クリーンでベーシックというブランドのコアを継続させながら、6年目を迎えた〈カーリー〉が向かうべき方向性とは?
「当然ではあるのですが、ブランドが始まってから今に至るまで、少しずつ自分の中でも変化があります。先日パリに行ってきたのですが、やはり作り手として刺激は受けますね。やりたいことの幅が増えてきていることを感じます。ハイブランドやアウトドアブランドなど、〈カーリー〉とは全然違うジャンルの洋服を見るのは楽しいです。逆に近しい雰囲気のものは、できるだけ見ないようにしています。あとは、やはりメンズの洋服を作っているので、理由があってできているプロダクト、ディテールにはすごく興味がありますね。ただ、自分で着ない服は、あまり作らないかもしれないです」
あまり公言していないようですが、伊藤氏はデザインだけではなく、パターン、オリジナルファブリックの企画など、あらゆることを自分の手で行っています。何もかも勉強しながら、一段づつ階段を上がっていったそうですが、この執着心がブランドの確固たる芯に繋がっていることに疑いの余地はありません。
24歳の息子さんと一緒に〈カーリー〉を着ているという職人さん。「〈カーリー〉の服は、洗濯してもくたびれないし、へたらない。体にフィットするし、とても着やすいですね。いい職場を見つけました」とはにかんだ笑顔を見せてくれました。
さて、生産と企画部門の密接な関係性によって、ここまで順調に成長を遂げてきた〈カーリー〉。この先の未来を、作り手たちはどのように考えているのでしょうか。
「今は息子の世代だし、我々がやってきたやりかたや考え方とは全く違うけれども、今の時代に合うようにものづくりをする、その手伝いをはすることはできます。伊藤くんのように若く優秀な人も入ってきてくれた。だから、自分が持っている技術を今のうちに若い子たちに伝えていかなければと思います」(川北縫製 先代社長 川北 元氏)
「国内だけでなく、ゆくゆくは世界も視野に入れていきたいと思っています。今後そういったチャンスがあれば、チャレンジしていきたいです」(川北縫製社長 川北繁伸氏)
「ブランドの軸である、カット素材を使ったものづくりという部分は今後もぶらさずにやっていきたいと思います。そうした中で、うちにしかできないことを追求していきたいですね。例えば、カットソーでパンツを作るところってそんなにないんです。縫い方が全く違うので、工場があまりやりたがらない。自社で作っているからこそ、そうした挑戦ができるので、うちならではの利点を生かしてものづくりをしていきたいです。一番最初に4人くらいだった工場にも随分活気が戻ってきていますし、理想的なものづくりの環境になりつつあります。もうワンステップをのぼるための何かを模索しているところでもありますね」(カーリー デザイナー 伊藤裕之氏)
〈カーリー〉の洋服は、服飾の知識がない人が見たり着たりしても「よくわからないけど、なんかいい」という第一印象を持つような服だと思います。そしてその第一印象ほど、強いものはないのではないでしょうか? 細かいウンチクによって背中を押され、購入に踏み切るのも服の買い方の一つではありますが、もっとシンプルにプリミティブに買い物ができるのが、〈カーリー〉なのだと思います。
どこかでディフュージョンライン的な響きがあった、“ファクトリーブランド”という呼称に新たな風を吹き込んだ〈カーリー〉。地に足が付いているとはよく言ったものですが、その“地”が、ここ香川県さぬき市にありました。