Interview with Yo La Tengo ヨ・ラ・テンゴ 〜情熱や探究心なんて簡単に持続できる〜
2013.01.18
-アルバム『フェイド』を聴かせていただきました。音楽的にはいくつかの表情を持ちながらも、非常にシンプルな構成とストレートなメロディの楽曲が多いのが印象的でした。最近のアルバムの中では、非常にまとまりのある1枚ではないかと感じています。
アイラ: そうですね、今回決めていたのは、前作よりも短くコンパクトにするということでした。じつは、このコンセプトというのは過去に何度も挑戦してきたのですが、前回の『ポピュラーソング』ではそれがあまりうまく行きませんでした。今回はそれがすごく成功して、あなたが言ってくれたような「シンプル」「ストレート」というのは、まさにそういった部分なんだと思います。最後まで聞いても、最初の曲を覚えている。そんなアルバムになったと思っています。いつものように、制作する時は具体的なプランを決めずにやっているので、今日は早い曲を演奏しようとか、明日は遅い曲を、といった決めごとは一切せずに作りましたね。
-今まではアルバムの中で必ず長尺のトラックがキーになっていることが多かったと思うのですが、何故、意図的にコンパクトな収まりを意識したのか教えてください。
ジョージア: おそらく、尺を短くするということはアルバム全体をストレートに、シンプルに、もっと単純に人々に伝えたいという想いから来るものだと思うわ。私たちが意識したのは、曲単体というよりはアルバム全体のこと。前作では「グリッターソング」のような長い曲がいくつかあったけど、あれも本当はもっともっと長い曲だったのよ。例えば、「ビフォア・ウィー・ラン」に関しては、短くしようと思っても、自分たちにとっては長い尺の方がしっくりきたので短くできなかった。曲単位で言えば、本当に私たち自身が満足いく尺で収録することにしているんだけど、今回レコーディングした楽曲の中にはもっと長い曲がいくつかあったのよ。だけど、今回の目的を考えてそれらを外すことに決めたわ。
-アルバムのタイトル『Fade』は、ネガティブな要素が思い浮かぶ言葉ですよね。このタイトルにはどういう意味が込められているのでしょうか?
アイラ: この質問に関しては答えを明かさないと決めているんです。少しだけ説明すると、この言葉が出てきた時にはグループみんなが気に入ったということ。色々な意味合いがあって、色々な受け取り方ができると思うんですけど、人生とはそういうものだと思っていて、何事にも良い面と悪い面がある。"Fade"という言葉もそのひとつなんじゃないかな、というところで置いておきます。
-昨日の質問にもあったのですが、今回のアルバムはジョン・マッケンタイアーをプロデューサーとして迎えて制作したということですが、どういう経緯で彼を選んだのでしょうか。
アイラ: はっきりと覚えてないくらい自然な成り行きで決まったんです。じつはジョンとは長い間友人関係にあって、ある日突然ジャームズがジョンとやりたいというアイデアを提案してきたんです。私たちは20年間、ロジャーと一緒にアルバムを作ってきたわけですが、じつは毎回誰にしようかと考えているんですよ。
-彼の優れている点、あるいは彼の影響がアルバムで最も表れている点はどこでしょうか?
ジョージア: 一番大きな変化は技術的な面で、ジョンはエンジニアとしてすごくきちっとしていて、音のそれぞれのパーツを個々にレコーディングする性質を持っているの。今までの私たちのやり方というのは、色んなことにチャレンジしてみようというチャレンジ精神旺盛なレコーディング手法だった。どちらかというと、常に同じスタジオで方法だけを変えてレコーディングをしてきたから、技術的には自分たちで色々と工夫してやるほかになかったのよ。
アイラ: そうですね。ヘッドフォンも付けずにマイクを何時間もかけて調整して、いざレコーディングしようといって弾いてみたら、曲自体はすごく良かったのに、マイクの配置がすごく悪くて何度もやり直しをしたり。聴く側にとって良いアルバムにしたいから、自分たちもロジャーも慣れるのに時間が掛かったり、作り込みに時間がかかったり、非常に長いプロセスが必要でした。それが今回、ジョンが最もやりやすいように彼のスタジオに行ってレコーディングをしたので、そういった意味で、レコーディング自体が非常にコンパクトになったというのは大きな変化でした。
-デビューから30年近く経つと思うのですが、音楽的な好奇心や探究心を維持できずに解散するバンドはたくさんいると思います。その中で、あなたたちのように長く続いているバンドが探究心を失わず続いている理由は何でしょうか?
ジョージア: 分かんないわね。すごく小さなグループで、私たちは夫婦で、ジェームズはすごくいい友達。基本的には、みんなで一緒にいるのが大好きなんですよ。だから一緒に音楽をやるのも楽しい。そういうことじゃないかしら?
アイラ: 最初の質問に戻るのですが、ここに来ていつものような編成でライブをやっても良かったんですけど、今回に関してはアルバムのリリース前だし、もっと違うチャレンジをしたくて昨日のようなライブをしてみたんです。そこに通訳を入れるにしても、1人ではなく3人入れて、それも面白おかしくやってみたりすることも大事で。つまり、自分たちで普段とは違うことや楽しいことを考えること自体が基本的に好きだし、そういう意味では情熱や探究心なんて簡単に持続できてしまうものなんですよ。常に面白いことを考えるように、あれこれやってみて努力するだけですね。