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「そして父になる」公開記念インタビュー そして映画になる 是枝裕和のクリエイション

2013.09.24

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「最後にして最大の独身男」福山雅治が父親役に。しかも、監督は『誰も知らない』などで国際的な評価も高い是枝裕和----。先のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した様子が各局のニュースを賑わせたことも記憶に新しい映画『そして父になる』が9月28日からいよいよ公開となる。公開を間近に控え、国内はもとより海外でのキャンペーンにも奔走する超多忙な是枝監督に話を聞くことができた。が、取材スタッフに与えられた時間は撮影込みで20分。インタビューは正味15分だ。というわけで、「福山さんの印象は?」とか「カンヌでの反響は?」みたいな「それ、プレスシートに全部書いてあるよ!」という質問はすっ飛ばして、「是枝裕和のクリエイション」についてのみ質問を集約させた。濃縮版で、是枝監督の創作の秘密に迫る!

Text&interview_Shin Sakurai
Photo_Shota Matsumoto
Edit_Ryo Komuta

一流大学を出て、大手企業に勤務する良多(福山)は、ホテルのような高級マンションに妻(尾野真千子)と子の3人で暮らす、欲しいものをすべて手に入れたような男だ。ところが、6歳になる息子の慶多は、出産後、病院で取り違えられた他人の子だったことがわかる。6年間、子どもと過ごした時間をなかったことにして血のつながった子どもと交換するのか、それとも----。

数々の名CМの撮影でも知られる写真家・瀧本幹也が初の劇場長編映画の撮影を手掛けたことでも話題の本作は、静謐な画面の中で、夫、妻、子、それぞれの立場の苦悩やよろこびが多面的に描かれ、「家族とは血のつながりなのか、それとも共に過ごした時間の記憶なのか」という問いを観る者に突きつける。クスッとした笑いがあり、グッとくるシーンがあり、そして自分の人生に置き換え、深く考えさせられる。これまで、さまざまな形の親子、家族を描いてきた是枝監督の集大成にして、新たな一歩をしるす傑作となった。
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男を魅力的に撮りたかった。

-最新作『そして父になる』は、カンヌで審査員賞を受賞されたこともあって、鬼のような数の取材を受けられていると思いますが。

是枝裕和氏(以下是枝/敬称略): 鬼、ですね(笑)。

-お疲れだとは思いますが、なるべく同じような質問はしないつもりなのでよろしくお願いします。

是枝: 大丈夫です。よろしくお願いします。

-今回、写真家の瀧本幹也さんが撮影監督を務めていますが、撮影が本当にすばらしいな、と。

是枝: ぼくもそう思います。

-瀧本さんとは事前にかなり打ち合わせをされたんでしょうか。たとえば、画面のトーンであるとかフレーミングであるとか。

是枝: まず、瀧本さんにオファーした直接のきっかけがダイワハウスのCMだったので...。

-あ、やっぱりそうですか! 深津絵里さんとリリー・フランキーさんの。

是枝: そう。あれがすばらしくて。ちょうどカメラマンを探していたときにたまたま『開運!なんでも鑑定団』の合間にあのCМを見て、これ撮ったの誰だろうと思って調べたら瀧本さんだった。

-瀧本さんは以前、是枝監督の『空気人形』でスチル写真を撮られていますよね。

是枝: 瀧本さんが撮るスチルの強さは身に染みて知っていたんですが、あのCМを見て、これは長編も撮れるカメラマンだ、と。瀧本さんは絶対映画をやる気だなと思って連絡をしたら、ぜひということだったので、そこからのスタートですね。最初に「移動撮影でやりますよね」という確認をしたところ、「今はそういうスタイルでやっています」ということだったので、撮影の基本スタイルはすんなり決まりました。 あと伝えたのは、「今回は男を魅力的に撮りたい。福山さんを色っぽく撮りたい」ということと、「暖かいか冷たいかで言えば冷たい、クールな画にしたい」「都会的なフレーミングで」ということくらいでしょうか。 あ、それと、映画の内容はぜんぜん違いますけど、エリック・ロメールの『満月の夜』のDVDを渡したんじゃなかったかな。

-ほう。普段、撮影の方に参考資料として映像作品を渡したりされるんですか?

