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Norwegian Rain from Rainy City. 雨降る都市で生まれた、ハイブリッドなレインコート。

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単なる防水性だけではない、考え抜かれた機能。

ー具体的な機能面においては、どのようなギミックが隠されているのでしょうか?

T-マイケル:前立ての端の部分にはウォータートンネルという、横からの雨水の侵入を防ぐシステムをディテールとして組み込んでいます。日本の建築にある雨どいのようなものです。

ー水の侵入を防ぎたいのなら、通常であれば前立てにはジップを使用すると思います。どうしてボタン留めにしているでしょうか?

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T-マイケル:ジップだと、どうしても窮屈に感じてしまって着心地に影響を及ぼすからです。それにボタン留めだと、ベンチレーションの効果も発揮しますから。

ーなるほど。他にはどんなディテールがありますか?

T-マイケル:首の部分にはカシミアの生地を当てて暖かくなるように、裏地にはサテンを使用して袖通しをよくしています。あとは裁断も工夫しています。

ー裁断というと?

T-マイケル:美しいパターンは、〈ノルウェージャン・レイン〉にとって必要不可欠な要素です。着心地は快適で、なおかつ着たときのシルエットもきれいにでるようなパターンを考えています。こういったことは洋服をつくる上で当たり前のことなのかもしれません。しかし、当たり前のことに力を注ぐことで、素晴らしいウェアが生まれるのです。

ー確かに、着心地が悪ければ着る機会は減るだろうし、逆にパターンが悪くても同様のことが起こりますね。

T-マイケル:そうですね。やっぱり洋服をつくるうえで、バランス感覚というものはとても重要です。どこにも偏ってはいけない。機能に基づいたディテール、捻りを加えたデザイン、快適な着心地、美しいシルエット。これらの要素が巧みに融合して、〈ノルウェージャン・レイン〉のアイテムは成立しているんです。

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ーそれはやはり、ビスポークテーラーとしての技術と経験を持つマイケルさんならではの、哲学の結晶とも言えますね。

T-マイケル:自分ではなんとも言えません。しかし、テーラーとしての技術がそこに活かされているのは間違いのない事実です。

ーそういった技術を活かして、コート以外のアイテムをつくったりはしないのでしょうか?

T-マイケル:いまのところ、ウェアの展開は考えていません。しかし今後、〈グレンソン〉というシューズブランドと〈アリーカペリーノ〉というバッグブランド、2つのブランドとコラボレートをする予定です。どちらも100%防水というコンセプトはそのままに、上質なデザイン、クオリティーのアイテムを展開するので、ぜひ楽しみにしていて欲しいです。展開は2016年秋冬のシーズンになると思います。

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日本人の生活様式が新たなデザインの糸口に。

ー雨が多い街だから〈ノルウェージャン・レイン〉が生まれたと思うのですが、ベルゲンという街についてもう少し詳しく教えてください。

T-マイケル:ベルゲンには大学がたくさんあって、エネルギーに満ちあふれた若い学生たちが多く住んでいるんです。彼らは音楽やアート、デザイン、ファッションなど、それぞれのコミュニティを形成していて、深く繋がり合っている。というのも、街自体はとても小さいので、コミュニティー同士が密接な関係を結んでいます。それに雨が多いことが功を奏して、みんなひとつの屋根に集合し、なにかをクリエートする作業に没頭しているんです。

ーとても素敵な街ですね。

T-マイケル:そうですね。我々にも仲の良いアートチームやフォトグラファーがいて、彼らと一緒にいるとたくさんの刺激をもらえる。ベルゲンは本当にいい街です。しかしながら、同じ場所にずっといると思考が凝り固まってしまうこともある。だから私は今回日本へ来て、さまざまなインスピレーションを得るように意識しています。

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ー今回は2回目の来日と伺いました。

T-マイケル:昨年に一度、ショップのポップアップ・イベントのために来日して、1週間ほど滞在しました。しかし、東京はとても興味深い場所で、それだけでは充分ではなかった。なので、今回は約1ヶ月ほど滞在しています。昨年と同じように、ショップのポップアップ・イベント、そして「The Tweed Run Tokyo 2015」への参加、残りはすべて日本の街をまわる時間に当てています。

ー日本のどんなところからインスピレーションを得られるんですか?

T-マイケル:ファッションというよりも、街のシステムや生活習慣などから受けることが多いです。そのシステムはヨーロッパとはまるで違うので。例えば、東京の駅にはたくさんの人が溢れかえっているのに、そこにはなんの混乱もない。そういった光景は、まずヨーロッパでは見れない。なぜならみんな、我先に、と電車に乗降しようとするからです。しかし日本人は、一歩立ち止まったり、譲り合ったりして、みんなスムーズに乗り降りしています。そういった日本人の心や感性に、影響を受けるんです。

ーそういった光景は直接ファッションとは関係のない景色ですが、それがどのようにデザインに落とし込まれて行くのでしょうか?

T-マイケル:先ほども話した通り、同じ場所に長くいると、考えが同じルートを辿るばかりで広がりを見せなくなります。しかしながら、異国の文化やシステムに触れることで、価値観が広がる。それはつまり、思考のルートが増えることを意味します。その新しいルートを通ることによって、新しいデザインや工夫が生まれる。

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ー日本をはじめとする異国の文化や生活様式が、新たなデザインへの糸口になるということですね。

T-マイケル:その通りです。一見するとファッションに興味のなさそうな人が街を歩いていても、シャツの袖をまくったり、ユニークなアイテムを着ていたりして、それぞれのアイデンティティを垣間みることがある。その個性が、どんなことに由来するのかを考えたりするのも楽しい作業です。とにかく異国の文化に触れることは、新しい可能性に満ちている。それをじっくりと観察して、頭の中で考えるように意識しています。

ーもしかしたら日本でのインスピレーションが反映されたコレクションを、いつか見られる日が来るかもしれませんね。

T-マイケル:これからデザインに着手する2016年秋冬のシーズンは、日本で得たインスピレーションが反映されたコレクションになるかもしれません。まだどんなカタチになるかわかりませんが、なんとなくいいモノができあがる予感がしているので、ぜひ期待していて欲しいですね。

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