今後のショップは格好いいスタッフがいることが大事

―ここからは今後の展望などをお伺いできればと思います。ここ最近のファッションにまつわる状況を栗野さんはどのように見ているのでしょう?

栗野:グローバル化と情報過多によって服の絶対数は増えましたが、着方というか、着こなしの幅という面は逆に減少しているようにも見えます。興味を持ったことを、直感やミーハー感覚で遊んでいくべきだと思っています。最近、サルトリアリストのブログをやっているスコット・シューマンと話をする機会が多いのですが、リアルピープルがいいよね、というのがお互いが共通するところです。彼がギリシャとかスペインのイナタイ地域に敢えて行くようにしているのもそういう要素が影響しているのではないでしょうか。

―セレクトショップと呼ばれる形態の店が主流となったファッションシーンですが、没個性になりがちな中で各店のどこを見るのがいいでしょう?

栗野:僕の場合、各ショップの打ち出しを見られるメインディスプレイは必ずチェックするようにしています。あとは販売員の格好ですね。彼らのノリやら立ち振る舞いからにじみ出るものは、その店の世界観や芸風を知る上でとても重要ですから。

―確かに、自分の目指す服装と販売員の方のスタイルがあまりに乖離していたら信頼関係は成り立ちにくいですよね。

栗野:販売員はメッセンジャーとしての自覚を持って店頭に立っているべきですよね。服を通して自分やショップの世界観を表現するスタッフの存在は重要。常々、洋服屋さんは友達紹介業だと言ってきましたが、根っこの部分はそういうことに集約されるのだと考えています。

―栗野さんが今、個人的に気になっているものを教えていただきたいです。

栗野:まず、タイドアップですね。僕のような職業は、毎日ネクタイを締める必要はないんですけど、自然としちゃうんです。しないと落ち着かないというか、やはり好きなんでしょうね。ここ1年で相当数のネクタイを買ったと思いますよ。特に〈フィオーリオ〉のものがお気に入りなんです。あとはダブルブレストの服や、〈エルメス〉のメンズが今は気になっています。

―最後に読者へのメッセージをお願いします。

栗野:例えば'初めてホヤを食べた人'は偉いって思うんですね。つまり固定概念に縛られる必要はないんですよ、と。トライを重ねることで豊かになるものですから、まずは着てみることが洋服にとっては大事。極論すると、服選びに失敗も成功もないんですよね。失敗と思うから失敗なのであって、本当に何が自分らしいかなんて分からないわけですから、色々なものを着られるチャンスだと思うようにしています。ファッションはあまり難しく考えず、まずは楽しむのが一番。僕はこれからも着道楽でいたいですし、皆さんも楽しくファッションと関わってくれればいいなと思います。

ファッション界のリビング・レジェンドである栗野さんのお話はいつ聞いてもためになります。若い世代の台頭が嬉しいと語られていたので、またの機会にそこらへんの話題もお伺いできればとお伝えしていこうと思います。

1234