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浅草 あらまさ

東京に久しぶりの大雪が降った次の日、僕等が向かったのは浅草の本格秋田郷土料理の店「あらまさ」。店名は秋田の銘酒「新政」に由来し、店に用意してあるお酒は新政一銘柄とはいえ普通酒から大吟醸まで12種。この日はしぼりたての新年純米酒まであり、それもそのはず、昭和25年に店を始められた2人の創業者のうちお一方が、新政の蔵元の御子息だったのだ。
秋田と言えばきりたんぽ鍋、そして、しょっつる鍋である。「塩汁」がなまって「しょっつる」になったとされ、民謡にも唄われる魚"ハタハタ"がその主役。冬、日本海側に産卵のためやってくるハタハタが特に美味く、つまった卵はブリコと呼ばれる。味のベースとなる魚醤は、そのハタハタを2年以上塩漬けし発酵させた上澄み液。これがただ塩汁と片付けられるわけもない、体の内側から温まる旨味を提供してくれる。「ぽかぽかと体が温まるというのは、そりゃまあ秋田の料理ですからね。自分には結局これしかつくれないもんで」と、店のもう一人の創業者であり今も店に立つご主人、鈴木さんが笑いながら言う。
じゅんさいも、日本全国に流通しているものの約7割が秋田産。そのじゅんさいを鯛の切身、せり、ネギなどと共にほたての貝殻の上でさっと茹でて食べる貝焼鍋。畑のキャビア、ほうき草の実であるとんぶりがふんだんにのったふろふき大根や揚げ豆腐に、エイの別名カスベの唐揚げ、海藻の佃煮ギバサ。どれもこれも、体はもとより、心が温まる肴達だった。
「秋田では食べない調理法もありますよ、私が自分で考えるんです。一度出してお客さんに好評だとメニューからも下げにくくてね、どんどんメニューが増えちゃって」
等身大で秋田料理を伝え続けてきた鈴木さん。最初は小さかったという店舗が、今のように地下に何室もの宴会部屋を持つまでになったのも、その温かみがお客さんの心に届いてきたからだろう。店内にかかる秋田の民謡。ふと気付くと東京を離れ、東北の雪の中で鍋をつついているかのような錯覚さえおぼえた、「あらまさ」での一晩だった。
浅草 あらまさ
住所:東京都台東区西浅草2-12-8 あらまさビル
電話番号:03-3844-4008
営業時間:17:00〜1:00、16:00〜23:30(日・祝)
定休日:月曜日



