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Tailking about AS2OV 日本のバッグ業界を一変させた、熱き2人の男の物語。

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「使い勝手はどのブランドにも負けません(藤岡)」

-そんなこんなで、〈マスターピース〉は創業20周年を迎えました。そしてそろそろ〈アッソブ〉の話に移っていきます。どのような経緯があって新しい会社、新しい体制でブランドを始めることになったんですか?

冨士松: 〈マスターピース〉を始めたころは、環境はそんなに良くないながらも、2人で色々なことを話して、リサーチして、あーでもないこうでもないとやっていたんです。それが楽しくて。そのうちにブランドが大きくなってきて、人も増え始めて、そうなると当然数字をあげていなければいけないという使命感もありますし、自分が欲しいもの、作りたいものだけをやっていくわけにはいかなくなりますよね。

-それはそうですね。

冨士松: ものづくりにも色々な人の意見が入ってきましたし。それでよくなる部分もあったんですが、どうしても2人でやっていたときのような雰囲気は無くなっていきました。会議とかあるし 笑。

-笑。会議なんて堅苦しいと。

冨士松: 昔は以心伝心というか、なにも言わなくても分かり合ってたみたいなところがあったんですよ。改まって打ち合わせしよう、とか一切なかったんです。

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藤岡: 確かにそうでしたね。

冨士松: それが人が増えて、会議をするようになって、人数が多いゆえに、うまく伝わっていかない部分もあり。そういうのが少しずつストレスになってきたんです。商品もどうしても商業的になってきましたしね。色々なルールや制限が出てきて。今回はあんまり気が乗らないから、これしか作りません!とかはできないですよね。当たり前なんですけど。

-"商業的"という言葉が出ましたけど、それはつまりどういうことなんですか?

冨士松: 得意先が増えていくと、彼らの要望に応えていったりとか、そういうことって絶対にあるんですが、そういうことですかね。1年に2回展示会をやっていく上で、僕らも半年ごとにそんなに欲しいものがたくさん出てくるかっていうと、なかなか難しい部分もあるんですよね。

-なるほど。〈マスターピース〉の後期は、デザイン企画が何人ぐらいいたんですか?

藤岡: 冨士松さんがメインで、だいたい5人ぐらいですね。1シーズンで30型以上作ってたかもしれません。

冨士松: そういうものづくりに関してのストレスなどがあって、色々なことが希薄になってきたような気がしてきて。それで、もう自分でやるしかないのかな、って。

-藤岡さんは、冨士松さんのそうした決断に迷いなく付いていこうと?

藤岡: そうですね。でも、冨士松さんの話を聞く前から、自分でも色々考えてはいたんです。このままこの会社にいて、この先10年何ができているだろうと。自分に納得がいかないんじゃないかって。だから、冨士松さんからそういう話を聞いて「僕らでやりましょう」と、即答でしたね。

-〈マスターピース〉に残るっていう選択肢はなかったんですか?

藤岡: なかったですね。冨士松さんの話を聞かなくても、何か行動は起こしていたと思います。

-同じようなことを、同じようなタイミングで思っていたということで、やはりお二人には何か通じ合うものがあるんですね。

冨士松: 僕は漫才コンビだと思ってます。普段仲良く喋るわけでもないし。

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-そうなんですね。

冨士松: 上司と部下って感じでもなく、友達というか、兄弟というか、学校の先輩と後輩みたいな感じでやってたんですよ。営業に行くっていいながら色々見に行ったりとか。ただ、会社が大きくなるにつれ、徐々に「上司と部下」みたいな感じになってきたことに対して、お互いギャップがあったとは思います。昔は呑みにいったりもしましたけど、最近はあんまりないしね。大きい喧嘩をしたこともありますし。漫才コンビってそんな感じじゃないですか。

-そういうコンビも多いですよね。

冨士松: 普段からベタベタはしないけど、仕事はきっちりやる、みたいな。

藤岡: こうしてメディアに二人で出るのも、初めてですしね。

冨士松: そうだよな。お互い、「やめてやる! やめちまえ!」というのを腹に抱えてやってたときもありましたけど、そういうのも乗り越えて。

-〈マスターピース〉からは、この〈アッソブ〉チームに何人来たんですか?

冨士松: 5人です。

-〈マスターピース〉ではできなかったことを、この〈アッソブ〉にぶつけた感じですか?

冨士松: まぁ、そうですね。全部が全部そういうことができているわけではないですけど、好きなものを作ってはいますね。やらなくてもいいものはやってないですし。


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EXCLUSIVE BALLISTIC NYLON BACK-PACK ¥24,840
ベース生地にはインビスタ社のCORDURA Ballistic®ナイロンを使用。〈アッソブ〉が別注したこの生地はタテ糸に1000d、ヨコ糸に840dの66ナイロンで織っています。バリスティックナイロンというと、固くて強靭な生地をイメージしますが、バックパックに最適な、張りすぎず、柔らかすぎずのいい“アンバイ”なバリスティックナイロンになっています。表立ったデザインだけではない、バッグデザイナーがデザインする鞄は生地からデザインが始まります。もちろん、PCポケットや携帯ケースなどの機能面も充実のバックパックです。

-納得いくラインナップという感じですか?

