市之瀬智博にしかできないハイストリート
―立ち上げ当時は斬新だったハイストリートも随分と浸透してきたと思います。今ではフォロワー的なショップもできたりしてますが、今後はそこら辺のコンセプトについても変化が出てきたりするんでしょうか？
市之瀬：店もファッションも生モノだからね。いくら模倣した店やら人やらが出てきたとしても、俺にしかできないと思ってやってる。ただ停滞は退化だって考えだから、09年版のハイストリートを提唱していきたいよね。世界中から服を集めて並べました的な場所じゃなくて、もっとカルチャーというか骨格をキチンとさせたいっていうか......。着こなしの面では特に最初とブレてないと思う。難しいこと考えないで、その時に気になるアイテムを着ればいいやっていう感じ。
―瞬発力は大事にしてると思うんですが、実際のバイイングとかは依然として直感に頼る感じでやってるんですか？
市之瀬：能書きはいらないからね。海外に行く前に気になったブランドは少し下調べしていくことはあるけど、基本的に余計な情報は入れてかない。向こうの空気を一通り見たり感じたりする方が大事だったりするじゃん？でもリアルでありたいってのはあるよね。今で言うと店にある〈エメリカ〉とか並べてるのって向こうに行った時に、結構見かけたからっていうのもある。ぶっちゃけ本当に直感かも。例えば〈ジェレミー・スコット〉とかはストリートという範疇にモードを組み込んでるっていう感覚じゃん？ 色使いとか柄とかでゲイだなってのは感じるけど。理由は後付けで考えればいいよ。
―それはブランド云々とかトレンドとかは必要以上に意識しないってこと？
市之瀬：そうだね、うん。視点はストリートでいたいんだよ。テーマを聞かれるのとかは苦手。そんなもんないと思ってる。分かりやすい例でいうと、俺の中では蝶ネクタイするのってストリートじゃないから。〈アダムキメル〉とかでもコレクションにあったけど入れなかった。あれはパーティーだよ。もっとそんなんじゃなくて、なんか蝶ネクタイして地べたに座らないって思っちゃう。あれをストリートって言っちゃうとえげつないんじゃないかな。ジャケットとかは別にパーティー用じゃないからいいんだけど、鏡の前で蝶ネクタイを締めてる姿を想像すると何か違うなって。自分の中でのストリートのルールがあるのかもね。あと、最近はブランドっていうより、メーカーと組んでやっていきたいと考えてる。餅は餅屋じゃないけど、例えば〈ニューバランス〉とか〈ビッグジョン〉とか。
―昔から作為的なお洒落してます感が嫌いというか苦手だったというのも関係してるんですかね？
市之瀬：そうそう。普通でいいじゃんっていう感じ。このシャツにはこれ合わせてどうだこうだっていう過程を他人に感じ取られるのって恥ずかしくない？ そういうのって俺はダメかな。色々と考えてたら気絶しちゃうよ。それはそれで好きな人がいるのは否定しないけど、俺にはできない。お洒落を頑張りたくない。
―そういうのも含めた「時しらず」らしさってのは浸透してきた感覚はあります？
市之瀬：らしさって言われても何なんだろうね？ 気分でいいじゃん。何でもいいんだよ。俺なりのルールは変わらないから。まぁ俺がいなくても高畑がディレクターでやっていけるよ。基本は変わらないし。
規模縮小はマイナスイメージではない
―色々あって代官山の1店だけになりました。顧客などに対してはどんな思いを持ってますか？
市之瀬：お店のイメージを濃密にはできると思う。仕切り直せるしね。目の届く範囲でもう1度濃い時しらずを披露することは今まで以上にしやすいだろうね。ただ、やっぱ店舗は拡大していかないといけないと思う。そうじゃないと勝負できない。オープン当初の熱い時しらずが帰ってきたと思ってくれても嬉しいな。今回のはマイナスだけじゃないと思う。
―さっきバイイングに関しては直感みたいな話があったんですが、出店に関してもそうだったのでは？
市之瀬：まあ、勢いだねホント。入念なリサーチがどうとか、数字上でどうとか知らないし。
―そんなんだと周囲は大変なんじゃないでしょうか？
市之瀬：そうかも。俺なんて頭脳っていうか考えるのが主だからね。それを右腕やら左腕やら脚やらといった役割のスタッフが動いて助けてくれてるってのはある。
―なんか悪魔将軍みたいですね。
市之瀬：それは嫌だな、キン肉マンに出てくる正体が黄金のマスクのでしょ。ま、会社と話し合いながら店を守るってのも役割だから。好き勝手やってると思っている人間もいるかもしれない。でもやっぱ夢は持ってたいと思うから、そこはちゃんとしたいっていうのはあるよね。服を売る会社っていうのよりは服屋でいたい。だから「時しらず」みたいな業態の店がどんどん出てくればいいなぁと思うよね。本当に俺なんか勢いだけでここまで来たんだから。