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TYPE FROM LONDON SPECIAL INTERVIEW 英国に根付くレタープレス(活版印刷)というカルチャーについて。

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写真左:Ian Mortimer(イアン・モーティマー)

I.M.IMPRIMIT代表。数々の印刷関連の受賞歴をもつ。1995年、制作に10年の歳月を費やした作品集『Ornamented Types』が、本のアカデミー賞ともいわれるInternational Premio Felice Felicianoにてベストブックデザイン賞を受賞。1996年には大英帝国勲章(OBE)も授与されるなど、長年のキャリアと実力は、博物館級と評されている。

写真右:Stephen Kenny(ステファン・ケニー)

東ロンドンに拠点を構えるレタープレススタジオA TWO PIPE PROBLEM LETTERPRESS代表。1800年代〜1900年代のヴィンテージの木版とレタープレス機を使った芸術性の高い作品で広く知られる。なかでも好きな映画や音楽、コミックなどからインスピレーションを得た作品の人気が高い。今回のエキシビションのメインビジュアルの制作も務めている。

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人の手による温もりを作品から感じることができる。(ステファン)

-まずはじめに、レタープレスというアート活動を始めた経緯について教えて下さい。

イアン: 私はもともと画家だったんです。“プリント”という量産できるものとは違って、“ペイント”というひとつしか描くことが出来ないものを制作していました。画家として影響を受けたもののひとつに日本の浮世絵があり、ふと版画に興味を持つようになったんです。それから版画や印刷全般について色々と調べていたら、木版を使用したレタープレスの存在を発見して。昔のロンドンの街中に貼られていたポスターも木版で印刷されていたものが多く、それを好きになってヴィンテージの木版を集めるようになったんです。それらのポスターと同じように、様々なフォントを組み合わせて作品を作ることで、自分の表現したいアートを追求できるんじゃないかと思ったのがレタープレスを始めたきっかけですね。もうかれこれ30年ぐらい経ちます。

ステファン: 僕の場合もイアンと同じく、最初はファインアートのアーティストとして活動をしていました。ポップアートからすごく影響を受けていて、コミックを中心としたグラフィックやプリントアートがとても好きだったんです。レタープレスを始めるきっかけも、コミックの絵や文字に興味を持ちはじめたのがきっかけで、7年前から本格的にレタープレスアーティストとして活動を始めています。日本のコミックからもたくさんイスピレーションを得ていますよ。

-表現者として、具体的に影響を受けたアーティストなどはいらっしゃいますか?

イアン: 浮世絵で言えば「喜多川歌麿」ですね。ただ、やはり中心となるのはヨーロッパのアーティストだと思います。本当にたくさんのアーティストたちからの影響を受けているので、一人ひとりの名前を挙げることは逆に難しいです。そういったアーティストたちの描く“フォント=文字”に強い興味を抱きずっと研究していました。

ステファン: 僕は「スタジオ ジブリ」の作品に影響を受けましたね。基本的にどの作品も好きなのですが、特に『崖の上のポニョ』と『ゲド戦記』が好きです。ジブリの作品のどこかノスタルジックな作風に強く惹かれます。

-それは嬉しいですね。ちなみにレタープレスの魅力を挙げるとしたら、どんなところですか?

ステファン: 人工的な作業では表現できない、人の手の温もりを作品から感じ取れることだと思います。それに木版はとても希少価値の高いもので、簡単に見つけられないんです。そんな希少性の高いものを鑑賞できるというのは、とても素晴らしいことだと思います。

イアン: こういった木版は、文化が衰退した60年代から70年代にかけて、大半が破棄されてしまっていて。それを見つけて再生させるというのも結構大変な作業で。それなら新しいものを作れば効率的だと思うかもしれませんが、そういうわけにもいかないというか。そこには古いものじゃないと出せない表現があるので。だから、これらの木版をいかに多く所有するかという部分も、アーティストとしての力量が試されるところなんですよ。

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日本人にもレタープレスに興味をもって欲しい。(イアン)

-普段作品を制作するにあたり、心掛けていることはありますか?

イアン: 私は常に新しい作品を作り続けるタイプのアーティストではありません。依頼を受けたり、イベントの趣向に合わせて表現を考えて作品を制作しています。作風でいえば、伝統を感じるようなクラシックな雰囲気のものが多いと思います。

ステファン: 僕は紙だけでなく、レザーや鞄、ステーショナリーなどにプリントや刻印を施して立体的な表現を行なうことも重要だと思っています。なので、作品を作るにあたってまず最初に”何にプリントをするか?”ということを考え、それが決まったら次にデザインを考えます。いまは香水やタバコのパッケージのデザインを思案中です。

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