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BIG YANK The Third Edition  5人の好事家デザイナーがアレンジした、それぞれのビッグヤンク。 Case1_山下裕文

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トップバッターを飾るのは、いぶし銀の実力派として知られる〈モヒート(MOJITO)〉の山下裕文氏。通りの通称にもなっている伝説のショップである「プロペラ(PROPELLER)」でプレス、バイヤーとして活躍し、米国の有名セレクトショップの日本初の展開や、英国の老舗ブランドとの契約業務なども手掛けてきた。現在は自身のブランドである〈モヒート〉を展開しており、そのストーリーのある確かなもの作りは、多くのファンを魅了している。

ー今でこそ〈ビッグヤンク〉はヴィンテージ好きであれば、誰もが知るブランドでありますが、90年代はマニアックな存在であったと思います。そもそもこのブランドを意識したのはいつですか?

山下:うーん、学生時代ですかね、かれこれ30年近く年前。それこそサーティファイブサマーズの寺本さんを始め、目利きの先輩方はその頃には〈ビッグヤンク〉を認識していたんじゃないですか? 仲の良い先輩に教えてもらった記憶があります。数は少なかったですが、まだ〈ビッグヤンク〉だからと言って値段が高いということはなかったですよ。

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ー当時のバイヤーさんなんかに聞くと、90年代のヴィンテージブーム時は、情報が少なすぎて古いワークウエアが本当にかっこいいのかわからなかったと聞きますよね。今でこそレアなディテールだとわかりますが、その時代になかなか勇気のある選択だと思います。

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山下:単純にシャンブレーシャツが大好きなんですよ。新品、古着を問わず100枚くらいは着たかと思います。これを買ったのは27歳の時だから1995年くらいかな。その頃に買ったデッドストックのシャツが、今回の企画の元ネタになっているんですよ。ある古着屋さんに行ったときに、雑にパンツハンガーで吊られていたんです(笑)。フラッシャーが付いて、確か8000円くらいだったかな。当時から〈ビッグマック〉なんかのいわゆるストア系ブランドの代名詞的なものは知られていましたが、〈ビッグヤンク〉は珍しかったかもしれなかったですね。ガチャポケって言葉もなかったと思いますよ。

ーその頃に〈ビッグヤンク〉のチンストラップ付きジップアップシャツを買うのはさすがですね。

山下:いやいや、実はアメリカに〈ロバート・ウォルドーフ・ラブレス〉というナイフメーカーがあるんですが、創業者のラブレスがジップアップのシャンブレーシャツを着ているんです。〈ビッグヤンク〉かは不明ですが、それがかっこよくて。あと自分が敬愛するアーネスト・ヘミングウェイもジップアップのシャツを着ているんですよ。これが写真です(そう言って携帯電話を見せる)。ポケットの位置なんかが〈ビッグヤンク〉にそっくりで。でも襟のロール具合がシャンブレーじゃないんですよね。

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ーさすがの観察眼ですね。ちなみにこの写真はいつくらいのものですか?

山下:おそらく40年代頃だと思います。自分の持っているジップアップのシャンブレーシャツが50年代頃のものですから、時代的には合うんですよね。フライフィッシングをしている時の写真なのですが、彼は道具をすべてなくしたとの理由から、それ以降は釣りをやめてしまうんです(笑)

ーなるほど(笑)。ヘミングウェイは最後に自ら命を断ってしまうわけですが、意外と繊細な人だったんですか?

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山下:彼はアメリカンマッチョと称され、強きアメリカの象徴として知られていますが、僕が調べた限りでは、ものすごく繊細な人だと感じます。洋服の着方をひとつ見ても、袖のロールアップの仕方など、とてつもなくきめ細やかなんですよ。あとサイズにもすごくうるさくて、モノ選びにも独自の審美眼を持っていますよね。〈ルイヴィトン〉のトランクや〈アバークロンビー&フィッチ〉のハンティングジャケットなどで有名ですが、すべてフルオーダーだと思います。ウィルス&ガイガーにアバークロンビーが生産を依頼したジャケットをヘミングウェイが愛用していたのですが、本人が着ているものだけ若干ディテールが違うんですよね。

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GUAYABERA SHIRT 各¥35,000+TAX

ーなるほど。今回の企画でキューバシャツを作っていますが、そちらもヘミングウェイが関係するのでしょうか?

山下:もちろん。実はキューバシャツというのは俗称で、正式にはグァジャベーラシャツと言います。ヘミングウェイはキューバにフィンカビヒアと称される邸宅を構えて、人生の1/3をメキシコ湾近辺で過ごします。彼はキーウエストやキューバでは、調子がいいとパンツ一丁で過ごすんです(笑)。パンツさえ穿けば、俺にとって正装だってコトバを残したくらいで。ただ彼は普段着に好んでキューバシャツを着ていたんですよ。

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