冨士松: まだまだではありますけどね。

-〈マスターピース〉は鞄ブランドとしてはすごく大きい集合体になったと思うんですが、この先〈アッソブ〉はどういう方向性に進んでいくんでしょうか?

冨士松: とにかく大きくしていこう、ということはありませんね。〈マスターピース〉でやってきた中で、いいところもそうでないところも見えたので。ちょうどいい規模、人数でやりたいですね。

藤岡: そうですね。2人とも大きすぎる組織には、向いてないと思うんです。しんどいことがあっても、多くを語らなくてもわかりあえる人たちと、楽しく頑張る感じがいいというか。

冨士松: だから、〈マスターピース〉の初期のときに巻き戻していくような感覚はありますね。

-昔も今も変わらない、好きなバッグってありますか?

冨士松: リュックがやっぱり好きだよな?

藤岡: そうですね。自分で使うのもやっぱりリュックが多いですし。

冨士松: リュックがやっぱりデザインできる部分が多いんですよ。トートバッグとかだと、いじれるところが少ないというか。

-そういうものなんですね。

冨士松: 洋服でいうと、カットソーのデザインするか、アウターのデザインをするかの違いみたいなもので、この場合、アウターはリュック、カットソーはトートって感じですね。

藤岡: やっぱり、リュックは色々なものを詰め込みやすいし、落とし込みやすいですよね。バリエーションも作れるし。

-作りがいがあるという部分もあるんですかね?

冨士松: ありますね。作ってて楽しいです。見せ所というか、やり所も多いし。〈アッソブ〉でもリュックはかなり多いですよ。


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CORDURA DOBBY 305D BACK PACK ¥25,920
本体素材にはタテ・ヨコに305dの特殊ポリエステル糸を使用したCORDURA® 305d fabric を使用、摩擦・引き裂き・すり切れ等に対する強度を備えています。ドビー織機で織り上げていますのでオックス、ツイル織りでは 表現出来ない特徴的な生地目になっています。素材をオールブラックで統一しつつもニッケルメッキで仕上げたオリジナルの真鍮プレートがポイント。「オールブラックのバッグはマテリアルの良さが求められる」とはデザイナー氏談。

藤岡: このオールブラックのシリーズにおいては、8型中、5型がリュックです。

冨士松: アウトドアブランドとかだったらまた違うとは思うんですが、普通そんな比率でリュックばかり作らないですよ。〈マスターピース〉時代ではあり得なかったですね。

-昔と違って、色々な鞄ブランドが出てきた今、ここだけは負けないという点はどういうところだと思いますか?

藤岡: 使い勝手ですかね。日常で使うシーンを徹底的に考えていますし、ただのデザインということでポケットを付けたりすることはないですね。これは〈マスターピース〉のときからずっと変わりません。

冨士松: よくデザインチームの下の子に言ってたのが、「このポケットってなんの意味があるの? ただかっこいいというのだけじゃいかんよ」と。ファッション的なだけのデザインはダメだと。デザイン性と機能性の融合というのが、根本にあるので。それは今も同じですね。そのうまいところをとるのが難しいんですけどね。

-"ファッションアイテム"と日常的に使う"道具"の中間ぐらいのニュアンスですかね?

冨士松: そうですね。機能すらデザインに落とし込めたら一番いいですよね。ポケットの付き方が機能的でありながら、デザイン的にも美しいというか。

-そうなると、デザインのインスピレーションを、ある特定の映画とか写真集、時代に求めるということもなさそうですね。

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冨士松: 僕らはそういうのはないですね。やっぱり洋服とは違うので、そういう考え方でものを作ってないです。基本“ギア”的な部分がまずあるので、そこが第一優先。最初からそうした空想的なものが入り込むことはないですね。1つのシリーズとして、そういったイメージがあるのはいいと思うんですけどね。

藤岡: 普段の持ち物が変わってきましたよね。例えば、みんなスマホを持ってるし、PCを持ち歩く人も多いし、それならこういうポケットがいるんじゃないか、とかそういう発想の仕方ですよね。

冨士松: やっぱり僕ら、20年以上バッグのデザイン企画をやってるので、色々な素材や生産背景、資材をたくさん見てきました。工場を作ったこともありますしね。〈マスターピース〉って日本製のイメージがあると思いますが、初期には、海外で作ってたこともあります。なので、海外でのもの作りの経験もあるんです。ようはこういうものを作りたいなと思った時に、より“いい選択”ができるようになってきましたよね。昔はそこが苦手だったんですが、今はそれが強みですね。

藤岡: そうですね。経験値は高いと思いますね。

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