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是枝: 普段はあまりしないんですけど、今回、瀧本さんも長編映画を撮るのははじめてだったし、「画面のトーンとかで参考にしたほうがいいものはありますか」と聞かれたような気がします。「ダイワハウスです!」と答えたんですけど(笑)、「ああ、あのトーンですね、わかりました。でも、参考までにもし何か他に観たほうがいいものがあれば」と聞かれたような気がします。

-なるほど、ロメールですか。

是枝: 映画としては全然違うんですけど、フランス映画だなと思ったんですね。それは福山雅治という人がそう思わせたというか。おもに街の切り取り方とか、そういう部分なんですけどね。 あと、絵コンテは描かなくてもそれで撮れるんだったら描かなくていいですよと言ったら、CМは必ず絵コンテがあるから参考にする上でもあったほうがいいということだったので、ぼくがコンテを描いて「このシーンはこんなカットで」というイメージは伝えました。ただ、現場で俳優の芝居を見て、この位置から撮るとか、レンズは何にする、ということは瀧本さんにお任せしています。

-前半はウディ・アレンの『インテリア』を思わせるようなダークかつクールなトーンで撮っていて、終わりに向かうと日が射してくる、というあたりも見事に作品のテーマと符合していました。

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是枝: うん、それは瀧本さんの読みが素晴らしかったんだと思います。最後、親子が植木を挟んで歩くシーンは、なかなか日が射さなくて。撮影時間は押してるんだけど、瀧本さんは絶対にカメラを回そうとしない。ぼくはあまり急かしたくなかったんですけど、助監督が「このままだと撮り切れませんよ」と言うので、「瀧本さん、とりあえず1回、カメラ回しませんか」と言ったら、「日が射すまで待ちます」と。1時間くらい待って、もう一度聞いたら、まだ「待ちます」と言うんですね。二度言われたら、これはとことん待つしかないなと思っていたら、ようやく日が射してきた。あのシーンは瀧本さんの中で全体のバランスとしてどうしても日射しが必要だったんでしょうね。今思えば、待って正解だったと思いますけど。

-取り違いをされた2人の子ども、慶多と琉晴の生まれた日が「沖縄みたいに暑い日だった」というセリフがあったので、ラストは「この日が2人の本当のバースデイになる」というイメージなのかなと勝手に想像していたんですが。だから、どうしても日差しが必要だった、と。

是枝: ああ、それは今言われてそう思いました。なるほど、それはいい解釈ですね。今度使わせてもらおう(笑)。

-それから、今回、グレン・グールドによるバッハの「ゴールドベルク変奏曲」が印象的に使われていますが、このアイデアはどこから?

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是枝: 脚本を書いてロケハンがはじまったくらいの時、交換した子どもを乗せた黒い車が北関東の鉄塔と送電線がある風景の中をスーッと走る、そのロングショットでピアノ曲が入る、というイメージを最初に考えたんです。本編で音楽が入るタイミングはちょっと違うんですけど、音楽なのか音楽じゃないのか分からないくらいの感じで、ポロン、ポロンと間隔を空けて聴こえるピアノの音のイメージだけは最初からありました。いつも脚本を書いている段階で、具体的な音楽というより、「どんな楽器なのか」はほぼ決まっていますね。

-たとえば、『歩いても歩いても』だったら、「これはゴンチチのウクレレだ」とか。

是枝: 「ゴンチチさんで」という風に決めていたわけではなくて、まず「この話はウクレレだな」というところから始まるんです。そこから、いろんなウクレレの曲を集めて聴きながら脚本を書いていました。

-ああ、音色から入る、と。

是枝: そうなんです。グールドは、20年くらい前、テレビのドキュメンタリーで一度使ったことがあって、それ以降、何枚か買って持っていたんです。今回、ピアノ曲をいろいろ当ててみた中で、いちばんしっくりくるのがグールドだった。ただ、最初は本物は使えないということだったので、「グールドみたいな音」にしようと思っていたんですけど(笑)、結果的に許可が下りたので良かったですね。

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