RECORDING, SOUNDS and ENVIRONMENT
オノ セイゲン
空間デザイナー/ミュージシャン
録音エンジニアとして、82年の「坂本龍一/戦場のメリークリスマス」にはじまり、多数のアー ティストのプロジェクトに参加。87年に川久保玲から「洋服が奇麗に見えるような音楽を」という依頼により作曲、制作した『COMME des GARCONS / SEIGEN ONO』ほか多数のアルバムを発表。
Photo by Lieko Shiga
3D音響空間(その1−1)
2012.01.10
図2のCenter View、Dimensionでは影がつくことで、そこにフロアのような面が存在していることが判る。影があることで光源が左上方にあることが予想される。またその影をよく見ることで複数の丸を表しているのかもしれないと予測できる。
図3のCenter View、DimensionになるとLeft ViewとRight Viewを加えることで、かなり正確な情報が得られる。しかし決定的に得られない情報もある。赤い丸は何を表しているのか。床はあるとして、後ろに壁があるかないか。また素材はなにか。
図4では、床面はなにか光沢があり、光も音も反射させているように見える。奥行きがあることも確認できる。ただ床の素材は石なのか木なのかは、また赤い丸がなにを示しているかは判らない。
図5では、赤い丸は、3つのトマトであり、縦一列に並んでいることがわかる。手前のトマトのヘタがこちら側で、ヘタそれぞれの向きや枚数まで判る。床が木材であろうことも判る。その床には擦り傷のようなのまで見える。影の色でコントラストも決まる。
俯瞰でみたトマト3つの写真を、図1〜5と見比べる。Left ViewとRight Viewはそれぞれ30度ほど煽りをつけた角度から見たイメージであり、これを左右の目でみても3Dになるものではない。あくまでこの図は、3Dコンテンツの原理説明である。復習しておくと、3Dコンテンツの原理とは、左右の眼の間隔(個人差はあるが約65ミリ)により生じる、視差を含んだ映像を、それぞれの眼に到達させる。
そして、立体音響に欠かせない、音像の定位とは、人間の左右の耳の間隔(個人差はあるが約180ミリ)により生じる、両耳間時間差(Interaural Time Difference:ITD)および両耳間強度差(Interaural Intensity Difference:IID)により決まる。音の場合は、先に到達した音の方向に、また同じ時間の場合は音量が大きい方に定位を知覚する。最後に重要なことを復習すると、トマトそのものよりもその影こそが遠近感の決定的要素である。音響空間や音の定位についても、精密に初期反射音を捉えることこそが、立体感に決定的な要素であることは言うまでもない。サラウンドの音響や音楽を(人間の聴覚に従って)本当にリアルに再現するためには、音源から直接発せられるダイレクト音よりも遥かに音量レベルの低い、初期反射音をいかに精密に捉えて再現できるかで決まる。