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オノ セイゲン空間デザイナー/ミュージシャン録音エンジニアとして、82年の「坂本龍一/戦場のメリークリスマス」にはじまり、多数のアー ティストのプロジェクトに参加。87年に川久保玲から「洋服が奇麗に見えるような音楽を」という依頼により作曲、制作した『COMME des GARCONS / SEIGEN ONO』ほか多数のアルバムを発表。Photo by Lieko Shiga

RECORDING, SOUNDS and ENVIRONMENT

オノ セイゲン
空間デザイナー/ミュージシャン

録音エンジニアとして、82年の「坂本龍一/戦場のメリークリスマス」にはじまり、多数のアー ティストのプロジェクトに参加。87年に川久保玲から「洋服が奇麗に見えるような音楽を」という依頼により作曲、制作した『COMME des GARCONS / SEIGEN ONO』ほか多数のアルバムを発表。

Photo by Lieko Shiga

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『ベルリンの夜/オノ セイゲン』

2011.08.09

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9月12日追記:
P32「とくに「Berliner Nachte」の音がすばらしかった。14分近くにわたってワンコードで繰り広げられるギターミュージックだが、さまざまなエフェクト処理が施されており、その複雑に綾なす音のタペストリーがみごとに解像されるさまを味わい、多いに興奮した。」山本浩司さん記

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本文:

 (私の)アルバム、どんなジャンルですか?と尋ねられて答えに困る。私自身は、音楽をつくるときにジャンルは意識していないので。ジャンル分けとはそもそもレコード店のどのコーナーに並べるのか、あるいはどの担当バイヤーに情報が流れるかのためにあり、それは結果的に(作曲者が望まずとも)多くのリスナーにはバイアスとして影響してしまうであろう。ロックは聴くがジャズは聞かないリスナーとか。ジャンル別コーナーがあるがために(作曲者が望む)リスナーに届かないことも生じてしまう。ジャズかワールの棚に入れてほしいが、ニューエイジや音響系の棚に入れられるのはイヤ〜な気分になる。そんなこと言ってるからいつまでたっても誰にも知られないアルバムばかり増えてしまうのだろう。誰かマーケティングディレクターやってくれないかなぁ?

 このアルバムの音楽は、1988年に家具の展示会のためだけに、滞在先のミラノでその空間と家具のコンセプトに合わせてオリジナルを作りそこでは簡単な演奏もした。ミラノで作ったのにタイトルは、ベルリンの夜。12弦ギター1本を重ねながら演奏したものである。これだけは決して入れられたくないジャンルの音響系とか実験音楽とかになるか。録音手法はたしかに実験的である。すべて手演奏のギターの感情、精神的にはロックに近い、つもりなのだが。ちなみにトラック1と6は、23年後のこの7月になってリミックスしたものである。


『ベルリンの夜(ベルリナー・ナハト)/オノ セイゲン』 
Berliner Nächte /Seigen Ono
berliner jacket.jpg

1 Berliner Nächte memories (14'09)
2 Berliner Nächte part-1 (6'48)
3 Berliner Nächte part-2 (6'30)
4 Berliner Nächte part-3 (11'47)
5 Berliner Nächte part-4 (13'48)
6 Berliner Nächte refrain (6'28)




Seigen Ono: 12 strings guitar (YAMAHA APX-9-12)
No synthesizers or samplers.

Written, performed and produced by Seigen Ono
DSD Mastered by Seigen Ono at Saidera Mastering, July 2011
Recorded at GREEN studio, Milan, September 1988
Mixed at QUAD, New York City, December 1988,
Track1 and 6 mixed at Saidera Mastering, July 2011



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 このアルバム誕生のきっかけとなった1988年のPALLUCCOの展示会はほんとうにすごかった。以下、実際にそこに居た現在イタリアで活躍中のデザイナーとFBで交わした会話から:
MS:懐かしいですね。あの展覧会を知っている人は誰でも、あ​れを超えるものはないと言います。何か面白いことしたい​ですね~。
TM:それにしても、こんなに時間が経ったのにはっきりと感動​が未だに伝わるなんて、そうそうないことですよね。
オノ:ジャン・コクトーの「美女と野獣」のセットに入り込んだ​かのようなあの光景、すごかったですねえ。その場で体験した方にとっては記憶に残る特別な夜でした。

1988-pallucco.jpg

以下は、ライナーをコピペ:

 この何年かは、キャノン、ソニー、東芝なども参加して話題となる家具の国際見本市ミラノサローネ。イタリアのデザイナー、建築家たちの間では、今でも伝説となっているのが、1988年ミラノのMattatoio(食肉処理工場)で行われた"pallucco"のコラボレーション"Furnuture shown under film light"であった。古くからあった工場が1973年頃に閉鎖になったままの工場跡地、その床(コンクリート)の通路、展示箇所とするエリアだけをきれいに磨き上げ、それ以外はジャン・コクトーの「美女と野獣」を連想させるような廃墟そのままなのである。そこにまさにコクトーの映画の撮影監督(director of photography)であったアンリ・アレカン(Henry Alekan)が照明デザイナーとして、スチール写真は超売れっ子のファッション系のカメラマン、ピーター・リンドバーグ( Peter Lindberg)、そこに当時まったくの無名であるオノ セイゲンが音楽を、その場所、空間に合わせて作曲するという、今考えれば夢のようなプロジェクトである。(Light: Henry Alekan, Music: Seigen Ono, Photo: Peter Lindberg)

 そして、そのプロジェクトのためにミラノに滞在していたオノが作った音楽が、この『ベルリナー・ナハト/オノ セイゲン』の「パート1~4」及び、アルバム『バー・デル・マタトイオ/オノ セイゲン』に収録されている「ジェノヴァ(Genova) 」と「イッツ・ソー・ファー・トウ・ゴー(It's So Far to Go) 」である。今回、『ベルリナー・ナハト/オノ セイゲン』には、2011年7月、新たにトラック1「ベルリナー・ナハト・メモリーズ」トラック6「ベルリナー・ナハト・リフレイン」が、ミキシングされ付け加えられて、ようやく完全なアルバムとなった。また「パート1~4」も最新のDSD技術により、まったく新たなリミックスであるかのような、ダイナミックレンジ及びアナログ真空管のあたたかみが感じられる。

 オノの音楽は、基本的にジャズをベースにしたミュージシャンのアンサンブルをベースにしているが、本アルバムは、たった1本の12弦ギターを重ねて作られている。スイスのスチューダー社製、2インチのマスターレコーダーの速度を半分にしたり2倍にしたりするという離れ業を意図も簡単にやってのけている。よって、他のアルバムでは使用されるシンセサイザーやサンプラーも一切使用していない。音響系、ノイズ系というジャンルがあるが、これぞまさに音の実験室と、オノのギターによるエモーショナルなパフォーマンスが産み出した傑作である。