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フォトグラファー水谷太郎が初となる個展「New Journal」を開催!

2013.10.31

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「New Journal」という言葉の真意とは......?

永戸: それで、今回の個展のタイトル「New Journal」という言葉もおもしろいなあと思ってるんです。

水谷: うんうん。

永戸: 実はそれが次の質問なんですけど。「Journal」という言葉は、大体「報道」、「新聞」、「雑誌」などの定期的な情報や出版物みたいなものを指すんですけど。もう少し調べてみると、コンピューターのファイルの変更履歴とか格納領域みたいな意味もあるんですよ。

水谷: そうなんだ(笑)。それは知らなかったですね。

永戸: おそらくは更新していくという部分に、「Journal」という言葉のポイントがあるってことなんだと思うんですね。

水谷: はい。

永戸: そういった、新しいジャンル感、みたいなネーミングがキュレーター・編集者である後藤さんの真骨頂だとも思うんです。

水谷: そうですね。

永戸: その前になんか、何とかワイルドネスみたいな案もなかった?

水谷: ありました。「New Wildness(ウィルダネス)」みたいな。新しい野生とか新しい自然みたいな。そういうところからスタートした言葉ではありますね。

永戸: だけども、「Journal」は自然も含む訳じゃないですか。結局そこにはファッションも、アートも、自然も、全部「Journal」だって言い切っているのかなと。そしてそこに「New」って言葉を付けることで、さらに抽象的に見えるというか、テキストではなく図案だったり画像でイメージできるところに持っていこうとしたんだと思うんです。

水谷: そうですね。まさに、そういうことだとは思うんです。自分の意識としては「Journal」という言葉の捉え方としては、私的な「日記」みたいな言葉のニュアンスもあると思うんです。「New Journal」だから新しい日記。自分自身の環境や状況から見えてくる被写体、瞬発的につかむ時代性というか目線からでもいいのかなって感じました。タイトルに関しては、後藤さんとの話し合いの中で気に入ったというのはもちろんなんですが、これまでの写真史を振り返っても、今のスピード感ってすごく早くなっている時代だと思うんですね。

永戸: うん。

水谷: 例えば、ある写真作家が10年20年同じテーマで根を詰めて撮った作品の力っていうのは、普遍的な良さがあると思うんですけど、今は世界的に見ても、もっとフットワークの軽い作品がたくさんありますよね。ZINEのブームみたいなものも、もしかしたらそういうところと関連があるように思うんです。フェイスブックとかインスタグラムみたいなものがあって、写真がその場でどんどん共有されて「いいね!」ってシェアし合う。そういうスピード感で写真が扱われてく時代の中で、写真家も今だからこそどういう表現がおもしろいのかみたいなことを考えられたらいいなと思うんです。

永戸: なるほど。じゃあ今回の個展は、従来の展示方法だけど、込めた思いは今までの展示からはちょっと違う方向性を模索し始めているということ?

水谷: というところはかなりありますね。今の自分を考えた上でのは。

永戸: で、前回の「流行写真」をやってからこの展示までって、けっこう早かったと思うんだけど。

水谷: 早かったです。もう「流行写真」が終わって1ヶ月後ぐらいに今回のお話しがあったので。

永戸: なるほど~。ということは、1人抜け出たわけだ。

水谷: そういう意味ではとらえてないですよ(笑)。「流行写真」の展示をきっかけに得るものも多かったですが、同時にあぶり出された事も多かった。つまりは作家宣言なんてできないし、する必要もない。単純にここから自分でどうするかっていうことを明確にビジョンとして持ってなきゃだめだなと思ったんです。

永戸: 「流行写真」の後の打ち上げで、僕は太郎くんの写真を"上質なストックフォト"という言葉を使って評したんだけど。多分、太郎くんって何を撮っても絶対に重くならないっていうか、重厚な写真は撮れないし、撮らないなと。誰が撮っても重くなってしまう被写体があったとしても、太郎くんだとライトに撮ってしまう特殊な人のような気がするんだよね。どんなに踏み込んでも、ストックフォトはストックフォトだろうって言われてしまうような軽さの部分と、太郎くんの写真がちょっとつながるように感じられて。作家なのにストックフォト的というか、そのあり得ない組み合わせが、実はちょっと新しいおもしろさだなって僕は感じているんです。

水谷: 永戸さんらしい解釈(笑)。

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永戸: で、その大衆性というか、ある種の軽さの部分がファッション性なのか、もしくは今の時代の画像や写真の扱い方とかにも似ている気がして。太郎くんは自分自身の写真をどういう写真だと思っているのかな?

水谷: そういう意味では、やっぱり自分はファッション・フォトグラファーなんだろうなっていうのはすごく思いますね。この先にどう思っていくのかは分からないですけど、現時点ではやっぱり商業写真家だしファッション・フォトグラファーだなっていうことを「流行写真」のときにも再確認したし、だから今回は自信とか自覚を持って、何ができるのかを考えられたと思います。永戸さんに"上質なストックフォト"って言われたときに、どこかでショックだったんですね。でもよく考えてみれば自分の写真は今まで、求め求められるクライアントとの関係で生まれてきたもので、自己表現ではあるけれど、依頼があるなかで成立させていくでしたし。

永戸: うんうん。

水谷: そう考えたら、その"上質なストックフォト"っていう言い方は、もしかしたらすごいポジティブな言い方なのかもしれないなって、自分で消化しちゃったところはありますね。

永戸: そうだね。「流行写真」という言葉の提案と一緒で、一周半まわって、ポジティブな意味合いでとってもらえればいいかなと(笑)。

水谷: 大衆性とか時代性みたいなものは、写真家が捉えるべき対象であるっていうのは間違いないし、それが写真作家であろうとファッション・フォトグラファーであろうと、同じ時代性をくみ取るっていうことに関しては、とても写真的なことであると思うんです。

永戸: 重厚さや、文学のような写真と、片やペラペラな画像で日々撮って捨てられていくような、インスタグラムやプリクラみたいな画像も、同じ時代の画像としてあるわけで......。

水谷: ジャパニーズフォトは海外からすごく評価されていると思うんですけど思うんです。ニューヨークとかヨーロッパの写真のシーンを見ていると、既存の概念を壊したおもしろいことをやっている人たちがいるし評価されはじめているし、そういう人たちの受け皿もある。この先、日本もそうなってくれば、ギャラリーとかメディアの中で、もっとやれることがあるだろうなって感じていたりもしますね。雑誌に出るファッション写真はより写真的なものを欲しているし、ギャラリーに並ぶ写真は強い同時代性やスピード感やストリート感を欲していると思います。

永戸: なるほど。ギャラリーに所属したいと思っている若い作家よりも、ファッション写真家を志してる人の方が未来があるかもしれない、と?

水谷: って、そんな大それたこと言ったら、ちょっと大変なことになるんですけどね(笑)。でも世界を見てみると、日本でも有名なライアン・マッギンリー、ティム・バーバーやアレックス・ソスしかり、多角的で早い印象がまずありますよね。

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