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服の求道者たち ~「É」の系譜~ 第一回:SUN/kakke デザイナー 尾崎雄飛

2013.02.01

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どこを見ても「これすげぇな」って思って欲しい。(尾崎)

中室: ていうかさ。俺、尾崎に初めて会ったときはバイヤーだしさ。ここまでものづくりをする人だとは思わなかったのよ。で、〈フィルメランジェ〉を見て、なるほどカットソーっていう素材を料理するのがうまい人だったのかと。あとはパッケージのデザインもできるのねと。でも〈サンカッケー〉を見たときに、それだけじゃないなって思ったんだよね。本当に普通にデザイナーとして、できる人だったんだなと。

尾崎: ほぉ。

中室: やっぱり仕入れって、編集作業っていうか。どんなブランドを組み合わせて売り場を作るのか、っていうことを考えながら動くわけで。1を2にして、さらに10にする仕事なのかなって。でも、デザイナーって、0から1なわけじゃないですか。その辺の能力があったんだなって。昔、一緒にやってた「É」って、当時は他のお店にはないちょっと突飛な洋服を仕入れてたじゃない? 業界受けはするけど、エンドユーザーにとってはそれほどでもないのかなみたいな。で、〈サンカッケー〉を見たときに、それと同じ匂いを感じて。本当にこれちゃんと売れていくのかなっていう不安はあったんだよね。いや、ものはもちろんいいんだけどね。そのへんはどう考えてるの?

尾崎: まぁ、〈サンカッケー〉というか、〈フィルメランジェ〉の時から、自分という人間はあんまり変わってないんだけどね。一番大切にしてるのは、ファッションのアーティスティックな部分や楽しさを表現して、着た人を高揚させてくれるような洋服を作り出す人でいたいというか。ただ〈フィルメランジェ〉を始める時に思ったのは、2007年当時の常識、例えば「ファストファッションが勢いあるよ」とか「プライスが小馴れてないと売れないよ」とかそういうものに一切迎合しないでいこうって思ったの。だから「こんな値段じゃ売れないよ」って、たくさんの人に言われたし。でもだからこそ、これでいこうって思ったっていうか。

中室: わりと天の邪鬼的な(笑)。

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尾崎: 僕がバイヤー時代の師匠から教わったのは「100人いたら、自分と同じ趣味の人は必ず1人はいるって思ってやればいいんだよって」。マジっすか、99人は無視していいんですか、っていう(笑)。でも、1人は絶対いるって考えたら、例えば10000人の中では100人。その100人に見合う数だけオーダーすれば、100%消化ってことでしょっていう教えだったんだよね。〈フランク リーダー(FRANK LEDER)〉とか、今でこそ色んなところで買えるけど、当時はその師匠しか仕入れてなくて。フランクも僕らのお店のためだけに作ってくれたりしたしね。

中室: そうだったね。

尾崎: もちろんその教え全部が正しいとは思わなかったけど、すごく希望のある話だなって思って、ずっと心に残ってるんだよね。だから、〈フィルメランジェ〉を始める時に思ったときは、この服は10000人に売るものではなくて、100人に売るものだし、彼らが着たくなるようなもの、たとえばカットソーだったら、究極のカットソーと言われるものを作れば、数は少ないにしろ絶対売れるんじゃないかなって。でも、いまや本当に多くの人に受け入れてもらえて。僕にとっては、7000円のTシャツ、30000円のパーカを、ちょっと飲み代を我慢してでも買ってくれる人がこんなにもいるんだなっていうのは、すごく発見だったのね。そんな人はそうそういないと思って、ちょっと拗ねて斜に構えて始めたのに。

中室: なるほどねー。

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FROM 2013 SPRING SUMMER LOOK BOOK

尾崎: あと、初めの頃は、取引先のお店を全部回って対面で話をしてたの。で、全国津々浦々行ってたんだけど、そこでわかったのは、やっぱり洋服好きは確実にいるなってこと。もう狂ったみたいに洋服に情熱を注いでる人。100人いたら、1人っていう割合ぐらいは、絶対いるなって。だから、〈サンカッケー〉を始めたときも同じことで。

中室: ようやく〈サンカッケー〉の話に(笑)。

尾崎: でも〈フィルメランジェ〉を始めたときには見えてなかった、その1人の洋服好きが、今は見えてるし、知ってるっていうのが違うよね。きっとあの人ならわかってくれて、欲しくなるだろうっていうものを作ってる。ちなみに、〈サンカッケー〉のアイテムがカットソーメインではないっていうのは、やっぱり〈フィルメランジェ〉があるからです。

中室: 〈サンカッケー〉の中で、〈フィルメランジェ〉でいうカットソーみたいなアイテムはあるの?

