クロード・ガニオン×岩井俊二 プリミティブな映画談義。
2013.01.22
岩井俊二: 商業的な成功を収めた作品という意味では『ケニー』がありますよね。
ガニオン: あの作品も、本当は撮りたくありませんでした。足の無い少年を見世物にしてしまう可能性がありましたから。ただ、僕のやり方を貫くことを了承いただいて、ですね。それは今回の作品にも通ずる部分。ノープレッシャーで作品作りに集中することができましたから。岩井さんはどうですか? 自分らしい映画を撮れていますか?
岩井俊二: そうできるように努力しています。そういえば以前、クロードさんの故郷であるカナダで撮影したこともあります。
ガニオン: そうなんですね。カナダでの撮影はいかがでしたか?
岩井俊二: システマチックな部分に戸惑いはありましたね。1日の撮影時間は決まっているし、それを超えたらペナルティが発生してしまう。チームが大きい分、効率良く撮影は進むんですが、最後の15分は時計との戦いでしたね。
ガニオン: そういうやり方に、僕は賛同できないんです。俳優さんのテンションや現場の雰囲気を尊重して映画を作っていくと、システムを無視せざる得ない状況って必ずあるじゃないですか。観る人の感情に訴える作品を作ろうとしているのに、作り手の感情をシステマチックにコントロールするのは本末転倒なんですよ。とても映画的な精神とは思えない。
岩井俊二: ちなみに『Keiko』のときはどういった体制だったんですか?
ガニオン: たったの5人ですよ。でも、そうやって少数のスタッフで作った作品が1人の青年の心を動かし、映画監督となり、こうやって大成しているわけですよね。つまり、良い作品を作るのに、スタッフの多い、少ないは関係ないんです。
岩井俊二: 僕がカナダで撮影したときも、そういったジレンマはありましたね。もう少し少人数でもよかったのでは、と思ったり。ところで『カラカラ』の舞台に沖縄を選んだ理由を教えていただけますか?
ガニオン: 僕自身が今、住んでいるというのが理由ですね。馴染み深い場所で、現地のスタッフとともに撮影に臨みました。スタッフの多くは映画を専門としていないので、戸惑いもあったようです。3分間をワンテイクで撮ることなんて、映画以外ではなかなかありませんからね。しかも、天候の変化に慌てることなく、そのまま撮影してしまったり。ただ、それが僕のやり方なんです。
岩井俊二: 主演の2人が沖縄という不慣れな土地で、自然と関係を作っていく過程がとても見応えがありました。予定調和の旅を壊されることで、逆に素敵な旅が形作られていく。
ガニオン: ダメとわかっていても衝動的に動いてしまう、そういった人間の心の弱さを丁寧に描くように心がけました。さらに言うと、男女の物語ではあるけどラブストーリーではなくヒューマンストーリーとして仕上げているんですよね。
岩井俊二: 僕は、そういった部分に「映画らしさ」を感じたのかもしれません。
ガニオン: 同時にそれは「僕らしさ」でもあるんですよね。
※この対談の模様は「岩井俊二映画祭」でもご覧頂けます。