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for Good Living STUSSY Livin' GENERAL STOREが形成する、たおやかなライフスタイルを業界きっての識者三人が語り尽くす。
2014.02.03
柴田: ところで、最近ライフスタイルブームというか、そういうのが多いですよね。洋服屋に行っても生活の道具とか本が、並んでいる感じというか。
中原: うーん、確かにそういうオーダーが多いような気もしますが、自分の場合は洋服とそういう暮らしの部分を分けて考えたことが、あんまりなかったですね。家具を作ることから始まって、内装デザインをやったり、飲食をしてきたりしていますが、自分が年を取るごとに自然に増えてきている感じであって、あんまり無理してやっている感じはないんですよね。あとはさっきも言いましたけど、やろうと思った時にいいスタッフがいるかどうかっていうことですよね。
野村: いいですね、いいスタッフがたくさんいて。。僕なんて完璧に一人でやってるんで。まぁ、内装だけは3人でやってるんですが。雇おうかなって思ったこともあるんですけど、仕事の振り幅が大きすぎて全く付いてこれないって言われたりして。このまま一人で死ぬのかなって 笑。
中原: 僕は東京と鹿児島という二つの拠点で仕事をやっていて、東京はやっぱり自分の会社があって、雇ってるスタッフがいて、っていう感じなんですが、鹿児島はもっと個人的というか、自分のやりたいことに色々な人が集まってきてくれるんですよね。そういう意味ではわりと違う形なので、バランスはとれてるのかなって。
柴田: なるほど。訓市くんはこれからやりたいことって何かあるんですか?
野村: うーん、とにかく楽したい 笑。それに尽きますね。さっき中原さんが選んだ本の話を聞いて、いざ自分の選んだ本を見てみたら、現実逃避の本ばっかりだったんですよね 笑。
柴田: このマイク・ブロディ(Mike Brodie)の本はぜひ見て欲しいですね。今出てる『HUgE』にちょうど載ってます。
野村: そうなんです。この本のあとがきがすごくいい文章で、『HUgE』でページをもらって訳させてもらったんです。この子もさっきのジャック・ロンドンじゃないけど、ホーボーというか放浪していた人なんです。生活しながら写真を撮り続けて、それをWEBにアップして、それが大人気になって。"ポラロイド・キッド"っていう名前で活動していたんですが、ギャラリーがついた途端に、全部ブログとかも消して写真もやめちゃったんです。今はディーゼル機関車のメカニックをやってます。
柴田: あっ、やめたんだ!?
野村: うん。やめてる。だから、この本に載ってるのは2005、6年からの4年間ぐらいの写真ですね。これをたまたま見たときに、なんていうか逃げたくなったんですよね。自分もこういう生活をしていたはずなのに、今は何をやってるんだって。。画角とかも本当に素晴らしいんだけど、この本を見ると、マイクの写真を見ているというよりは、自分が楽しかったときのことを思い出してしまうんですよね。バックパッカーやってた頃とか。荷物なんか全然少なかったけど、すごく幸せだったなって。「今がだめなら、やめて次にいけばいい」ってよく人には言うんですけど、自分ではなかなかできなくなりつつあるので、"よい暮らし"って何なんだろう?って考えたときに、何かを捨ててみるのもいいのかなって思ったんです。
柴田: なるほど。
野村: そう。これはちょっと高いんですけど、蔦屋書店さんでも買えるので、ぜひ見てみて下さい。中を見てみると、一枚ぐらい自分が今まで友達と遊んできたときの瞬間に近い写真があると思うんですよ。ちょっと照れくさいけど、いいなぁっていうね。
柴田: でも、さっきのジャック・ロンドンとか、その前に話してた『Shelter』とかもそうだけど、もともとホーボーって西の文化だし、ビートとかにも繋がっていくのかなって。...って、強引にカリフォルニアに繋げようとしてますけど。
野村: いやいやそんなことないよ。あと、やっぱり無駄なものを持たないっていうのが、"よい暮らし"なのかなって僕は勝手に思ってるんですよね。シンプルだから長持ちするっていう考えはやっぱりいいなって。で、中原さんがイームズの本を挙げてたから、僕は(ジャン)プルーヴェを挙げてみたんですが。
柴田: お二人がそういう感じだったので、僕は「民藝」の本を選びました。
野村: 僕は内装の仕事もしているので思うことがあるんですが、デコラティブなものが好きじゃないので、シンプルにシンプルにって考えていくと、ここらへんの呪縛から逃げられないっていう。イームズにしろ、プルーヴェにしろ、元々は学校の学食とか、カフェテリアの椅子だったわけで。元々はどれくらいしたんですかね??
中原: うーん。でも、そんなに極端に安いっていうことはないと思うけどね。。
野村: でも、おそらく1万円とかそんなもんですよね。それが今となったら、プルーヴェとか100万とかそういう感じですもんね。
柴田: 元々、ものがあんまりなかった時代に、どうやったら安く使いやすいものが作れるかっていうところから生まれたものが、今はそういう状況になってるっていうのが面白いですよね。皮肉でもありますし。
野村: イームズに関しては、僕はスケボーをよくやっていたので、スケボーの板と同じプライウッドというか合板を曲げて作ってて、「あっ、スケボーと一緒だ!」って。それで好きになったのがきっかけでしたね。
中原: 一時期はゴミみたいな値段で扱われていたものが、今や博物館に入ってるっていう面白さもありますよね。
柴田: あと中原さんはドナルド・ジャッドの本も選んでますよね。知らない方もいるかもしれないので、簡単に説明してもらってもいいですか?
