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VOL.10 "INDEX DOMESTIC BRAND" 新たな東京ファッションの担い手が語る、 ドメスティックブランド最新事情。 3_ITTY-BITTY

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大島隆之 ITTY-BITTYディレクター
1978年東京都生まれ。服飾専門学校を卒業後、百貨店やセレクトショップ、デザイナーズブランドを経て、現在のフリーランスとしての活動に移行。〈イッティービッティー〉ではデザイナーとともにブランドの指揮を執る。

本当に自分たちのやりたかったことを表現すること。

—大島さん自身がブランドと関わりを持つようになったきっかけから教えて下さい。

大島:ブランド自体は意外に長い歴史があって、2002年にスタートしています。何度かデザイナーが変わり、現在は米澤と宇田という2人でデザインを担当し2012年からリブランディングという形で取り組みを始めました。ブランド名さえ変えなければ自由にして良いという話だったので、本当に自分たちのやりたかったことを表現させてもらっています。

—ブランドのディレクションを任される際に、イメージしていたコンセプトや服作りに対する思いはどのようなものだったのですか?

大島:耐久性や普遍的なデザインを兼備したプロダクトを意識しながら、作るからには最低でも5年は購入いただいた方の一軍のワードローブに置いておけるものでないといけないなと考えています。あとはあらゆる面でリアリティのある洋服を作りたいです。

—実際、大島さんはディレクションという立場から具体的にはどのようにしてブランドと携わっているんですか?

大島:僕はやっぱりデザイナーの表現したいことは実現させたいですし、その思いをセールスにも繋げていかなければならないという思いがあります。なのでデザイナーがどんなデザインをしたら良いのかという一つの指針を示す役割を担っているイメージです。

—ブランドの世界観をリブランディングしていく中で大変だったこと、また工夫した点などあれば教えて下さい。

大島:自由にして良いと言われたものの10年も続いているブランドということでそれなりに認知度もありましたから、そのブランドのイメージを変えることは簡単ではありませんでした。ただ、海外のメゾンブランドではデザイナーの交代に伴うリブランディングは珍しい話ではないので、そうした形をドメスティックのブランドでも、しかもカジュアルブランドでも出来たら面白いかなとは思っていました。

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—過去にブランドのディクレションをされていた経験などはあったのですか?

大島:小売の仕事はずっとしていたのですが、卸の仕事自体は今回が初めてでした。実務として直接的には流用できることは少なかったのですが、考え方や捉え方という点では活かせることも多かったと思います。過去の経験を土台にアップデートしていくという感覚に近かったと思います。

—それぞれのデザイナーさんとの出会いはいつころだったのですか?

大島:この仕事を始めたタイミングで出会いました。2人の存在自体は前から知っていて、ずっとセンスの良い人たちだなと思っていました。最初はお互いに距離もあったのですが、どんな仕事がしたいのだろう? なぜこのプロジェクトを引き受けたのだろう? という部分から少しずつディスカッションを重ねていき、ブランドとしての方向性を擦り合わせていきました。例えば数字では表すことのできない生地の強度やシルエットに対する感覚などは、実際に対話を重ねてみないとその価値観や感覚は人によって大きく違いますから。ただ3人とも好きな洋服のテイストは近かったので、意外とスムーズに話は進んでいきました。

—ブランドとして大島さんがディレクターに就任してから一貫してこだわっていることはなんでしょうか?

大島:新しさがあること、リアリティがあること、継続性があること。アイテムで言えば、丈の長いコートとボリュームのある太いパンツはずっと好きで、受け入れていただけるように提案を続けています。その二つのアイテムは3人ともそれぞれ好きだったというのが大きいかもしれないです。

—さらに洋服作りという点において大切にしている部分はなにかありますか?

大島:やっぱり一番は素材になりますが、その中でも色の捉え方になると思います。ネイビー、グレー、ベージュ等のベーシックな色をメインで使っていますが、よく見ると何色と表現していいかわからないような色提案に力を注いでいます。レディスに比べてメンズはアイテムの種類が限られているので、見たことのあるアイテム、そしてベーシックな配色の中で、いかに違いをつけていくかが鍵になってくると考えているからです。あとは年齢を重ねていくとともに生活環境が変わっていく中で、可処分所得は減らなくても個人で自由に使える金額の変化は無視できません。結婚、出産や大きな出来事があれば洋服に費やせるお金も限られてくると思いますし。そうした意味でもリアリティのあるプライスに落とし込んだ洋服を提案できたらいいなと思います。

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次の世代にも繋がっていけるようなブランドにしていきたい。

—リアリティを追求してくとなると、購買層も大島さんと同年代の方をターゲットにしていたりするんですか?

大島:そうですね。30代と40代の方がメインになってくるとは思うのですが、年齢が若くても少し大人っぽい着こなしを望んでいる方には手に取ってもらいたいですし、上の世代でもフレッシュさが欲しいという方がいればきっと喜んでもらえるとも思っています。クオリティと価格帯のバランスも含めたリアリティのある製品を提供して、人の役に立てるブランドにしたいと考えています。

—かつてのドメスティックブランド全盛の頃のように現在も多くのブランドが新しく生まれていますが、そんな状況をどう捉えていますか?

大島:今はとにかく多様化、細分化している時代だと思うので、どんな業種であっても100人前後のコアなファンがつけばそれで小さな商売が成り立ってしまうくらい様々なコミュニティが出来上がっているのではないかなと思います。そんな環境の中でファッションだからできる新しいことの可能性はあると思うので、これからも探っていきたいです。

—今後のドメスティックブランドはどうあるべきだと考えていますか?

大島:僕が初めてドメスティックの勢いを感じたのは、おそらく15年前くらいのドメブラ全盛期と呼ばれていた頃だと思います。その頃は東京を代表するデザイナーやブランドがいくつもあって、原宿のストリートシーンからも沢山のスターが輩出されていった時代でした。そんな大先輩の背中をずっと見ていたので、憧れを抱きつつも自分たちの世代ではこうしていきたいというイメージを漠然と持っていました。今改めて思うと、時代の流れとともに先輩たちから継承したことも多く、そうした経験を次の世代にも繋がっていけるような活動を意識していきたいと思います。

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—すでにデリバリーもスタートしてますが、今シーズンはどんなコンセプトを持って始動されたのですか?

大島:今シーズンは、「イノセント トーン」をテーマにしています。日本語に訳すと「調香」という意味で、香水を作る際によく使われる言葉なのですが、それが僕らの服作りとも似ているなと感じました。洋服に使用する素材を一から作っていたり、色も製品染めではなく糸から染め上げて様々な調合を試すことで他にはないオリジンなカラーリングを表現しています。なので今季はよりそうした素材や配色の面白さを楽しんでもらえたらと思っています。

—ブランドとしての今後の展望はいかがでしょうか?

大島:すごく抽象的ですけど、少し違う景色を見てみたいなと思います。ブランドを任されたばかりの時は、展示会のアポイントも一日に一件とかだったのですが、それが少しずつ認知されてきて、今ではそれなりに多くの人に見ていただけるようになりました。今後も変わらずに、一貫した方向性を持ってステップアップしていきたいです。

—ご自身としての今後の活動はどんなイメージがございますか?

大島:先ほどもお話した通り以前は小売業の世界にいたので、ブランドを表現できるような場所を持ってみたいという思いはあります。具体的な案件があるわけではないですがやはり店舗には大きな楽しさを感じます。新しい考え方や価値を持った店舗… 考えただけでわくわくしますし、ブランドのディレクションとはまた違ったやり甲斐があると思っています。

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次のページは、今季の最新コレクションをご紹介します。

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