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Interview with EGO-WRAPPIN' 結成17年目を迎えるバンドの、熟れた最新作。

2013.04.30

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通算8枚目のアルバム『steal a person's heart』をリリースしたエゴラッピン。今年、結成17年目を迎える彼らが最新作で提示したサウンドは、そっと身体に染み込んでいくような優しさと心地よさで聴く人に寄り添う。歌い続ける中納良恵と、鳴らし続ける森雅樹。二人が奏でる今のエゴラッピン"らしさ"とは。

Photo_Ryosuke Kikuchi
Edit_Yohei Kawada

もう、それに気づかないようになってるんだとしたらヤバいなと思うんです。

-2年半ぶりのアルバムということで、前回のアルバムを出してから現在までを振り返っていただけますか。

森雅樹(以下、森): やっぱり大きな出来事としてはまず、震災がありましたよね。

中納良恵(以下、中納): 前回のアルバム『ないものねだりのデッドヒート』のツアーも一段落して、あれが起こって。震災後はすぐに、地方へアコースティックのライブをしに行ってましたね。それを、しばらくは続けてたよね?


森: そうですね。できるだけ身軽な状態で、どこへでもライブに行けるように。2人で行くこともあれば、ドラムのスガちゃんを連れて3人で行ったり。震災が起きてすぐです。

-その後は地元・大阪のクラブ「NOON」の摘発を受けて、風営法改正を考えるイベント「SAVE THE NOON」への参加もありましたよね。

中納: 音楽聴いて踊るなんて普通のことじゃないですか。それが法律としてアカンとされていることが、ちょっとヤバい時代に生きてるという実感はあるし、昨今、流行のアイドルグループもそうですけど、みんなが一緒じゃないとアカンという雰囲気自体が異常だなと思うんですよね。均一化されることに慣らされていってる、というか。もう、それに気づかないようになってるんだとしたらヤバいなと思うんですよね。人前で音楽をやってる立場として「それはちょっとヤバいよ」と、私らがもっと率先して言わないといけないと思うんですよ。

森: しかし、ややこしい問題ですよね...。僕がDJの際に掛けるレコードもそうですけど、決して踊らなきゃならないわけじゃなく、本能的に踊っちゃうようなレコードを掛けてるわけですからね。(風営法っていうのは)自然を妨げているような、そんな感じですよね。

-今作はこれまでにないほどにストレートなメロディと歌詞が印象的でした。エゴラッピンらしいバリエーションの豊富さはあるのに、過去のどの作品よりも素朴で優しい。そこに何か、今話していただいたような、身の回りの環境の出来事を経て制作された痕跡を感じることができます。

中納: 特に明確なコンセプトは設けていなかったので、結果そうなったんです。ポップなアルバムを作ろうとか、そういう意図はありませんでした。ハードコアでもパンクでも、キャッチーなものの中には必ずポップさが存在していて、その部分は重要だと思うんですよ。ただ、先ほども言ったように、震災以降に全国の様々な場所でライブをやった経験から、"アコースティック"というのは意識としてあったかもしれませんね。

森: そうかもな。アコースティックという言葉は、確かによっちゃんの口から出てきてたよな。「水中の光」というアルバムの最初の曲があるんですが、それは象徴的かも。今作の中で一番始めにできた曲なんですよ。

-過去のアルバムの1曲目を聴くと、割とアッパーなテンションの曲が多かったと思うんですよ。逆に言えば毎回、そこにエゴラッピンらしさを感じ取ることができた。今回のアルバムを再生して最初にこの曲のイントロが耳に入ってきた時は、そういった意味で驚きというか、「おやっ」という意外性を感じましたね。

森: 意識してあの曲を最初に持ってきたというのはあるかもしれませんね。ああいう優しいアコースティックな曲が1曲目に来るという印象の下の作品と言いますか、うん。

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今までは口に出さないようなこととかもポンポン言葉に出てきてしまう。

-アルバムを締めくくる「fine bitter」という曲も、「水中の光」の延長線上にあるような気がしましたね。受け手としては今作でお二人が考えていること、あるいは今の気分的な部分が非常にスッと入ってきて、共感できるというか。

森: ええ、割と正統派と言いますか、ある意味ではそういうフィールドに乗っている2曲と言えるかもしれませんね。だから、よっちゃんの言った「震災以降のライブを通してアコースティック的な意識が強くなった」という部分は、アルバムに素直に表れているのかもしれません。実際、僕は普段聴く曲もずいぶん変わった。もうあれから2年以上も経つのに、今も穏やかな曲を欲しているのかも分からない。

中納: 私は音楽の聞き方は変わらないですけど、やっぱり衝撃的なものだったから、かなり影響は受けています。あれで何か自分がやれることを再確認しましたし、身が引き締まる思いでしたから。加えて、さっきも少し話した大阪の現状もあって、今までは口に出さないようなこととかもポンポン言葉に出てきてしまう。震災以降、特に今回のアルバムの歌詞については、その辺も反映されていると思いますね。


森: そうだね。

中納: ただ全然押し付ける気はなくて、「ちょっとそれは違うんじゃない?」っていう提案ですよね。柔らかい部分で物事を考えてもらうきっかけとか、一方で何かを分かり合うきっかけとか、そういう風になっていったら良いんですけどね。

森: あとは、最近は音楽を知るにも恵まれた環境があるし、例えば、どういう音が鳴っているのか気になれば、ネットでもなんでも調べればすぐに分かりますよね。技術的な部分もだいぶ進化してて、10代の子でもクオリティの高い楽曲をたくさん作ることができる。でも、今ひとつ"人"が見えてこないというか、サウンドはヘロヘロでももう少し人間っぽい感じが残っている音を欲してるんですよ。だから余計に、確信犯的に味わい深い音に近づけているというのはありますね。

-温もりを感じられるクラフトのようなものでしょうか?

森: 今回のアルバムは今までの作品より音数も少ないし、なるべく自分たちで楽器を演奏してたりするんですよ。シンセベースをよっちゃんがやるとか、みんなでドラム、ギター、ボーカル、ピアノを色々試したりして。"やってない人のやってる感じ"とか、その混ざり具合とか、そこが絶妙だったりするんですよね。この作品で出したかったのはそういうポイントのような気もしてます。遊びの延長線上でやっても、その辺の感覚は3人とも合うし良いもの持ってるからやり易い。いつものライブバンドでやってしまうと、また少し雰囲気も違うのかなあ、って思います。

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