玉子 - 土（松井智則）

おいしい。

玉子はおいしい。

やはり醤油じゃないと満足しない。

玉子はおいしいが

玉子に変わる何かがあるのか？

そう。

ない。

玉子は完璧だ。

だが、私の家系はコレステロールに弱い。

だが、玉子は私を求める。

玉子。

卵。

どっち？

卵は玉子を産んで

私は卵で玉子を産む。

私が玉子を産めば

王子は卵を産む。

酔いは玉子を産み

酔いが私を殻の中に閉じ込める。

私は私をうまく殻に閉じ込められず

殻の外にも出さない。

では私の居場所は

私に分からないのではないか？

気がつけば

私は殻の中に閉じこもった愛を語る黄身。

私は独占的に愛する自分を

私であるが故に私の言葉に耳を傾け

私であること否定する。

そうね。

めんどくさいのは

私が生まれなくてもよいという

私の革新的な理由を手に入れたことであって

私の声は殻の外に届かない。

私はもろく

私はかたく

私は生まれない

私はただの卵である。

私はただの玉子である。

私はどんどん普通になり

私は君を恐れない。

銃を持つ社会が

銃を持たない社会に変わった瞬間を

私はずっと待ち続けながら

いらないものを切り捨て

必要なものばかり追い続ける人生なら

私は玉子でい続ける必要のない日々を

ずっと過ごしているのであろう。

顔はなくても

私はここにいるのです。