmadfoot.jpでのブログ"独壇場"にて報告中。