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『深夜食堂』が恋しくて。 ドラマと映画と、時々、ごはん。Special Interview 小林薫

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「撮り方からして、普通のテレビドラマとは違います」

-最近マンガの実写化が増えていますが、原作が人気作であればあるほど賛否両論になります。しかし、『深夜食堂』に関しては原作ファンも満足というか、むしろ想像していた以上に良かったという声が多いというのは珍しいパターンですよね。

小林: そういう声はありがたいですよね。原作の持つ味わいと映像は、ある意味では別ものだと思っていて、映像のほうがはるかに情報量が多い。たとえば、温かい料理を線描で描くのには限界があるけど、映像の場合、色合いや湯気が立っている様子を捉えることもできるので、情報量が圧倒的に多いし、それによって伝わるものが変わってくる。原作には原作の楽しみ方があって、映像には映像の楽しみ方がある。よく、原作ものを映像化すると、ファンの方から「がっかりした」とか「裏切られた」とか、「役者がこのキャラクターのイメージと違う」という声が必ずといっていいほど上がるんですけど、『深夜食堂』の場合、原作とまったく一緒じゃなくても、どこか許されているところがあるんじゃないでしょうか。

-それはおそらく、ドラマ化と聞いてみんなが想像したレベルを遥かに超えていたからだと思います。

小林: 撮り方からして、普通のテレビドラマとは違いますからね。カメラマンが「ちょっと今のカット、もう一回やらせてください」という、「カメラマンNG」が出ることもあるくらいで。そこに映画人としての特色があると思ってやっている人たちなので、それはもう驚くほど丁寧だし、一つ一つ作っていってる感覚があるんですよね。一つ一つの画面の構図、構成する要素の密度みたいなものが何に向かっているのかについては、かなり注意を払っていると思う。「そういうことを追求していくと何も撮れなくなっちゃうよ」という世界とは、自ずと違ってくるんですよ。このシーンだけ箸立ての位置を微妙にズラすとか、柱時計を外そうとか、そういうことを常にやっているし、照明にしても、細かく足したり削ったりしている。そういう意味では、一つ一つの映像のポテンシャルは明らかに高いんでしょうね。

-なるほど。あの画面のクオリティの秘密が解けたような気がします。今回、2011年のパート2以来、3年ぶりにマスターを演じられたわけですが、ブランクがあって、ふたたび役に戻るのはどういう感じなんでしょうか。すんなり戻れるものですか?

小林: 正直に言うと、あまり考えていないんです(笑)。毎回違う役や違う設定をいただいて、その都度演じていく、というのが役者の仕事だとすると、時間が空いてもあまり戸惑いのようなものはない。ただ、過去とのつじつまを合わせる部分はありますね。たとえば、マスターが現金のやりとりでお金に直接触るかというと、あまり触ってなかったよね、と。じゃあ、リアルなお金の受け渡しのシーンはなるべくやめようか、というような話を監督とするんですけど、そうすると監督が、「過去に1回だけお金を渡してたシーンがあった」とか言って、「あ、そうでしたっけ。じゃあ渡してもいいのか」みたいな。そういう、「最初の頃どうだったっけ」みたいなやりとりは現場で多少ありますけど、そのくらいですかね。マスターに関しては、それほど個性的な芝居をしているわけでもなくて、毎回ゲストの芝居が中心で、むしろドラマがそっちに向いているということも大きいと思う。いつ行ってもそこに相変わらずマスターがいて、「できるもんならつくるよ」っていう合言葉で客の注文に応えるというスタンスなので、「変わらずにそこに居る」ことがいちばん大切なのかな、と。

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-今回、ドラマのパート3があって、来年公開の映画もあるわけですが、つくり方としてスケールアップした部分はあったんですか?

小林: 微妙にセットは変わってますね。パート1は本当に予算がなかったので、製鉄所の組合が集会に使っていた場所を借りて撮影していたんですけど、撮影機能が整っている場所ではないので、セットスタジオと考えれば明らかに狭いんです。だから美術はかなり苦心してセットをつくったと思う。店と、外まわりは一方向から奥にT字路がわずかに見えるだけ。パート2では、もう少し大きな倉庫を借りて、店の外の通りを逆のアングルからも撮れるようにして、やや奥行きのあるセットができた。今回は、さらに大きなを倉庫を借りて、店の裏に1本路地をつくって、それが大通りとつながっている。そこを祭の神輿が通ったりもするんです。

-そこまで広がってるんですね。ちなみに、店内の広さは第2弾と同じですか?

小林: 実は分からない程度に店内は広くなっいてるんです。

-そうでしたか! 実はパート3の1話目(『メンチカツ』)を見た時に、「あれ?なんだか『めしや』が広くなってないか?」と思って第2弾と比べてみたんですが、店内がわずかに広くなっているような気が。

小林: ああ、よく分かりましたね。確か、3センチくらい広くなったのかな。カウンターに客が座っていて後ろを人が通る芝居の時に、今まではギリギリだったので、若干広くして1人通れるくらいにしているんです。今までは人の出入りが制限されていたので、それを芝居やセリフでカバーしていたところもあった。もう少し広いほうが、いろんな意味でやりやすいだろうということで。

-若干リフォームした、と。美術はパート1からずっと原田満夫さんですよね。阪本順治監督の作品でもおなじみで、最近では『テルマエ・ロマエ』も手掛けています。

小林: 原田さんは凝り性というか、暴走しちゃうんですよ(笑)。監督がいちばん手綱を引き締めたのは原田さんじゃないかな。以前、別の映画でセットをつくった倉庫が栃木県の足利にあって、今回もそこがいいと提案したらしいんですけど、スタッフとキャストが通うのはさすがに大変だということになって、それに代わる場所ということで埼玉の入間になったんです。

-そういうスタッフの「暴走」は芝居をする俳優にも影響を与えるものですか?

小林: 逆に張り切り過ぎちゃう人もいるのかもしれないけど(笑)、役者としては、きちっとした感情で芝居をしようという集中力が高まる気はしますね。

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