Number 14
西麻布 三河屋

「お腹いっぱいになったか?」
おカアさんに聞かれ、心から「はい」と答えるのが、それ以上ない最良のコミュニケーションの在り方の一つに思える。
"西麻布"という、財布の中身をいつも気にしている身分にとって、その響きだけでちょっと腰が引ける土地の真ん中にある「三河屋」。取材に訪れた僕等のおしりを、「揚げたてのあったかいうちに食べて、わかんないことは後から本読めばいいのよ」と、気持ちよく叩いてくださる。「美味しいかどうかなんて、何がどうじゃないよ」初代がお肉屋さんとして店を開店なされたのが昭和5年というからもう78年間、過去掲載された140冊にものぼると言う雑誌群が、読まずとも説得力を放つ。
早朝4時から100個にもなろうかというじゃがいもを茹で、コロッケを作り始める。季節によって変わる美味しいじゃがいもの銘柄を指定し、築地から取り寄せる。じゃがいもも、女の子と一緒で器量がいいのが一番、とはおカアさんの弁。デコボコだったりヘコんだりしてなくて、水っぽくないものがいいらしい。毎日11時半にオープン、ご飯がなくなり次第店じまいなのだが、過去におかわり自由だった時には12時15分に閉まってしまうことがあり、今はおかわりは2膳目まで。
「お客さんには若い子が多いからね、みんなよく食べるよ。だからおまけもつけてあげてね」愛情のこもった計らい。「若い子と話すのは楽しいし、面白いよ。それに、もし嫌なことが会社であってもお腹いっぱいになれば忘れるでしょ」確かに。「でも食べると眠くなっちゃうって子もいたね(笑)」
この場所にあってメニューも値段も基本変わっていないというのが、まるで奇跡のような気がしてくる。
「表に出てるのが店をやってる2時間弱であとはずっと裏方の仕事だからね、
バカバカしい仕事だよ(笑)」
空腹を満たす方法を探し続ける若者達を救い続ける、考えるとまるで女神のような三河屋。ずうっとそこにありますように。
西麻布 三河屋
住所 :東京都港区西麻布1-13-15
電話番号: 03-3408-1304
営業時間:11:30〜14:30
定休日:土曜日・日曜日・祝日





