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中野 川二郎

鰻と聞いて、つい思い浮かべるのは蒲焼き屋でなく、ここ。

行く時はいつも、当然店に入るのに待つだろうという気持ちで向かう。これまでの経験でも5時半のオープン直後から、カウンター約10席と1つある4人がけのテーブルだけの必要最低限の店内は基本的にずっといっぱいだし、ただ、事前の電話ですぐなくなりがちな"肝刺し"、"燻製"と"うな丼"の予約だけはしていくようにしている。中野という普段の行動エリア外の場所に、頭の中に思い出される旨味に抗う力なく導かれるまま繰り出すのだから、お目当てのものがない時のダメージも特に大きく、当然と言えば当然の対策。やっと席を確保し、飲み物とともにまず頼むのは"ひと通り"。部位によってごぼうやニラに捲いてあったりと美味しく食すための工夫も嬉しい、6本の串焼きセットだ。

鰻の串焼き屋といって、他の店がすぐに浮かばない。全部数えても都内にそんなにありはしないだろうと思う。しかし、ここ"川二郎"で串焼きとして出てくる、頭の骨以外のすべての部位を食べるたび「どの店も美味しい部位を無駄に捨てているのかなあ」などと、いらぬ心配が頭に浮かぶ。

先代がまず屋台で店をだして7年。昭和43年に今の、未だ昭和の風情がプンプン香るエリアに越して来たとおっしゃるから、開業して40年をゆうに超えることになる。なるほどお客さんも地元の常連さんが多いような気がするし、だからこその店の雰囲気が心地いい。お亡くなりなる直前までお店に出るかもしくは仕込みを手伝ってらっしゃったという先代を継ぎ、現在は2代目とさらに3代目が並んで僕等を迎えてくださる。"川二郎"は約6年前の"おいしんぼ"に一話丸々登場し、登場する日本食通の外人を驚かせているが、原作者の雁屋哲氏も舌鼓を打ちながら、まさに余すところのない鰻本来の旨味をここで堪能していたのだろう。

連載"白眉の食事"始まりました。こんな感じで普段の日常より、矛盾だらけの世の中で、心から満たしてくれるお店を毎回紹介していきます。どうかよろしくお願いします。

中野 川二郎
住所:東京都中野区中野5-55-10
電話番号:03-3389-4192
営業時間:17:30~22:00
定休日:日曜日





僕等は2、3代目、そしてお母さんの阿吽の呼吸に身を任せていれば幸せ。
2代目自らが捌くうなぎ。これで旨くないわけがない。
雑誌、広告、CDジャケット、ドキュメンタリーなどで、世界各地のディープな場所やモノ、人を中心に紹介することで有名な写真家。ダライラマ14世を写真に収めたことでも知られる。
最近は書き仕事ばかりの活性家。説明し難い日常はmadfoot.jp"独壇場"にて報告中。17日は青山OATHにてDJで、「STUDIOVOICE」や「KING」にて連載中。