尾崎: 自分的にはどれもかなり「仕上がってる」感じなんだけど、今のところお客さん的には、シャツなのかな。色んな人にいいって言ってもらえるし。

中室: あと、やっぱりこのシルクのタグがいいよね。橋本聡さん(編集部注:「モノクル(MONOCLE)」などで活躍されているイラストレーター)のイラスト。日本人でこのテイストってなかなか出せないよね。下げ札のお守りも凝ってるなー。こっちもシルク?

尾崎: これはレーヨン。でも、中に5円玉入ってるよ。

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中室: (笑)。でも、こういう自己満足の部分ってやっぱり惹かれるよね。正直ビジネス的なことを言えば、その分圧迫してくるのかもしれないけどさ。大事だよね、アイデンティティってさ。

尾崎: 結局言いたいことって、まさにそれでさ。ちなみに、このタグって50円くらいするのね。化繊で作れば、10分の1の値段で全然できるものなんだけど、こういう肌に触れるものでチクチクするのがいやだから、丁寧にやりたいんだよね。高いお金を出してくれる人には、どこを見ても「これすげぇな」って思って欲しいというか。ハイプライスである以上、そういうものでなければいけないと思ってる。

中室: でも、値段は確かに高いんだけど、そういう尾崎がやろうとしていることを認めてくれて、オーダーしてくれるお店がたくさんあるわけで。

尾崎: そうだね。そういう人たちって、バイイングに対して熱があると思うだよね。こういう高い服を売れる店にしたい、これが店にあったら変わるなっていうか。「正直売り方はわからないけど、お店にはどうしても欲しい」っていう声も頂くし。だから、最近は自分でお店で販売しに行くっていうことをしていて。去年も何回か行ってきたよ。お客さんと直接話して、バイヤーさんだけでは語れないことを伝えることができるので。

中室: へー。

尾崎: 例えば、このシャツは本体と、このチェーンステッチの工場が違うのね。ドレスシャツの工場と、カジュアルシャツの工場の持ってるミシンが違うんで、2つの工場で縫うことになるんだけど。洋服好きの人って、そういうことに食いついてくれたりするじゃない。そういうマニアックなコミュニケーションで洋服を買うっていうのも、いいのかなって。

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FROM 2013 SPRING SUMMER LOOK BOOK

中室: デザイナー本人がオタクだもんね。尾崎、オタクでしょ?(笑)

尾崎: オタクだよ。オタクだからこそ、ものが作れるって思ってるしね。でも、きちんとものを作って、きちんと高い値段で売ってるブランドって、意外と少ないんだよ。これは日本だからってことではなくて、世界中どこに行っても同じ。バイイングで廻ってて、すごく思う。ただ、海外のハイブランドとかは別で、やっぱりすごいもの作りをしてるね。

中室: ちなみに、今の仕事で〈サンカッケー〉の割合はどれくらいなの? 〈ペーパーチェスト(PAPER CHEST)〉のバイイングにはたくさんの時間を割いてもらってるし、(編集部注:中室氏は〈ペーパーチェスト〉のPRを担当)、〈アウトドアプロダクツ(OUTDOOR PRODUCTS)〉だとか、他にもいくつかデザイナーしてるもんね。

尾崎: まぁね。でも、〈サンカッケー〉のことを考えない日はないよ。やっぱり主体だし、当然。夢で考えたこととか、入れ込んでたりするぐらいだしね(笑)。

中室: マジで!? 俺、夢なんて起きた瞬間忘れてるよ。竜に乗ってたとか(笑)。

尾崎: そういうどうでもいいのはすぐ忘れるけどさ(笑)。まぁ、常に考えてるからだろうね。うなされている(笑)。

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