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CURLYが生まれるまで。 香川県さぬき市、川北縫製のものづくりに迫る。

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「顔、雰囲気の良さがカーリーのウリです」

そしてインタビューの3人目は、〈カーリー〉のクリエイティブ全域をコントロールする、伊藤裕之氏にご登場いただいた。

元々、香川県高松市のセレクトショップで、販売、バイイング、企画を担当していた伊藤氏。当時作っていたハウスブランドのカットソーを、川北縫製にお願いしていたというところから両者の縁は始まっています。

「川北縫製が作るカットソーは、とにかく顔、雰囲気がよかったですね。バイイングを通じて、色々な国の色々な服を見る中で、素直にそう思えました。他のカットソー屋さんで作っていたこともあったんですが、やっぱり川北縫製が一番良かったです。ただ当時は、1店舗のみで展開するハウスブランドでしたし、これがこのまま埋もれてしまうのはあまりにももったいないと思ったんです」

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デザイナー 伊藤裕之氏

そして前述したように、川北縫製の側も自分たちから何かを発信したいと思っており、奇跡のようなタイミングで両者が邂逅し、〈カーリー〉が生まれました。

「昔は工場にも随分活気があったらしいですが、僕が入ったときは従業員が4人しかいませんでした。ブランドを始めるにあたって、自分は売りの現場、作りの現場、そして買いの現場も経験していたので、もっとこういうアイテムがあればいいのに、というところから少しずつ積み上げていきました。なので、ラインナップを見てもバラバラですね。セレクトショップっぽいというか。バイイングの目線でラインナップを作っていってるので、世界観ありきのものづくりはしていないんです」

そんな中、ブランド創設時からずっと定番で作られているアイコン的なアイテムが、このジップパーカ。

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¥16,000+TAX

「元々、川北縫製ではファスナー付きのパーカはあまりやったことがなくて、最初はファスナーと生地の縮率の違いなんかにも苦労させられました。ちょうどよい具合になるように、いせこんで縫って、何度もサンプルを作り直しました」

試行錯誤の結果、出来上がったパーカは誰もが絶賛する、独特の柔らかさを讃えた一着となりました。

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「フードの立ち上がり、フォルムにはこだわっています。着たときにふくらみがでて、きれいに立つように作っています。空気が入っているような質感というか」

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また、ジップを開けて着たときにも、綺麗に開くように見返しをつけており、とにかくパッと見の造形が美しいのです。そして驚くべきはそのプライスです。こうしたオーセンティックなジップ付きのスウェットパーカにこだわっているブランドは、自分が知る限りでもけっこうあります。が、このクオリティでこの値段。根源的なブランド力を感じる瞬間です。そもそも自覚している、〈カーリー〉の強みはどこにあるのかを聞いてみました。

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「抽象的な言い方になってしまうのですが、一言で言うと、顔、雰囲気の良さです。角が取れて、丸みを帯びた雰囲気でしょうか。パッと見はシンプルなんだけど、着てみて感じられる、内に込められたこだわりというか。そしてそれを具体的に言うと、生地や縫製による、着心地の良さということになります。まず、〈カーリー〉というか、川北縫製で作る商品には、縫製に立体感があるんです。平面的ではなく、柔らかな奥行きがあるといいますか。なかなか言葉では伝わりづらい部分なんですが、ステッチの精密さや丁寧さが、クリーンで上品だと言われる〈カーリー〉のアイテムの雰囲気を形作っていることは間違いありません」

縫製業にとって、ミシンとは命です。作りたい物が異なれば、作る機械にも変化が出てくるのは至極当然のこと。川北縫製でも、日夜ミシンの研究には余念がなく、生地に対しての糸の緩みや、テンションのかけかたを作るプロダクトによって細かく調整しているそう。

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「ミシンを中古で買うのはダメですね。そのミシンが以前、どんな生地圧でやっていたのかがわからないし、そもそも厚ものを縫っていたミシンだと、薄く柔らかいカットソーを縫うのに、どうしても調子が合わなくなってくるんです。“癖”がついてくるので。だから、ジーンズ屋さんのお下がりとかは絶対ダメです。車と一緒ですよね。ふかしてる車と大事に乗ってる車が全然違うように」

地道だが、着実なこだわりがブランドに厚みを加えていくのです。

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