中原: ドナルド・ジャッドは、現代アーティストで、テイストとしてはミニマルアートでいいのかな? 建物だったり平面だったり色々なものを作っていた人なんですが、この人の家具の作品がすごく好きなんですよね。昔、マイケル・ボイド(MICHAEL BOYD)っていうヴィンテージファニチャーのコレクターがいまして、その人はイームズとかプルーヴェを死ぬほど持っていたんですが、その中にこのジャッドの作品がポツッとあって、それで初めて知ったんです。で、たまたま本屋で作品集をみて衝撃を受けて、自分が独立したときにテキサスのマーファにあるっていうアートヴィレッジを見に行ったんですよね。ただタイミングが早すぎて、半分ぐらいしかできてなかったんですが 笑。
野村: ジャッドは陸軍基地を払い下げか何かで手に入れて、そこをアトリエにして、オブジェとかをガンガン作ってたんですよね。



中原: そうそう。で、そのとき一番見たかった、ジャッドの暮らしぶりとかそういうのが全く見れなかったので、こないだ十何年越しに今度は自宅の方に行ったんです。
柴田: どうだったんですか?
中原: ものに引き出しがなくて、使うものが全部テーブルに並べられてるんですよ。鍋とかも全部。
野村: うーん、めちゃくちゃミニマルですね。。
中原: そう。必要なものだけを置いているんですよね。いや、本当にすごくよかった。
柴田: そういえば、ジャッドの家具をそのまま使って、ご飯が食べられるところがあるんですよね?
中原: 街の中にそういう公共のスペースがあって、そこにフードトラックみたいなのが来て、それで食べられるんです。あれは財団がお金を出してやってるんだと思うんですよね。他の国の人とかもたくさん来てるみたいでしたし。
柴田: それにしても、引き出しがないっていうのは面白いですね。逆にイームズでは、ちょっと前の『ブルータス』で岡本(仁)さんが担当した「イームズハウスはイームズホーム。」っていう特集で、引き出しの中から全部取ってくるみたいなことを紹介してましたもんね。対極ですよね。
野村: 全部出すと、余計なものを隠せないからいいんじゃないですかね。持ち物も減りそうというか。
柴田: ただ、「過剰なものはいらないよね」というようなムードの中、新たにものを作るのって難しくないですか?
中原: まぁ、逆のことだからね。。
柴田: 色々なものが出尽くしているように思える中で、さらにものを作って行く難しさというか。
野村: たまに騙してるのかなって思うようなことはありますよね 笑。もう十分揃ってるのに、これ変える必要あるのかな、なんて。突き詰めて考えてそういうことを思うようになってきたら、お酒飲んで忘れるようにしてますけど 笑。
柴田: そういう意味でいうと、今回のイベントでは、残ってきたものというか、残していけそうなものをみなさん選んでいる感じですね。
中原: そうですね。本もそうですけど、今回展示販売しているものは、5シーズン分の蓄積なので、今まで作ってきたものの集大成ではありますね。
野村: これから〈ステューシー リヴィン ジェネラル ストア〉で絶対作っていきたいと思ってるものはあるんですか?
中原: まぁ、お店はやっぱり作っていきたいなって思いますね。
野村: 今ちなみに、この辺にお店出したらいいなっていう場所ってあります? 僕もお店やんないの?ってよく言われるんですけど、いざ場所のこととかを考えると、全く想像がつかないんですよね。。
中原: 自分がお店をやるときは、場所から探しに行かないんですよ。なんかやるときは、出てくるだろうって思っていて。戦略的に考えるのが苦手なんですよね。
野村: でも、千駄ヶ谷に多いですよね?
中原: あれは本当にたまたまですね。コーヒー屋とかも、元々はタバコ屋ですし。
柴田: 訓市君は、〈ステューシー リヴィン ジェネラル ストア〉に作って欲しいものはありますか?
野村: 僕は今、現実逃避というか、逃げたい願望がすごくあるので、「逃げるグッズ」一式というか 笑。キャンプじゃないですけど。
柴田: なるほど。
野村: 昔は、ワーゲンバスを400ドルとかで買って、2ヶ月半ぐらいクルマに住んでたこともあります。汚いんで、モーテル行っても宿泊拒否されちゃうんですよね。長髪は御法度だ、なんて言われたりして。そんな感じでキャンプはしてたんですけど、いまやるならもうちょっとアップデートして、美味しいコーヒーを朝淹れて、みたいな。でも、ソファとか普通に見たいですけどね。一人掛けのとか。
柴田: あーいいですね。
野村: よく人間は三分の一は寝てるなんて言いますけど、さらに三分の一は座ってるんじゃないかって最近思っていて。僕なんて原稿書いてることが多いので、ひたすら座ってるんですよ。最近になって椅子への執着心が尋常じゃないなって思うんですよね。細かいことが気になっちゃって。
中原: なるほど。椅子、ソファ。作れるかな。。自分のところの新作も全然作ってないぐらいなんで 笑。
柴田: 確かにそうですね。でも、期待したいですね。ではそろそろお時間という感じなので、中原さん締めの言葉をお願いしてもいいですか?
中原: そろそろ〈ステューシー リヴィン ジェネラル ストア〉もお店を作ったりだとか、そういう次の展開に行く時なのかなと思っています。そこで、ものを選ぶ楽しさと、ものを使う楽しさを皆さんに感じてもらえたらいいと思いますね。
柴田: はい。今日はお二人ともどうもありがとうございました!
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