Number 4
吉原大門 桜なべ 中江

明治38年から吉原で続く東京の食文化を喰らう。

文明開化で庶民が肉を食うようになり横浜では牛、それならこちらは馬をと始まったのが桜鍋。馬肉を桜肉と呼ぶのは高杉晋作と坂本龍馬が酒の席で謳った都々逸「咲いた桜になぜ駒つなぐ 駒が勇めば花が散る」に由来するという。九州は久留米から送られてくる馬肉は旨い霜降りのために特別に8〜9年育ててもらったもので、普通の食用馬肉は3〜4才の馬のものというから、そのこだわりが伺い知れる。
「余計に場所もエサ代もかかってしまいますが、東京の食文化を守るためならそれぐらいは」
サラっとそうおっしゃる4代目中江白志さんが眩しく見えた。

場所は吉原土手。日比谷線三ノ輪駅から店まで歩いて行く道のりがすでに、懐かしい昔ながらの東京に戻って行くかのよう。到着して、大震災後に建て替えられたとはいえ築80年を越す店舗の趣き、店内に飾られた菊正宗本社にもないというレトロな美人画ポスター、常連だった武者小路実篤が扇子に書き残して行った詩などに、口元がつい緩む。常連だったという岡本太郎が三代目と編み出したメニューもある。
「何か物を創るお仕事との相性がいいのかもしれませんね」芸術家や音楽家、作家さんに相撲取りやプロレスラーまでがよく訪れるという。

小さい鉄の鍋や、割下を見ながら食べるマナーはどじょう鍋を思い出す。コクを出すためと、初代発案の味噌ダレが入る。赤身はサッと火を通し、脂身はゆっくり飴色に透き通るくらいまで煮込むのが食べ頃。こってりな見た目に反してカロリーが牛の半分でダイエットにも適しているらしく、女性でも老人でも2、3人前はつるりと食べられる。馬と言えば九州熊本という概念がコロリと崩され、口の中で溶け、広がる旨味に心が躍る。最後は残った煮汁を卵でとじてご飯にかけて食べて締めるのだがこれが旨くて、5杯でも10杯でも食べれそうな錯覚を覚えた。

お約束はここで精をつけ、そのまま吉原遊郭へ繰り出すこと。戦前は辺りに20軒もの桜鍋屋があったというが、今はもうたった2軒。文化を粋に守れるオトコになれるよう、自分をもっと鍛えたい。

吉原大門 桜なべ 中江
住所:東京都台東区日本堤1-9-2
電話番号:03-3872-5398
営業時間:17:00〜23:00、11:30〜22:00(土・日・祝)
定休日:月曜日(祝日の場合は営業)








未来の5代目宏行君も見ている光景でしょうか。
馬の霜は若い肉には降らず、歳を重ねてしっかりした味になる。
昔は店の目の前も川で、橋がかかってたとのこと。
これが3代目と岡本太郎先生考案、タルタルステーキ。
肉はもちろん、白滝や野菜にも味が染みて激ウマです。
卵とじの調味料は中落ち、豆腐に秘伝の味噌少々。
雑誌、広告、CDジャケット、ドキュメンタリーなどで、世界各地のディープな場所やモノ、人を中心に紹介することで有名な写真家。ダライラマ14世を写真に収めたことでも知られる。
最近書き仕事ばかりの活性家。説明し難い日常はmadfoot.jp"独壇場"にて報告中。STUDIOVOICE、KINGの連載も是非。今回はビールを我慢するのが至難の技で......。